うわさ話
「何よぉ、ミーちゃんったら」
「だって、あの3人そんなのぜんぜん考えてないもの」
「でも有名だよ、このウワサ」
「そうなの?」
「そうそう。最近はミーちゃんも加わったとか……」
あやちゃんがいたずらっぽく笑った。
「私が?」
知らなかった。そんなウワサがあったなんて。
「でも本当に何もないのよ」
「本当の本当に?」
絵梨ちゃんがしつこく念を押す。
「うん。期待はずれだけど」
「なんだぁ。やっぱり」
「でも考えてみるとそうだよね。あの2人に、何かあるなんて思えないし」
「そうそう。それよりA組の斎藤くんと岡野さんなんてアヤシーよね」
「あと、うちのクラスの前田とC組の武内さん」
「ありえる、ありえる」
この2人の口ぶりから、つまらないウワサをしている人がたくさんいるみたい……教えてあげようかな?
でもあの3人なら、そんなことぜんぜん気にしないだろうからいいか。
2人は沙苗ちゃんの家に着くまでの間ずっと、そんなウワサ話に熱中していた。
「クロぉ」
「さっちゃーん」
インターホンに呼びかけると、少しの間があってドアが開く。
「えりちゃん、つかちゃん。それにミーちゃんまで」
暗い顔をした沙苗ちゃんが出てくる。
「来てくれたんだ……ゴメンね……あたしのせいで、あんなことに……」
部屋に招かれると、沙苗ちゃんの机の上には、やりかけた宿題のノートが開いていた。
「あたし、必死でやったんだけど……でも、どうしてもできなくて……朝までかかってもできなくて。みんなを巻き込んじゃったって思うと恐くて、とても学校いけなかった……」
「大丈夫よクロ。もう気にしないでいいわよ。あの宿題だったら全員提出したから、何にもいわれなかったんだよ」
絵梨ちゃんが、彼女の背中をなでる。
「そうそう。みーんなミーちゃんのおかげだよ」
「ミーちゃんの?」
顔を上げた沙苗ちゃんの目に、涙が光っていた。
「ミーちゃんが全部やってきてくれたから、みんなでノート丸写ししたんだ」
「そう。それも、あの神流原さんのお墨つきのやつ。だからギュウ、何もいえなかったんだから」
「そうだったの……よかった」
沙苗ちゃんは本当にホッとしてつぶやく。
「沙苗ちゃんも写せるように、ノート持ってきたよ。明日も数学あるから、その時たぶん出すようにいわれるだろうから。
それに問題の解き方は、鈴乃ちゃんに教えてもらうように頼んでおくから授業に遅れなくてすむよ」
カバンの中からノートを取り出して、沙苗ちゃんに渡した。
「……ありがと、ミーちゃん」
「それにしても、今日の杉田の態度見た? 自分はできてたからっていって。少しくらい見せてくれてもいいのに。ムカツク」
「そうそう。浦上だっていつも一緒にいる子だけしか見せてくれなかったのよ。ちょっと数学が得意だからって、イキガリ過ぎよねー」
絵梨ちゃんとあやちゃんがイヤな話を始める。
「ねぇ、あの2人、少しこらしめてやらない」
「そうね、じゃあどうするか今から考えない?」
絵梨ちゃんが提案して、あやちゃんが賛成した。
「だめ! やめて!」
思わず大声をあげていた。沙苗ちゃんたち3人が驚いて私を見る。
「あ……だめ……よ。こらしめるなんて」
自分の出した大声なのに、私が驚いていた。
「あの子たちも、本当は見せたかったんだけど、どうすればいいか、分からなかっただけかも知れないから……」
自分でも何をいっているのか分からない。
「……そ、そうだよ。ミーちゃんのいうとおり。こらしめるとかそういうの、もうやめにしない?」
沙苗ちゃんが賛成してくれる。
「あ、そうか。そうだったね……ゴメン。ミーちゃん」
「へへ……ゴメン。わたしも調子のっちゃった」
ペロッと絵梨ちゃんが舌を出す。あやちゃんはウインクしながら手を合わせる。
「ありがと……ゴメンね」
「なんでミーちゃんが謝るの、わたしたちの方が悪かったのに」
「そうよね……ミーちゃんが、こんな性格だって知らなかったとはいえ、ほんとに悪いことしたわ」
「いいよもう、気にしてないから」
「……実は今だから白状するけど、初めに無視しようっていい出したの、わたしたちなんだ」
絵梨ちゃんがうつむいて、小さな声でつぶやく。
「……知ってたよ」
「え? どうして……」
絵梨ちゃんが驚いて顔を上げる。
「……あの時、私もトイレにいたんだ」
「そうだったの……」
みんながシュンとして黙りこむ。
「……だから……だから、そんな私とでも友だちになれたんだから、杉田さんや浦上さんとも仲良くなれるかもしれない。自分から離れなくてもいいと思う。ただ……」
3人とも黙って私の話を聞いていた。
「ただ……どうやったらあの2人と仲良くなれるのか、ぜんぜん思いつかないけど」
『ぜんぜん』をわざと強調した。
「そうよねぇ……あの2人、なんかクラスの中でも浮いてるもんね」
「そうそう、頭いいのは同じって、レベルは違うけど神流原さんとはぜんぜんタイプが違うもんね。ミーちゃん知ってる? 神流原さんって、けっこう男子のファン多いのよ」
「そうなの?」
「そうよ。頭いいし、すごくカワイイじゃない。めんどう見もいいし。でも、天凪くんと公認なの有名だから、何人も泣き寝入りしてんのよ」
「実際にB組の末田くんフラれたそうよ。それにA組の古林……まあ、あれは問題外として。なんと! 3年の柳田先輩までフッちゃったんだから」
あやちゃんが声をひそめて話す。
「わたしが知ってるだけでも、まだ6人いるわよ。鈴乃ちゃんの隠れファン」
絵梨ちゃんも続ける。
「でも、ふつうこんな話聞くと、すごくムカツクんだけど……あの子の場合、なぜか憎めないよね。女子どうしでも人気あるし」
沙苗ちゃんがうらやましそうにいう。
「それにあそこまでトロイと、なんだか守ってあげたくなるのよね」
「そうそう、そんな感じ。同い年なのに年下に見えるじゃない」
「いつも天凪と一緒にいるから自然にそうなるのかな……自分は妹みたいな自覚が」
本当は鈴乃ちゃんの方が年上に思えることがあることを3人は知らない。
……それからしばらく、そんなウワサ話で盛り上がって、沙苗ちゃんもすっかり元気を取り戻していた。
家に帰ってから永瀧さんにすごく注意されたけど、沙苗ちゃんも元気になったことだし、素直に聞いておいた。
「佳月、深呼吸しろ」
次の日、天凪くんに会うなり、いきなりいわれた。




