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第12章 雲の晴れ間の幕間劇

1.

 フランク共和国某所。

 豪奢な館の豪奢な部屋では、2人の若い女性が夕食を取っている。ぱりっとした身なりと優雅な手つきは、彼女たちがいわゆるセレブリティであることを雄弁に物語っていた。会話の内容は優雅とは言いがたいものであったが。

「そういえば、お父様のお加減はどうだった? ミレーヌ」

「なんだか、ついでのような口調ね、姉様」

 ミレーヌと呼ばれた女性は、テーブルの向こうに座る姉をたしなめながら、ワインを口に含む。

「まだ寝込んでいらっしゃるわ。フレイムの黒水晶まで破壊されたことが、やはりショックだったみたいよ」

「黒水晶を破壊できるエンデュミオールか」

 姉様ことアンヌは舌なめずりをする。

「美味そうだな、そいつ」

「お腹壊しますわよ? 猿なんか食べると」

「猿といえば、フレイムの遺体はどうなったのだ?」

 アンヌが小首をかしげて問う。

「さあ? 猿に興味はないし」

 ミレーヌは本当に興味なさげに、いましがた運ばれてきた白身魚のソテーにナイフを入れている。

「まったく、黄色い猿なんかに大事な地域の攻略なんか任せるから」

 アンヌがぼやきながら、おなじくソテーを口に運ぶ。

「じゃあ、姉様が行かれたら?」

「冗談はよせ」

 アンヌは心底嫌そうだ。

「なんでこの私が、あんなソイ臭いところに行かなきゃいけないのだ?」

 またソテーを口に運ぶ姉を、妹はじっと見つめた。

「? なんだ、ミレーヌ?」

「姉様――」

 ミレーヌの顔に意地悪そうな表情が一瞬浮かび、その後取り澄ました高貴な女性の顔に戻る。

「姉様が食べてらっしゃるそのソテー、隠し味がソイですわよ?」

 なんともいえない顔をする姉を見て、妹がころころと笑う。そこへ、初老と思しき風体の男性が入室してきた。

「ニコラ殿、お疲れ様です。ワインはいかが?」

「いただこう」

 ニコラと呼ばれた男性は、ミレーヌがメイドに指示して注がせたワインを一口飲むと、ふうっと息を吐き出した。

「どこからの使者ですか?」

 アンヌが興味深げに尋ねると、ニコラがその初老の外見にふさわしい疲れた表情を見せる。訪問者は、エンゲランドの『侯爵』の使いであった。

「ま、ゴダンどもでしたの」

 ミレーヌが眼をキラキラさせながら身を乗り出してくる。

「それで、どんなエスプリを聞かせてやったんですの?」

「そんなものが理解できるような、粋な奴ばらじゃないよ」

 ニコラの口調はあくまで苦々しく、それが今回の『聖戦』についての取引の持ちかけと称する押し売りだったことを姉妹に告げた。ミレーヌの眼がますます輝く。

「押し売りですか? どんな?」

 それを見て苦笑しながら、ニコラは答える。

「手薄になるであろう我らがフランクの領分は侵さないかわりに、ことが成就したら日本を半分よこせ、だとさ」

「まあ! 相変わらずの武闘派ですわね」

 ミレーヌは楽しそうだ。この場合の武闘派とは、交渉下手の意味であろう。

「所詮ケモノよ」

 人語を解するだけましだな、とニコラの言葉も容赦がない。

「あそこは後継者で揉めてるから、次女にその飛び地でもくれてやるつもりじゃないのか?」

 アンヌの珍しく常識的な推測に、ミレーヌは眼を見張る。

「どうされたの? もしかして、ソイに当たった?」

「冗談を言うな。ニコラ殿――」

 アンヌがワイングラスを手に持ちながらニコラのほうを向いた。

「猿なんかに任せないで、いっそニコラが乗り込んで、更地にしてはどうか?」

 ニコラは苦笑する。そして、年長者らしい口調でアンヌを諭しにかかった。

「分かっていると思うが、われらはかの地に不案内。言葉も違うし人種も違うから、どうしても目立ってしまう」

 ワイングラスを傾けながら、さらに続ける。

「それに、日本人を使って少しずつやっているから、鷹取家の目を欺いていられるのだ。次は、伯爵様がお決めになることだではあるが、たぶんミラーだな」

「もちろん、いざというときには、伯爵様を押し立てて、我らが向かうことになりますから」

 ミレーヌがアンヌをなだめるが、姉は憂鬱そうに瞳を上げる。

「退屈だな。ディアーブル討伐も飽きた。そろそろ別の敵と闘いたいものだ」

「もう少しの辛抱だ」とニコラもアンヌをなだめる。

「不老不死の夢をかなえる。そのためにいったい何百年待ったと思うね? それに比べれば、あと数年の辛抱だ」


2.


 真紀と美紀は、戦いが終わった後すぐに部屋に戻った。シャワーを浴びて一息ついたあと、缶ビール片手に動画を見ている。

 それは、優菜たち3人が姿を消したことにすぐ気づいた真紀が、飲み会用に持ってきていたデジカメで録画したものだった。今そのデータはパソコンに移され、いささか荒く、月明かりのみのため暗い画像ながらも、再生ソフト側でコントラスト等をいじっての検証会となっていた。

「ここ、拡大できる?」

 場面はいま、理佐が変身するところだった。美紀の指示で、真紀がいくつかのソフトを経由して、ほぼこちらに正対している理佐の右手元を拡大した。ただでさえ荒い画像の拡大ゆえ、詳細な判別は困難なはずだが、美紀は一目見て断じた。

「――これ、隼人君が前に理佐ちゃんに渡してたアクセサリーやな」

「ああ、イッショクで渡してたやつな」

 真紀がビールを飲みながら相槌を打つ。

 動画再生の再開後しばらくして、美紀が動画内の会話に聞き耳を立てる。

「この『隼人』って言ってるのは、もしかして優菜ちゃんやろか?」

「ん? ああ、色は違うけど髪型そっくりやし、声はそのまんまやな。てことはこっちの青髪の子は、るいちゃんか。……なるほど、そういうわけやったんか」

 終了した動画を、もう一度最初から見直す2人。やがて、理佐が変身する場面が液晶モニタに映し出されると、美紀が、ぽつりと漏らす。

「……これ、どこで手に入るんやろ」

 真紀は一瞬目を見開いて妹を見たが、すぐにその表情は妹思いの姉の顔に変わった。

「よし! じゃあ、明日から2人でこの白い石探しやな」

「ねーやんは別にええよ」

 美紀はそっけない。

「これはうちの問題やし」

「つれないなぁ」と真紀は美紀に抱きつく。

「うちらは2人で1人、一心同体やがな。ま、なんといっても面白そうやしな」

 最後のが本音やろ、と美紀が笑う。そしてまた、動画を見始めた。

 そんな2人の部屋の窓を、少し離れた一軒家の屋根の上で、会長が見つめている。

 雲の晴れ間から指す月明かりが、双子の住むマンションを照らしていた。


――悠刻のエンデュミオール Part.1 END――

『悠刻のエンデュミオール』を読んで下さった皆様、ありがとうございました。

次作品の投稿は12月15日(日)を予定してます。ストックが少ないんです><

次回投稿する作品は、『悠刻 Part.1』のラストからちょうど5年後の物語、

『Final Resolution!!』です。お楽しみに。


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