一章:裏切りと誠実の境界
「武器、ですね?」
「御明察。武器を受注して軍部に高く売りつければ儲かります。売る先は国でも良いですね」
「そんなこと」
やっているところは、と続いた言葉だったが、はっとテオを見たリノは深くため息をついた。
「結局、あそこなのね」
「ええ。そこです」
うなずいたテオにリノはそっぽを向いて目線を下げた。
「結局、一人の人間によって国が動かされていると同じような状況なんですよ。今の国は」
「そんなこと、許されることなんて……」
「許されるように小細工しているんですよ。あの人たちは」
そう言って肩をすくめたテオは、まっすぐ先を行くシオンを見てうっすらと笑った。
「そこにそりの合わなさを感じてたんですよ。俺たちは」
そういったテオは頭に飛んできた小石を片手でとってシオンに投げ返した。
「余計なことを言いましたね」
「うかつなことをいうな」
「はいはい」
前でしっかりと聞いていたらしいシオンにテオが笑ったまま周りに目を移す。
それにつられてリノも、ある一方に目を奪われた。
「あれは……」
視線の先にあったのは一つの崩れかけた要塞。
「あれが軍部の要塞。唯一落とされた駐留所です」
投石でもされたのだろうか。
堅牢な石造りの要塞は半分崩れかけて瓦礫だらけの室内をのぞかせていた。
背に揺られたまま進むと、シオンが立ち止まって足元を見ていた。
「先輩?」
シオンは無言でしゃがみこんで足元に合ったらしいなにかをつまみ上げて、無造作にポケットに突っ込んだ。
「ゴミ拾いでもしているの? 無礼者」
そんなリノの言葉に、冷たい一瞥をくれたシオンはまた歩きはじめた。
「……」
今まで快活に話していたテオも、心なしか表情が暗く、リノが見ていると気づくと、ようやく暗い表情に無理やり笑みを刻んで肩をすくめた。
「なんでもないですよ。さあ。行きましょう」
シオンのあとに続いたテオは二人に気づかれないようにため息をついて、もう一度、要塞に目を向けてそっと伏せた。
粛々とした雰囲気で進む一同に、広がったのは砂煙が立ちこめる寂れた街だった。
商業都市であった名残は大きな鉄道が走っているところだろうか。
中心部にしか人がいないらしく街道沿いの家にはねずみや蜘蛛の姿しか見えなかった。
「……」
シオンはちらりと街の一角、大きな屋敷に目を向けたあとに町へ入った。