17. 外出をしましょう
お久しぶりです。
さて、ルーナンが奴隷ファミリー入りして暫くが経った。どれくらい暫くかと言うと、まあ数日程度だ。明日、ファーガスが昇級試験的な依頼に向かうのである。
「と言う訳で外に行くわ」
目の前に並んだ奴隷達と爺に向かって宣言する。好奇心で目をきらきらさせる年下奴隷組に対し、爺とファーガスは何とも言えない目で私を見ていた。
「お嬢様、『と言う訳で』では理由になりません」
爺がまるで敬意を感じない声色で言う。いつの間にか爺の私への扱いが残念になっている気がするのだが、気のせいだろうか。きっとルーナンのせいだ。
「明日からファーグがいないでしょう、その前に外出しておこうと思って」
ちなみに屋敷からの馬車からの屋敷、そして屋敷までリターンのほぼドアトゥードアは私の中では外出ではない。
「貴族の令嬢たるもの、気軽に市井を歩き回るなど許されませんよ」
「まあ。わたくしのおかーさまとおとーさまが治める領地なのよ。治安なんて平和ボケするくらい良いに決まっているわ」
「お嬢様……」
私のマイディア両親の台詞は爺に全力で嘘だとばれた。
「冗談はさておき、何のための奴隷だと思っているのよ。私が自由に生活したいがための存在なの。その存在意義を失わせちゃいけないわ」
「初めて聞きましたが」
だって初めて言いました。
「いい加減この問答にも飽きたわ。どちらにしろ、ファーグにはディーとミアをギルド登録に行かせるつもりだったのだから、いい機会だわ。爺、あの魔鉄の引き取り手、目星はついているの?」
「……一人、心当たりがあります」
「まあ素敵。じゃあ行きましょう」
まだまだ不服がありそうな爺を着替えるからと追い出す。奴隷の皆さんは着替える必要がない程度の服装だし、私だけクローゼットという名の衣裳部屋に入り、庶民スタイルにさっさと着替えた。
ベージュやグレーといった地味な色合いの、安物の生地で仕立てさせたワンピースが私の庶民スタイルである。念のため目と髪色は魔法陣付きの帽子を被って変化させ、溢れ出そうだった宝石を売って作ったお金をポーチに入れれば完成である。庶民は化粧をすることなどほとんどないのだ。何て楽なのだろう。羨ましい。
浮いているか浮いていないかなんて現代ジャパン出身の私にはよく分からないが、生憎周囲の奴隷達が顔面偏差値高しなのでどちらにしろ目立つのだ。ということで諦めました。
「さあ、出発よ」
ばーんと衣裳部屋のドアを開け、やれやれと顔に書いてある奴隷達に告げるのであった。
ざわざわと大勢の人々の言葉が意味を持たず流れていく。道端では屋台や露店が軒を連ね、日用品から怪しげな雑貨まで様々な品物が並べられていた。少し歩けば人にぶつかりそうな人口密度は、熱を感じさせる。
「これぞ庶民の市場よね」
「イーラ、言葉に気を付けてください」
そう爺に注意されるが気にしない。ちなみにイーラとはお忍びをする時の偽名である。やっぱりお忍びといえば偽名でしょう。意味があるかは分からないけれど。
今ここにいるのはアンドリューと爺、そしてギルバートである。ファーガスはディメトリとミリアーナのギルド登録に行っている。
「イザベラ、面白いものが売っているよ。右手の裏路地だ」
髪の中に隠れているルーナンが小さな声で話し掛けてくる。こいつは偽名を使わない。どうせ他人に聞こえるような声量ではないし、別に構わないかなと思っている。
そのルーナンが言った裏路地に視線を向ければ、日蔭の当らない連中の市場と思わしき、怪しげな露店ばかりがあった。すっと身を翻し、裏路地に入ろうとすればすかさず爺に止められる。
「そちらはいけません」
「あら、私に指図するの」
「身の安全を保障しかねます」
