7歳までは幼女だから(震え声)
寒さに目が覚める、朝特有の気だるく動かない頭が少しづつ覚醒していく。
霜の降りている地面からゆっくりと頭を離す、肩から掛けていた毛布がパサリと落ちて肌が外気にさらされ意思によらない震えが走った。
「ここは、どこ・・・?」
疎外感、どこにいるのか、自分が何者であったか、何故ココに居るのか、一気に押し寄せる不安が胸を渦巻き、時間とともに解消されていく。
(そういえば・・・)
久しぶりに笑ったお父さんとお母さん、私の手を引く暗い瞳の男、赤毛の男、そして水色の少女。
(寒い・・・)
あたりを見回すと昨日の焚き火は既に鎮火していて、焚き火の周りにいた男達も居なくなっていた。
そこから少し離れた木々の生えた草地の上で子供たちが冬場を凌ぐてんとう虫のように寄せ集まって寝ていた。
しかしどれだけあたりを見回しても昨日の金髪の少年、紫色の髪の少女はどこにもいなかった。
(それに子供の数が昨日よりも減ってる・・・ような気がする)
「あ・・・」
ぼんやりとしていると乱雑して生えている木々の奥からこちらにやって来る数人の人影が見えた。
だんだんと近づく人影に目を凝らすとそれは昨日水色の髪の少女を―――
捻れた首の跡が、こちらを見つめる瞳が脳裏をえぐる、耐えようのない不快感が体内をかき回す。
「ッ・・・」
喉から出てきそうになる熱い液体を手で口を抑えて必死に押さえ込む、怒られないように殺されないように。
力技で飲み込んだ液体は喉を焼き、ジクジクとした熱を持つ。
「うぇ・・・」
熱を逃がそうと息を深く吸い込み吐き出す、幾度かそれを繰り返していると影が私を覆った。
「よぉガキ」
突然頭をぐしゃぐしゃと撫でられる、なんの配慮もない撫で方に私の黒い髪がぐしゃぐしゃになる。
(首が痛い・・・。)
髪をグシャグシャにするせいで頭も左右に動かされるせいでとても首が痛い。
暫くして頭を鷲掴みにする手が離れたのでゆっくりと上を見るとあの赤髪の男がこちらを見下ろしていた。
「よぉ黒幼女ちゃん」
そこにいたのはあの赤髪の男だった、昨日と変わらぬ笑い方で、彼女の首をねじったその手で私の頭を撫でていた。
「・・・・・・私のこと、ですか?」
「そうだぜ黒幼女ちゃん」
「あなたは赤毛のお兄さんだ・・・ですね」
「俺はテスってんだぜ黒幼女ちゃん」
「そうですか」
髪を手で梳く、絡まった髪がちぎれた、痛い。
絡まった黒髪が地面に落ちる、服についた髪の毛を手で払っていると赤髪の男がしゃがみ私に目線を合わせる。
「お前さ」
「・・・?」
「昨日起きてたろ?」
笑顔なのに、笑顔だから怖い、何かを試すような、期待しているような目が私を見ている、赤い瞳越しに膝を抱えた私が私を見ている。
「う・・・ぁ・・・」
怖い、どうしようもなく怖い、死ぬのは嫌だ、死にたくない・・・死にたくない。
何も言えないでいる私の頭を再度触れる手、その手はさっきよりも激しく私の髪をグシャグシャにしていく。
「すまんすまん、怖がらせちまったか?」
「・・・・・・・・」
「・・・飯食ったらすぐ出発だ」
しゃがんでいた男がそれだけ言って立ち上がる、私の頭から手が離れ、赤髪の男は何かを振り切るように踵を返す。
「あ・・・・・・」
離れていく男を呼び止めたい、あの金髪の男の子は、あの紫色の髪の少女がどうなったのか聞きたかった、でも言葉が出ない、なんと言えばいいのか、何を言えばいいのか、どうすればあの人を怒らせずに済むのか私にはわからなかった。