オープニング
神様が言いました。
「あんたはもっと色んな世界を書かなきゃあかんよ。ええか、とあるが
認められたからってまだお前は半人前、もっと色んな世界を書くんよ。
そうすれば自然と文章力もついてくるで」と言われたので開始。
(あーあー……毎日毎日がどうにも退屈でしょうがないな)
先ほどまで触っていた自分専用のPCをシャットダウンし、彼、望月孝一郎はけだるげにため息を吐く。17歳の高校生、身長172センチ。趣味……特になし、彼女……なし。毎日の学校→家→学校→家……この繰り返しに彼は飽き飽きだった。
(何か面白いことのひとつでも起きねえかな~)
孝一郎は再びぼやきつつ、パジャマに着替えてベッドの中に入る。明日も学校だ。宿題は既に済ませていたし、変に夜更かしして寝坊し遅刻するような事は避けたい。なにかしらの面白い事は起きてほしいが、無駄に怒られるような事を起こすのは馬鹿馬鹿しいから回避する。
(まあ、ねよねよ)
そうして孝一郎は眠りに付いた。それが地球での最後の時間であったことなど知らずに……。
ザザーン…… ザザーン…… ザザーンン……
(なんだ?)
妙な音に孝一郎の意識がじょじょに覚醒してくる。
ハッハッハッハッ
(何の音だ? なんかあったかいような……)
ぺろぺろぺろぺろ
「な、なんだなんだなんだぁ!?」
目を開けるとそこには子犬が一匹。
「一体お前、何所から家に入ってきた!? さっさと出て……」
この時点で孝一郎は気が付いた。周りは森、自分の姿はパジャマで素足。寝ていた場所はどでかい葉っぱの上であったことに。
「え? え? これどうなってんの!?」
自分の置かれている状態が分かってきたとたんに、自分が何故こんな場所に居るのか状況が分からなくなってくる。
(え? 俺誘拐され……んな馬鹿な。誘拐だったらこんな場所に放置なんかするはずないし、そもそも誘拐する価値なんかない。両親に捨てられたって線もまずない。きちんと学校に通っていたし、テストの点も平均は取ってた。ニートとは縁遠い生活をしてたし)
混乱していく孝一郎を見ていて飽きたのか、孝一郎の顔を舐めた子犬は、素足のままである孝一郎の足を舐め始めた。
「うひゃあっ!?」
不意打ちである子犬からのぺろぺろ攻撃に、孝一郎はつい変な声を上げてしまった。その時である。
「そこのノッポ! 動くな! 殺されたくなかったら手を上げて大人しくしていろ!」
声が当たり一面に響き渡った後に、カチャリッと音がして後ろから人が近づいてくるのが分かる。カチャリの音はまさか……銃の安全装置を外す音か!? 孝一郎は完全に固まった。
「見慣れねえ奴だな……名前があるなら名のっておけ」
「こ、ここ、こういちろうだ。もちづきこういちろうだ」
後ろから聞こえてくる30代後半ぐらいの声に孝一郎は必死で答える。
「モチズキ? コーイチロー? 変な名前だなぁおい。おまけにその格好、森に入る人間の格好じゃあねえな……何しにここにきやがったんだ? 嘘を言っていると俺が判断したら、てめえの頭にいい景色が見える穴が開くって事はわかっているだろうな? おお?」
この一言に孝一郎は半ばやけになって答えた。
「うっせえ! こっちだって目が覚めたらこんな場所に送り込まれてたんだよ! 森に入る格好じゃない? あたり前だろうが! こっちは寝ていた所を何者かにこんな場所まで移動させられていたんだからな! 説明が欲しいのはこっちだよ!」
半分以上涙声になっていた幸一郎の声に、うしろのおっちゃん? は少し驚いたようだ。
「じゃあなにか? お前さんはいい所のボンボンか? 手が綺麗だしな……何にも仕事をしていない綺麗な手だ。歳がいくつかしらねえが、そんだけ体がでかくなっていて、そこまで綺麗な手って事は……金目当てで誘拐でもくらったか?」
17歳が手を極端に酷使する仕事に早々就く訳がないだろう、と言いたくなった孝一郎だがぐっとこらえる。
「ゆっくり振り向け、いいか? ゆっくりだぞ?」
仕方がないので、孝一郎は言われたとおりに時間を掛けてゆっくりと180度回転した。
「──ふうむ、確かに人を殺したり空賊やって人の財産を巻き上げて稼いでる奴のツラではないな……」
そういうと、目の前の身長160cmぐらいの赤い髪の毛をしたおっちゃんは銃を下げてホルスターに収めた。それを確認した孝一郎は、緊張から解放されたこともあってへたり込んだ。
「その様子からして、間違いなく賊じゃあねえな……お前が何所の誰だかはしったこっちゃないんだが、幾つか確認をさせてくれるのなら、とりあえずここからは連れ出してやろう」
「本当か!?」
おっちゃんの提案にすぐさま反応する孝一郎。こんな森の中、一人で置いていかれたらどうしようもない。
「なら今すぐ服を脱いで下着だけになってもらうぞ?」
「え!?」
「賊の中には服に獲物を仕込んでいる奴もいる。これだけ言えば分かるか?」
しぶしぶパジャマを脱いで、シャツにトランクスだけという実に心細い格好になる孝一郎。だが目の前のおっちゃんは自分を警戒しているんだ、という事実と、ここからとにかく逃げ出せる最後のチャンスなのかもしれないという脅迫概念の方が勝った。