「そんなこと、私の知った事ではないわ。私の身を守ることがギルバートの役目でしょう」
ちらりとギルバートに視線を移せば、神妙な顔で頷いた。
「私の行動を制限しなければならないほど、貴方は弱いのかしら」
「腕に自信はあるが、危険な真似はしない方がいい」
お忍び散策の時には、敬語を使わなくていいと指示してある。爺は安定の敬語のようだが。
「イーラ、言いにくいのですがこの領地は裏稼業の者が過ごしやすい土地なのでございます」
「まあ、私の両親が悪いと言っている様ね」
爺の顔が微かに歪む。
あの両親が管理する領地だ。残念ながら私だって信用はしていない。しかし、どんなに綺麗な場所でも裏側と言うものはあるのだ。
爺に聞いた話では、両親は領地の管理を“信用する”部下に任せていると。両親の言う信用するとは、少ないお金で成果を出す事だろう。あの妙なところでケチの両親だ。納められた税金の何割を領地の経営に回しているのやら。そんな両親を満足させるだけの部下なのだ。表だけを取り繕った“はりぼて領地”である可能性は十分に高い。
「どんな綺麗な街にも暗い部分はあるものだ」
ギルバートが爺を弁護するように口を開く。私は片方の眉を上げてみせた。ちなみに前世ではできなかった仕草である。調子に乗って連発しそうだ。巻き舌もできるようになった。しかしながら一応日本語での会話(仮定)のため使うシーンがありません。
「それなら、別にこの街が特別ってわけではないのね。じゃあ別に構わないじゃない。守ってみせなさい。それができなければ貴方の存在意義なんてないわ」
「……御意」
「ギルバート」
「俺は逆らえない」
そんな会話をする二人を見ないで、私はさっさと裏路地に入っていった。
裏の露店はほとんどの商人が顔を布やら仮面やらで隠し、異様な雰囲気だった。様々な怪しいとしか言えない品物に目を奪われつつ、さくさくと足を進める。
「左だ」
ルーナンが言ったところで足をとめ、左を見た。細く薄汚れた手足、汚い布で体を覆っているその男(多分)は、白髪であるところを見るとそこそこ年がいっているようだ。
「……しゃい」
ぼそりと吐き捨てるように男が言う。私は品物をじっくりと眺めた。水晶の様に透明な石と、古そうな巾着っぽいものが並んでいる。特にこれと言って面白そうなものはない。
「御主人、この石は何かしら」
「嬢ちゃんは知らねえか……これは魔石ってもんだ。魔力を注いで溜める。大昔、ポーションがまだ発明されてねえ時代には重宝したもんさ」
成程、充電池みたいなものか。手にとってくるくると見てみるが、ただの水晶にしか見えない。
というかポーションあるのね、この世界。魔力補給用だろう。
「溜めた魔力は他人でも使えるの?」
「ああ、昔はそんな商売もあったらしいがね」
それはいいことを聞いた。
次は襤褸切れのような巾着である。微かにカビと埃の匂いがする。じっくり眺めて見るが、ヒモの部分に金色があったかのような感じがある。ばふばふ軽く叩けば、たくさんの埃が舞った。軽く咳き込んだ後、じっくりみてみれば、解れてはいるが何か刺繍のような飾りがある。その図形には何やら意図を感じた。
確かに、これはなかなか面白そうだ。
「この石全部と、この巾着をもらえるかしら」
「……酔狂な嬢ちゃんだな。全部で5000ルピーだ」
ぼろい巾着と、魔石10個。相場は分からないけれど、高いのだろうか。先程見た屋台でサンドイッチのようなパンが200ルピーで売られていた。
「高いんじゃない。ぼろぼろの巾着と、今は使っていない魔石でしょう」
「だが嬢ちゃんは欲しいんだろう」
「きらきらして綺麗だもの、魔石は。巾着は袋の代わりよ」
