おまじない?
それは福田さんに最初に気づかれた。
「佳月ちゃん……何か悩みごとあるんじゃないの? もしわたしでよかったら話してくれない」
そう話しかけられたものの……福田さんだからこそ、とてもいえない。
「……いえ」
うつむいて言葉をにごした。
「……じつはね、佳月ちゃん……わたし心配なの。
確かに、わたしは時間を見つけては、ここにくるんだけど……でも、本当はもう1つ違う理由があるの」
うつむきながら、福田さんが話し始める。
「……舞貴ちゃんがこんなことになるまで、わたしは気がついてあげることができなかった……ううん、本当は、様子がおかしいことには気がついていたの。
でも、舞貴ちゃんが自分から打ち明けてくれるまで聞かないでおこうと思って、あえて尋ねなかったの……だけど、それは間違いだったわ。この子はわたしに心配かけさせまいと思って、ひと言も何もいわずに。
あの時、無理にでも聞きだしておけば、こんなことにならなくてすんだかも……そう思うと、いてもたってもいられずに、ここにきてしまうの。
だから、佳月ちゃんのそんな顔見ると、また舞貴ちゃんと同じことにならないかって思って」
目にうっすらと涙を浮かべながら、福田さんが私に微笑んだ。
……彼女には嘘はいえない。たとえ本当のことを話して、今すぐここから追い出されることになっても。
「……初めてお見舞いにきてくれた時から、ずっと佳月ちゃんのこと見てきたわ。
だから、あなたが本当はそんな子じゃないのは分かってる……舞貴ちゃんもきっと分かってるはずよ」
福田さんは、話し終えた私を優しく抱きしめてそういってくれた。
……昼休みに、いつものように4人でお弁当を食べていた。
「なあ佳月、おまえ最近暗いぞ。舞貴のお見舞い続きで疲れてるんじゃねぇか?」
天凪くんがいった。
「え? そんなことないよ」
「……でも佳月ちゃん。この間、みんなで舞貴ちゃんのところにいった時、ぜんぜん楽しそうじゃなかったけど……」
「……う……ん」
……どうしよう。
このまま黙っていても、彼らならいつか絶対に気づかれる。
「……あ……あの……」
福田さんの時とは違い、話そうと思っても、なんていい出せばいいのか思いつかない。
「あの……あの……」
「話したくなった時でいい」
いつもと変わらない口調の磐拝くんの言葉で決心した。
「私……自分で気づいたの……」
すべて話した。
隠していることはもうない。
「……それは……舞貴ちゃんに直接聞いてはっきりさせるしか手はないと思う……」
鈴乃ちゃんのいうとおり。それしか手はないのは分かっていた。それができないことなのも……分かっている。
「本気で知りたいか? 佳月」
天凪くんが急にまじめな顔でいった。
「……うん。知りたい」
「その結果がどんなに悪いことでもか?」
いつもの天凪くんとは思えない、真剣な表情と口ぶりだった。
「……うん!」
私も本気で答える。
「治してやるぜ」
「え?」
耳を疑った。
「俺が治してやる」
もう1度はっきりそういった。
「どうやって?」
病院でも、もう治る見込みはないといわれている舞貴ちゃんを、天凪くんがどうやって治すというんだろう。
「今日、一緒に病院いこうぜ」
「仁狼ちゃん?」
鈴乃ちゃんが、何かいいたげに天凪くんに尋ねる。
「おう。始めの頃はだめだったが、最近できるかもしれねぇっていい出したんだ」
何の話か分からないけど、2人の間では通じているみたい。
磐拝くんは分かっているのかどうか、その表情からは読み取れない。
授業が終わり、4人で病院に向うと、病室には福田さんが先に来ていた。
「今日は団体さんね。リンゴ食べる?」
あれからも彼女は、何ごともなかったかのように接してくれている。
「あの……福田さん。こんにちは」
「どうしたの? 佳月ちゃん」
「今日は俺たち見舞いじゃねぇんだ。舞貴を治しにきたんだ」
「え?」
福田さんも同じように驚く。
「どういうこと?」
「詳しいことはハッキリいえねぇけど、あんたも舞貴に元どおりになって欲しいだろ」
「……それは、そうだけど……」
「じゃあ、そういうことだ」
そういいながら、スタスタとベッドに向かって歩いていく。
「ほんとにいいんだな? 佳月。おまえのこと嫌いだったら、もう2度とこいつに会いにくることはできねぇんだぞ」
振り返って、天凪くんが念を押した。
「……いいよ。本当に舞貴ちゃんが治るなら……」
「……もし、そうなったらそれでしょうがねぇ。俺たちがついてるから。なぁ鈴乃、順崇」
「もちろん! きっと大丈夫だよ佳月ちゃん」
「今は、信じておこう」
「やるぜ……」
実際のところ、何をやるのか見当もつかない。とにかく天凪くんの様子を見守る。
左手に何かを乗せているように手のひらを上に向ける。その手を舞貴ちゃんの顔に近づけた。
「……むぜ……ティ……」
聞き取れないくらいの小さな声で、何かつぶやく。
それからどうするのか、じっと待った。
……何もしない? ただ左手を顔の前に近づけているだけ。これでどうやって舞貴ちゃんが治るの?
そう思った時、ほんの一瞬、舞貴ちゃんの頭のまわりを、すごく小さい光が回転しているように見えた。
ふと、以前天凪くんが私をクラスに溶け込ませてくれた時に見た光を思い出したけど……。
「……うだ? ……のくらい……そう……」
まるで誰かと話をしているようにつぶやいているけれど、その視線は舞貴ちゃんじゃなく、手のひらの少し上、20センチくらい上を見つめている。
手がスッと下がった。
「終わったぜ、佳月」
天凪くんが振り返る。
「終わった? でも」
舞貴ちゃんに何も変わりはない。
「そんなすぐには変わらないぜ。だいたい2〜3日ってところかな? そのうち兆しが出てくるはずだ」
「ねえ仁狼くん。今何をしたの? どうして舞貴ちゃんが治るって断言できるの?」
黙って見ていた福田さんが、たまりかねたように尋ねる。
「まじないだよ、まじない。ただし絶対効くまじないだぜ」
「そんなことで……おまじないで舞貴ちゃんが治るなら、とっくに治っているわよ。からかわないで!」
「からかってねぇぜ! こんなこと、冗談でできるはずねぇだろ」
「待って仁狼ちゃん……あの、福田さん?」
2人の間に鈴乃ちゃんが割って入った。
「何? 鈴乃さん」
「信じてもらえないとは思うんですけど……おまじないっていうのは別にして、仁狼ちゃんのいってること、ほんとなんです。科学的な説明はできないんですけど」
「まさか超能力だなんていうんじゃないでしょうね?」
「違います。とにかく仁狼ちゃんのいうとおり、2〜3日待ってもらえませんか」
そういう鈴乃ちゃんの顔も、真剣そのものだった。とてもからかっているなんて思えない。天凪くんを見てもそう。
「……いいわ」
福田さんも、その表情から嘘じゃないと感じたのか、肩を降ろした。