「ふむ、特に何もねえな……体に刺青もなし……分かった、もう着て良いぞ」
パジャマだけとはいえ、流石にシャツとトランクスだけよりは遙かにましだ。再びパジャマの上下を着る孝一郎。その孝一郎が今の所唯一の衣服であるパジャマを着ているとき、孝一郎の様子を確認しつつ、おっちゃんは通信を入れていた。
『ああ、ヨーゼフだ。イライザ、ネビの森入り口までこれるか? 変な客を拾っちまってな……俺のフライト・ギアは一人乗りだろ? 二人乗りのフライト・ギアでその客を回収して欲しい……ああ、様子も見たし、服も刺青も確認してシロだ、そっちの心配はいらねえ』
通信が終わったようでおっちゃんことヨーゼフが孝一郎の方を向く。
「お前さんはコーイチローだったか? とりあえずフライト・ギアが来るまで待機してるしかねえが、その到着する場所までは今から移動するぞ、付いて来い」
フライト・ギア? 気になる単語だが、とりあえず今は付いていくしかない。「コリー、帰るぞ!」ヨーゼフがそういうと、孝一郎をぺろぺろした子犬がワン、と可愛い声で鳴いた後にヨーゼフの真横まで走ってゆく。
「コーイチロー、ぼさっとすんな、置いていくぞ!」
孝一郎は慌ててヨーゼフの後を追った。
――――――――――――――――
「流石にイライザのお譲ちゃんはまだ着てねえな……」
ヨーゼフはそう言っているが、孝一郎の耳には入っていない。孝一郎は目の前の海に浮かんでいる物体が気になって気になってしょうがなかった。大きさは畳を4枚用意し、2枚ずつ縦と横に並べればはみ出さないぐらい。その本体の上に屋根を兼任するかのような翼が付いている。
「何だコーイチロー、俺のフライト・ギアがそんなに気になるのか?」
そういってヨーゼフは笑う。孝一郎の行動は、5歳ぐらいの子供が始めてフライト・ギアを見たときの様子とそっくりだからだ。
「こんな小さいものが空を飛ぶのか?」
孝一郎の考えでは、こんな小さな翼では絶対に飛ぶはずが無いと考えていた。セスナでもいいし、鳥○間コンテス○でもいい、今まで見てきた知識からは、こんな短い翼と小さなプロペラでは、おもちゃレベルまで重量と大きさを削らなければ空を飛ぶ事が出来るはずがない。
「なんだよ、本当にお前さん世間知らずのボンボンか? フライト・ギアなんか街の上を普通に山ほど飛んでいるだろうが……」
ヨーゼフは呆れたように言う。そのヨーゼフの言葉が終わると共に、ヴヴーーンンンンン……と音が聞こえてきた。
「お、やっとお譲ちゃんがきたな。とにかくさっさとここを離れるぞ。実際飛んでみれば理屈捏ね回すより理解できるだろうよ」
飛んできたもう一つの飛行機は、ヨーゼフのものより一回りだけ大きかった。そして操縦席には一人の青い髪にセミロングの女性が乗っている。
「ヨーゼフさん、この子?」
「ああそうだ、後ろに乗っけてやれ。詳しい話は俺達の住んでいるクランハウスについてからでいいだろ」
「了解、ささ、そこの随分とおっきいキミ、ちゃっちゃと後ろの椅子に座ってロック掛けてね、ささっと帰るよ」
多分この女性がイライザなのだろう。とにかく言われたとおり孝一郎はイライザの後ろに開いていた席に座りロック装置だと思われるバーを下げる。ジェットコースターの安全具みたいな感じだという感想を孝一郎は密かに持った。
「ロックはそれでOKだ、じゃあさっさと帰るぞ」
そういえば、ヨーゼフのおっちゃんのフライト・ギアにも、今自分が乗っているフライト・ギアにも風防を行なうような物がない……機体の周りががっちりとした壁に囲まれていなくても、空を飛べるというのは最小のヘリコプターの存在を知っているから分かるが……。
「ではしゅっぱーつ!」
イザイザがそう言うと、バルルン……バルルン……バルバルバル……バルルルルルル! と小さな頼りなさそうなモーターが動き出す。なのに、二人乗りで重量が増しているはずの飛行機を悠々と動かし、海の上を滑り出す。どうやら滑走路の上から飛び出す飛行機ではなく、水上から加速して空に飛び上がる水上飛行機なのだろうと、今更ながら孝一郎は思う。しかし、あんな小さい翼にこんな小さなエンジンで……飛ぶはずがない、これで飛ぶんだったら地球の飛行機の歴史はなんだったんだ……。
しかし、ヨーゼフの飛行機も、イライザと孝一郎が乗った飛行機も……ごくごく当たり前のように空に飛びだったのである。イライザがクランマスターを務めるクランハウスに到着するまでの間、孝一郎は自分が今体験している事が全く理解できないでいた……。 なにしろ、風防もなく翼も小さく、動力もどうみたって貧弱な飛行機もどきだと言うのに、前からの風は穏やかで、飛行機もどきはかなりのスピードを出して空を飛ぶのだから。これが孝一郎とフライト・ギアの初めてとなる出会いであった。
空を飛ぶ、この人類の夢はまだ半分しか叶っていないと自分は思います。
だからこそ自分が書く世界だけでも、青空を駆ける冒険を書きたかった。
コレもいつまで続くか分かりませんけど、よろしくお願いします。