「魔石だって安いもんじゃない。ままごとの道具が欲しいんなら、別なところで買いな」
ポーションがいくらだかは知らないが、魔石が使われなくなったということは魔石と同等かそれ以下か。自分の魔力を溜めなくていいと考えれば、もう少し高いかもしれない。
何より私は物価を知らない。
爺やギルバートは何も言わず背後に立っている。もう少し物価を見ておけばよかったなと思いながらも、何度かの外出でも割と言い値で買っていた事を思い出した。
「大昔の道具がどうしてそんなに高いのかしら?」
「今でも使っている奴はいるんじゃないか」
「では、他でも売っているというわけね。正式な売り場でもあるのかしら」
「……嬢ちゃん、買うか買わないかはっきりしてもらおうか」
じゃりっと背後で音がした。怪しいお店だもの、怪しい用心棒くらいいるだろう。ギルバートが腰の剣に手を掛ける。私はにんまりと笑って見せた。
「買うと言っているわ。ただし、2000ルピーにまけてもらえるのならね」
「おい、やっちまえ」
とありがちな展開が来るわけですよ。
そして当たり前の結果、ギルバート君の圧勝でした。
「なかなかの腕前のようね」
ぱちぱちとやる気のない拍手を惜しみなくギルバートに送る。私を真似してアンドリューも拍手をした。リアル千切っては投げを拝見できてよかったです、まる。いや千切ってはないけど。切り捨てていたけど
「イーラ、平民ながら騎士団に入ることができるのは確かな実力者のみなのです。これぐらい当然のことでしょう」
息を乱さずギルバートは軽く頭を下げる。その足元ではうんともすんとも言わないゴロツキA~Gさん。つんつんしてみれば爺にやめなさいと言われた。ちぇー。一緒につんつんしていたアンドリューとつまんないねーと言っておいた。
「あ、あんだってんだ、てめえら」
腰を抜かして椅子から落ちたらしい露店の商人が、M字開脚ででこちらを見上げていた。足を閉じろ。見ていて嬉しいもんじゃない。アンドリューの教育にも悪いじゃない。
「お客よ、お客。これを2000ルピーで売ってほしいと言っているの。別に泥棒でも何でもないわ」
「基本的に、魔道具の売買には免許がいるものです。その上、魔石は国営の店舗でなければ販売できない筈ですが」
爺が私を横目に見ながら言って来る。へーそんな規則があるのか。魔石が売っちゃいけないものかと思っていた。ぐぐっと悔しそうに少ない歯を食いしばる男に、私は知っていましたよアピールのためにははんと笑うのだった。
「2000ルピーよ」
そう言いながら2000ルピーを取り出し、男に差し出した。私と金、そして爺を見比べた。最終的に爺と金を見比べている。畜生この野郎。
私は泥棒ではない。ちゃんと代金を払って買おうとしているのだ。何故金を持っている私ではなく、爺で判断するのだ。
「……ちっ。持ってけ」
暫し考えた後、男は金を受け取って雑に魔石を詰めた巾着を押し付けてきた。私はそれを受け取り、中の魔石を数える。
「一つ少ないわ」
「ちっ」
再度舌打ちした男は袖に隠していた魔石を出すのであった。
「そんなところで何やってんだ?」
いい買い物をしたと満足しながら大通りに出れば、ばったりファーガス達と合流した。ミリアーナとディメトリは何やらペンダントを嬉しそうにくるくる回している。あれがギルドの証ってやつなのだろう。
「ちょっとお買い物よ」
「路地裏で、か」
「あら、素敵なお店がいっぱいあったわ」
魔石を一つ取り出して見せてみる。ファーガスが手に取ろうと手を伸ばしたが、ぴしゃりと叩いておいた。
「いてえ」
「駄目よ。私のもの」
「少しくらい見せてくれよ」
「お黙りなさい。ギルドの登録は済んだの?」
「ああ。何とかな。少し幼すぎるんじゃないかって聞かれたけど」
