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Da sein―待ち人お嬢とやさぐれ貴族―  作者: 霜月美由梨
七章 思い出すあの日、あの言葉
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七章 思い出すあの日、あの言葉

 サナンの刃はからんと音を立てて落ち、そして、――そして、グイードの刃は、サナンの左肩にまっすぐ入って抜けていた。だらりと下がった左腕はピクリとも動かないようだった。

「ちくしょう。これで……当分、左肩は使い物に、ならねえ……じゃねえか」

 痛みに引きつる声にそう不満を乗せて言う彼にグイードはただ、無表情にそれを見つめ、そして、剣をさらに深く差し込もうとするがごとくそのまま前に歩き出した。

 自然とサナンが後じさる形になり、そして、肩をつきぬけた切っ先が壁に当たり、サナンは壁に縫い付けられた。

「これは逃げられねえな」

 真っ青な顔をしてそうつぶやいて、入り口で立ち尽くしているフィルを見て、悲しそうに微笑んだ。

「グイード」

「とめるな。俺はやらねばならない」

「なんでですか?」

「それを彼は望んでいる。ねえ? 御義父様?」

 そう言って振り返ったグイードにこたえるように壁が開いて、杖を突いた初老の男が現れる。

「ほう、良い気味だな、サナンよ」

「穴蔵から御登場って感じですかい? 総帥殿?」

 皮肉って言う彼の言葉に総帥の顔が真っ赤に染まる。

 だが、グイードが彼らの視線をさえぎるように手のひらを向けてちらりと総帥を見る。

「義父上は、そこで見届けてください」

「……ああ」

 そう言って笑う総帥がすこしだけ目を細める。

 その表情にフィルが銃に手をやる。

「フィル」

「なんです?」

「持っている銃を全部足元に捨ててもらおうか」

「なんでです?」

「御義父様をやらせないために決まっているだろう。あと、お前だけだな。来たの」

「ここに来れるのは私とお前とサナンしかいないでしょう?」

 そんな答えにグイードがそうかと無表情にうなずく。

 貫かれたままのサナンは血の気の失せた顔で、表情のないグイードを見つめ、そして、フィルを見る。

 そして、フィルに一つうなずきかける。

「やれ」

「……はい」

 素直にフィルが、胸と腰にあるホルスターから銃を抜いて四丁を足元に置いた。

「それだけだな?」

「ああ」

 うなずいたフィルにサナンが、本当は袖になにか隠しているくせにと小さく笑う。

 そして、そんな苦笑を不敵な笑みに変えて、まっすぐとグイードを見る。

「さあ、なにで殺してくれるんだ?」

「それはもちろん」

 サナンの左胸のホルスターから一丁の銃を引っ張り出して撃鉄を起こした。聞きなれた音が少しだけ重たいような気がした。

「これに決まってるだろう」

「……ありがてえな。愛銃で殺してくれるなんざ」

 かすれた声でそういうサナンの目の前にグイードが銃を構え、そしてそっとうつむいた。

「……」

 銃を突きつけられながら、サナンはグイードの表情に見入った。

 唇の端が小さく上がっているその表情にサナンがなにかを言いかける。

「グイー……」

「……じゃあな」

 名を呼びかけたサナンの声にかぶさるように小さく彼の薄い唇が動く。

 

 そして――――。


 ――――そして、乾いた銃声が、一発、重なり合った銃声が二発、響いた。


「サナン!」

「中佐!」

 足元に置いた銃を拾いながら構えるフィルと、部屋の外に待機していたらしいテオが中に入ってきて、ほぼ同時に悲鳴に近い声を上げる。


 縫い付けられた壁際でサナンが見た光景は、自らが死へ向かう色あせた風景ではなく――。

 ――背中を反らせて前のめりによろめくグイードの姿だった。


 痛みも忘れてとっさに右手でつかんだ左腰の銃を向けてなにも考えずに放っていた。

 銃口の先には暗闇。新たに開かれた隠し扉のようだった。

 向こう側にいる人物は銃をこちらに向けて、穴の開いた額で呆けた顔をさらしていた。

「……え、あ」

 呆然としたフィルが一歩踏み出すのと同時に、銃を後ろ手に打ったグイードが崩れ落ち、そして、サナンに撃たれた男が後ろに向かって倒れる。

「フィル、早く!」

 サナンが叫びながら右腕で総帥を狙う。

 だが――、

「え……」

 総帥は指を抱えうずくまっている。

 その足元には千切れたらしい指が二、三本と、銃が転がっている。

 サナンは自分の銃を取り落としてグイードの剣の柄を握って左肩から抜き、捨て置くとグイードの隣で慌てたようにばたばたと手を動かし処置をするフィルの隣についた。

明日、3/11は勝手な都合ながら更新を見送らせていただきます。

次回は3/12の19:00、20:00の更新とさせていただきます。

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