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新しい風  作者: 吉川明人
13/17

今の舞貴ちゃん


「え?」

 何のことか分からない。

「……実は昨日の舞貴ちゃんのことなんだけど、あんまりいい話じゃないの……」

 珍しく鈴乃ちゃんが暗い表情をしている。磐拝くんは……分からない。

「どうしたの?」

「これだけいって、やめるわけにはいかねぇだろうけど……おまえがもっと辛くなるかも知れないからな。実のところ、教えようかやめようか迷っているんだ」

 天凪くんまで、視線をそらせてボソボソとした口調でいった。

「……何があったの? ……大丈夫。今さらどんなに嫌われていても、憎まれていても平気だから……」

 本当は平気じゃない。嫌われていたくない……憎まれていたくない……でも……。いわれたとおり、深呼吸した。

「お願い。教えて」

 それを見て……天凪くんがゆっくりと話し始める。


 その話に絶句した。

 昨日、吾妻学園の校門前で、舞貴ちゃんに出会えないかと、3人は待った。

 高級外車が次々と出入りする中で、声をかけられる数少ない生徒に鈴乃ちゃんが舞貴ちゃんのことを尋ねた。

 ……そのうちの何人かは、舞貴ちゃんのことを知っている様子だったけど、みんな急に態度を変えて、何も答えてくれなくなった。

 あきらめて今日は帰ろうかと話していたところに、1人の女子がウワサを聞きつけたらしくやってきた……正確には1人じゃなくて、後ろには運転手兼おつきの人と一緒だったらしいけど。

 なぜ舞貴ちゃんのことを知りたいのか尋ねた後、その子は舞貴ちゃんとは、2年の時に出会って友だちになった織竹珠希おだけたまきと名乗ったそうだ。

 ……ひょっとして私が遠くから見かけた子かな……。

 そして教えてくれたのは、舞貴ちゃんが中学3年になってからのことだった。

 1年の頃、彼女を無視するように仕向けた中心の子が、またクラスメートになった。

 そして、イジメが再開した。今度は1年の時とは、比べものにならない程ひどかったらしい。

 別のクラスになってしまった珠希ちゃんが毎日電話して、いつも夜遅くまで慰めていたそうで、学校でも可能な限り一緒にいるようにしていたけど、そうすればするほど、ますます相手のやり方はエスカレートしていった。

 そしてとうとう舞貴ちゃんはやっちゃいけないことをした。

 どういういきさつがあったのか分からないけど、イジメをしていた子たちの目の前で、3階の窓から飛び降りたというのだ。

 ……私は同じ学校にいながらぜんぜん知らなかったなんて。

 幸い植え込みがクッションになって命に別状はなかったものの、強く頭を打ち、ショック症状によって完全に外界から心を閉ざしてしまったという。

 病院でも彼女の瞳に再び光が戻る見込みはないと診断された。でも、それは学校側と当事者の親による話し合いの結果、表沙汰になることはなかった。

 おたがい社会的に複雑に絡み合っていたため、内々におさめることになったらしい。


 いっつもそう!

 世間体のために、家族まで見捨てるなんて。

 それを教えてくれた珠希ちゃんは、天凪くんたちのこと聞きつけて舞貴ちゃんが元に戻るきっかけにならないかと、わざわざ駆けつけてくれたのだそうだ。

 話を聞きながら、悲しいだけじゃなく、悔しくて涙が流れた。

「……で、そいつに教えてもらった病院までいってきたんだけど……」

 天凪くんが続ける。


 内科病棟の一室。

 個室のベッドに目を開けたままどこか遠くを見つめている舞貴ちゃんが座っていた。

 完全看護の病院だったけど、舞貴ちゃんの家からはメイドの人が1人つき添っていた。

 病室を訪ねた時は、すごく警戒していたけど、私の名前を出したとたん、あっさり中に入れてくれたそうだ。

 その人のことは知っていた。

 舞貴ちゃんの家に遊びにいった時、彼女といちばん仲のよかった福田さんだ。

 天凪くんたちもためしに舞貴ちゃんに呼びかけたけど、やっぱりだめだったらしい。

 自分で呼吸して、お腹が空けば置いてあるものを食べるけど……それ以外は、話しかけても、ゆすっても……お医者さんがひっぱたいても、何の反応もしなくなっていた。しばらくその様子を見て、天凪くんたちは病院を後にした……。

 そしてそれを私に教えるべきか、3人はそれぞれ悩んでいて、やっぱり教えることに決めたそうだ。

「……ううん。教えてくれてありがとう」

 それだけが精一杯だった……。

 その日は1日中気分が沈んでいたけど、放課後が近づいた頃、ようやく決心できた。

 私1人で、教えてもらった病院に行こう!

 出かける前に永瀧さんに事情を話すと、舞貴ちゃんのことはよく知っていたのですぐに外出を許してくれて、お見舞いの花代までポケットマネーから出してくれた。

 あの人はすごく情にモロイ面がある。

 そこは、家からしばらく自転車で走ったところにある、私立の総合病院の307号室。

 ドアをノックしてしばらく待ったけど、中からは何の反応もない。

 震える手でノブを回すと……そこに舞貴ちゃんはいた。ベッドの上に座り、虚ろな目をしていた。

「舞貴……ちゃん」

 おそるおそる呼びかけてみたけど、彼女は微動だにしない。天凪くんがいっていたとおりだった。

「舞貴ちゃん」

「どなたですか?」

 もう一度呼びかけた時、病室のドアが開いて、女の人が入ってきた。

「あ、福田さん……」

 3年も会ってなかったけど、顔は憶えている。

「え? あら、佳月ちゃん?」

 福田さんも私を憶えてくれていた。

 彼女は仕事でもないのに時間を作っては、いつも舞貴ちゃんのお見舞いに来て、いろいろなことを話しかけているらしい。

 話を聞くと、舞貴ちゃんと福田さんは、私と弓香さんのような関係……気安い点では同じだけど、違う点は、友だちどうしの感覚じゃなくて、歳の離れた姉妹のような関係だった。

 生粋のお嬢様だった舞貴ちゃんが6歳の時、専属メイドとして働くことになった彼女は、その我がままぶりに驚いたらしい。

 誰も叱る者がなく、欲しいものは際限なく手に入る生活が赤ん坊の頃から続いているんだから……当然といえば当然だけど。

 その我がままを治すのに、3年もかかったそうだけど、それからは周囲の人も驚くくらい、優しくて人のことを考える性格になった。

 そしてそれは、私が何とかあの環境に入り込めるきっかけであり、これほどまで追い詰められるくらいのイジメを受ける原因でもあった……。


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