「そう、御苦労様。じゃあ、例のお店に行きましょうか」
爺に視線を移せば、やれやれと言わんばかりの溜息をいただきました。
爺の案内でぐるぐると道を歩いて行く。そして街の隅、人が閑散としている地域にそれはあった。歪な煙突が飛び出た、ぼろそうな小屋。辺りには何かを燃やしたような匂いが漂い、少し離れているここからでもとんてんかんという音が聞こえてくる。表札といった看板などはない。
「鍛冶屋、かしら」
「私が話をしてきます。少々お待ちください」
そう爺が言い、ぼろい小屋へ歩いて行った。暫くすると、小屋の扉が開き、爺が出てきた。どうやら話がついたようだ。私達も小屋へ向かう。とは言え、ぼろい小屋に大人数が入るスペースもなさそうなので、私だけ入ることになった。他の人達は外で待っている。
「お嬢様、こちら鍛冶職人のオットーと言う者です。見た目はあれですが、腕は確かでございます」
「はんっ。ここは鍛冶場だ。じょーちゃんの遊び場じゃねーんだよ」
「初めまして」
私はにこやかに挨拶をする。何事も第一印象は大事。
オットーと呼ばれた男は随分とずんぐりむっくりした男だった。身長は私よりも少し下であろう。丸い団子のような鼻、片目の上には大きな瘤がある。唇も分厚く、歯は何本か抜けているようだった。
「テレンス、いきなりきやがったと思いきや、じょーちゃんの遊び相手でも探しに来たのか」
「遠い様で近いですね」
「冗談だろ!?」
細い目をこれでもかと開き、オットーは頭を抱えた。どうやら随分と不躾な男のようだ。
「まあそんなところですわ。私の遊び相手を探していまして。ちなみに、玩具はこれですわ」
爺に目配せをすれば、大きな麻袋をがちゃんと置いた。もちろん、中身はあの魔鉄である。
「んだこりゃあ」
「見てくださいな」
にやっと笑ってみれば、胡散臭そうにオットーが袋を開いて中身を確認する。中を見たその瞬間、オットーの体は硬直した。暫く固まった後、わなわなと体が震えだす。がばりと視線をこちらに映したオットーの目は血走っていた。“やばい奴”な具合に。
「こ、これは……」
「魔鉄、というらしいのですが、ご存じかしら」
「……鍛冶屋で魔鉄を知らねえ奴はいねえよ」
それほど有名なものなのかと再確認した。私はつい最近まで知らなかったのだ。まあ鍛冶屋ではないのでいいだろう。貴族ですもの。
「ふうん。見た目で分かるものなのね」
「金属ってものは魔力の通り具合のいいものを品質がいいって言うもんだ。だから、俺らはまず金属を見れば魔力を通してみる。そんで自分でその素材を鑑定するってわけだ。触れなければ分からん。だがな、魔鉄は魔力を通さねえ。なんて言えばいいのか分からんが、空気が違うんだよ。魔力を帯びていないって言えばいいのか」
頭をぼりぼりと掻きながらオットーが言う。随分と判断基準というものが曖昧だ。私としては、剣など屋敷の護衛騎士(仮)の持っている格安量産品しか知らないので、良い剣など知らないのである。
「魔力を通す金属は魔力を帯びているものです。その魔力を求めて精霊が集うそうなのですが、魔鉄は逆に魔力を吸収します。そのため、精霊が寄りつかないとされているのです。精霊がいないことを空気が違うと鍛冶屋は感じているのではありませんか」
ありがとう、いい解説です(太○胃散風に)。
「めんどくせー理屈はいいんだよ! これをどこで手に入れたんだ!?」
迫りくる男に頭だけで距離を取りながら、溜息を吐く。
「入手ルートは明かせないわ。というよりも、これがどれだけ貴重か分かるでしょう?」
流石に拘束に使われていたなんて言えない。言ってもいいけど面倒臭い。魔鉄の貴重性について、私は知らなかったので知ったかぶりです、はい。
