クラスの友だち
「それで佳月ちゃんが楽しいって答えたらお父さん何もいわなかったでしょ。それだけでもう充分信用してるってことだよ」
「そう、かな? ……ただ興味ないだけかも」
「そんなことないよ……あの質問は、これまでの学校が楽しくなかったってこと知ってたってことだよ。
それに信用しない人から信用なんてされないよ。だから佳月ちゃんの方から信用してあげて」
「……そうだね……そう、ね……」
「それと仁狼ちゃん、なんだか急に勘がするどくなったでしょ?」
声を落として鈴乃ちゃんがヒソヒソ話す。
「うん」
「脳内物質を活性化した後の後遺症みたいなものなの。
もしそれを教えてテストの時なんかに制限なしで使ったら、さっき言ったとおりになるからナイショにしてるんだ。
順崇ちゃんにもナイショにしてもらってるの」
「そうだったの。分かった。内緒にしておく」
「うん。ありがとう」
「鈴乃ー! 何やってんだ、おいていくぞ!」
磐拝くんと一緒に先に歩いていた天凪くんの叫び声が聞こえた。
「じゃあ佳月ちゃん、また明日ね」
「また明日。おやすみなさい」
鈴乃ちゃんが2人を追って、歩いていく……それとも走っているのかも知れないけど。
3人が、すっかり暗くなった坂道を下って帰っていくのを、姿が見えなくなるまで見つめた。
さっきはすごく短く思えた門から玄関までの歩き慣れた道が、いつもより少し長く感じられた。
部屋に戻って、さっきの話を思い出す。
みんなに話を聞いてもらったせいか、心が軽くなったような気がする。
……でも、本当に人に頼って解決してもいいんだろうか……勇気を出して私自身で何とかしなくちゃいけないことなのに。
……電話……してみようか。
だけど、携帯を持つ手が震える……。
結局、どうしても勇気が出なくて、電話することはできなかった。
次の日、昨日の数学の宿題で、教室は大騒ぎになっていた。
「誰かぜんぶやったやついねーのか!」
「参考書見たけど分かんなかったよ」
「コピペしようと思ったのに出てなかったー。
絶対分かっててだしたんだ。最悪〜!」
「クソー。おれ昨日、オールだぜー」
見渡すと、あせっていないのは数学が得意の浦上さん。ガリ勉の杉田さんと今墨くん。秀才の瀬川くんの4人くらい。
「ミーちゃん。ひょっとしてやってきてるの?」
原樹さん……絵梨ちゃんに声をかけられた。
「うん。昨日、天凪くんたちと一緒にやったから」
「天凪と? あいつ数学そんなにできたっけ?」
「天凪くんじゃないよ。神流原さんでしょ」
隣にいた、大塚さん……あやちゃんだ。
「どうしても分からない問題が出てきた時、解き方を教えてもらって、やっとできたの」
「わぁ! いいなぁ」
「ミーちゃん、お願い! ノート写させて」
「あ、わたしもわたしも!」
「おーっす。おはよ」
珍しく遅刻しないで天凪くんがやってきた。
「天凪ー! ノート見せろぉー」
待ち構えていた男の子たちが一斉に群がる。
「おう、なんだぁ?」
「お前、数学の宿題、彼女に教えてもらってるんだろ? ノート見せてくれよ」
「今墨と瀬川のやつ、見せてくんねーんだよ」
例の4人を見ると、浦上さんの周りに数人の女子がいるものの、杉田さんと男の子の方には誰も近づいていない。
「あいつは彼女じゃねぇよ! それに解き方を聞いただけで、これでも自力でやったんだぜ!」
「何でもいいから、見せてくれ」
すでに殺気立っている。
「まったく。自分のことは自分でやるのがあたりまえだろ? そんなに他人ばっかり頼ってると、どうしようも……って俺がいってどうする!
時間ねぇんだから、写したやつは自分のをほかのやつにまわしてやれよ」
そういいながらニヤッと笑ってカバンからノートを取り出して机に広げる。
……自分のことは自分でやるのがあたりまえ……鈴乃ちゃんもそういっていた。
私にはその言葉が、私に向けていわれたような気がした……。
沙苗ちゃんは学校を休んでいた。
数学の時間、全員が宿題を提出したのを見ても、牛滑先生はフンと鼻を鳴らしただけで、1日の授業が終わっても何となくモヤモヤした気分が残った。
「おーい佳月ぃ」
天凪くんに呼び止められた。鈴乃ちゃんと磐拝くんもいる。
「ミーちゃん!」
反対側から絵梨ちゃんにも声をかけられたる。
「ねぇ、わたしたち今からクロの家にいくんだけど、一緒にいかない?」
クロは沙苗ちゃんのこと。
「あ、私……」
「いってこい佳月。昨日に比べりゃ、少しくらい帰りが遅くなってもどうってことねぇだろ」
「それに今日は舞貴ちゃんの様子を見にいくから一緒に帰れないもんね」
……どうしよう。
「ミーちゃん、どうする?」
あやちゃんが催促する。
「いった方がいい」
小さく磐拝くんの声が聞こえた。
……そうだよね。舞貴ちゃんの二の舞……後悔しないようにしないと。
「じゃあ一緒にいこう……鈴乃ちゃん、舞貴ちゃんの方、お願い……」
……自分のことは……あの言葉が頭をかすめたけど、お願いすることにした。
「今日はミーちゃんのおかげで助かっちゃった」
沙苗ちゃんの家は、私の家とは反対方向の電車に乗って、ふた駅向こうにある電車の中で絵梨ちゃんが話し始める。
「そうそう、あれで宿題できてなかったらギュウに何させられるか分かったもんじゃないわよ」
あやちゃんは牛滑先生をあだ名で呼ぶ。ほとんどの生徒がそうしているけど、私は鈴乃ちゃんに習って牛滑ちゃんと呼ぶことにしている。
彼女がいうには、あまり親しくない人は苗字にちゃんをつけるらしい。
「私じゃないよ、鈴乃ちゃんのおかげだよ」
「鈴乃ちゃんて、天凪くんとつき合ってるんでしょ?」
「聞きたーい。あの2人、どこまでいったのかな?」
「もう最後までいったってウワサだけど、ミーちゃんすごく親しいみたいだから何か知らない?」
「そうだね……間違いなく……」
「「間違いなく……」」
ゴクリと、2人が唾を飲み込む音が聞こえる。
「何もないと思う」
「へ?」
「それ以前に、つき合っているって感覚がないと思うよ。赤ん坊の頃から兄弟みたいに育てられてきたらしいから、本当に兄弟の感覚でしかないみたい」
「じゃあ、磐拝くんとの三角関係なんかは……」
「ぷっ、あははは……」
あやちゃんの真剣な顔に、思わず笑った。