このオットーという男は爺の名前を知っていた。それなりに交流があるということだ。爺が私を連れてきたということは安全である、もしくは何かあっても対処できる程度の人物であると推測出来る。ある程度信頼がおけるとはいえ、情報はできるだけ明かすべきではない。明かしたところで出所は不安要素しかないのだ。
「魔鉄の流通量は少ない。それが何故だか知ってんのか」
「知らないわ」
前に爺が言っていたかもしれないが記憶にない。
「魔鉄の加工に魔法は使えん。それは採掘でも同じことだ。何事にも魔法を使うこの国じゃあ、魔鉄なんて使い道がねえんだよ」
「あら、まるでこの国の人間ではないようね」
オットーは歪に口端を上げる。どうやら笑みらしい。随分と笑い慣れていない男だ。
「俺の出身はこの国じゃねえよ。それはどうでもいい。で、こんなもんを見せつけて何の用だ」
「簡単な話よ。これを買い取ってくださらない? いいお値段で売れると聞いたのだけれど、目立つ行動はあまり好ましくないの」
「こんな怪しいやつ、簡単には売れねえだろうなあ。そこで、俺みてえな鍛冶屋にでも買いとらせようという魂胆かよ」
そう言いながら睨むように爺に視線を移すオットー。爺は何も言わず、ただ肩をすくめて見せた。
「申し訳ないのだけれど、私は貴方の事をほとんど知らないわ。この魔鉄の引き取り先を爺に見繕ってほしいと頼んだだけよ。文句は爺に言うべきね」
「ああ、だろうな」
「買い取れるか買い取れないかだけを聞かせて頂戴」
「……魔鉄はこの国じゃあ流通してねえ。だが、他の国だって数は少ない。その分、稀少価値だって上がるってもんだ。だから、俺はそれを買い取れるだけの金はねえ」
「まあ、そうよね。で、どうするつもりなの、爺」
失礼だけれどこんな小屋だもの、お金はなさそうだ。爺だってそれは知っていた筈。それでも私をここに連れてきたということは、何かしら策があるのだろう。
「買い取る金はないでしょうが、魔鉄を扱うだけの技術はあると思っておりますが、いかがですかオットー」
「んだよそういうことかよ。俺にその魔鉄を加工しろってことか」
私は首を傾げた。
「魔鉄を加工したことがあるのかしら」
「ねーよ」
即答である。
「しかしながら、この男は国有数の鍛冶屋だと私は思っております。魔鉄も加工できるでしょう。それに、魔鉄を加工してみたいと聞いたこともあります」
爺がそう言うと、オットーはぼりぼりと頭を掻き毟った。どうやら言った心当たりがあるようだ。なるほど、売るのは無理でも加工の依頼か。使えるのはファーガスくらいだろう。
爺は少々ファーガスに甘いように思える。
「まあいいわ。加工できる“かも”しれない程度でも、ね。無理なら塵になるだけだもの」
きらんとオットーの目が輝いた。魔鉄の加工をしてみたかったというのは嘘ではないのだろう。
何でもかんでも魔法を使っているこの国で、魔法を使わない加工はきっと難しいのだろうなと思う。前世でパソコンがなければレポートを書けない大学生の様なものだろう。あれ、少し違う気がする。
「おお、じゃあこれは預からせてもらうぞ」
「ちょっとお待ちなさい」
「な、なんだよ」
少し後ずさったオットーに対してびしっと指をさす。
「知っての通り私と貴方は初対面。いくら爺の知り合いとは言え、信頼するには無理よ。だから、担保を頂戴」
「た、担保!?」
「希少な魔鉄を預けるのよ、今ここにある品のなかで一番高価なものをよこしなさい」
にっこり笑顔をプレゼントしてあげる。
オットーはひくひくと分厚い唇を引きつらせて縋る様に爺を見るが、爺は諦めろと言わんばかりに首を振るのだった。
お読みくださりありがとうございました。




