六章 みとめるおもい。
そして、翌朝。
「サナンさん」
サナンの執務室にこもりっきりだったガーネットが書き終えた書類をサナンに手渡した。
「ありがとう。お、写しも?」
「それぐらいしか俺には能がないものでね。書類作成ならだれにも負けません」
「そうか。ありがとう。これで明日心置きなくいける」
「明日?」
「ああ。そうか、君達には教えてなかったな。明日、グイードと総帥と決着をつける。生け捕り目指すが」
「総帥は生け捕りでお願いしますよ」
「ということは?」
「抵抗したらやってください。公安部は死なないぐらいの傷であれば普通に捜査します」
メガネを押し上げながら笑ってみせたガーネットに、サナンはうれしそうにうなずいた。
「わかった。じゃ、差し支えのないぐらいにやるわ」
怪しい会話をする二人に、医務室の抜け穴からひょっこり顔を出したフィルが額を押さえた。
「良い大人がニヤニヤしてんじゃないですよ」
「お? なんのようだ?」
「なんの用だって、ねえ……。テオから報告ですよ」
「なんだ?」
「図書室はクロだとのことです」
「ん。わかった」
うなずいてサナンはそっと目を閉じた。
「クロ?」
「ああ。すまん。公安部にはいえない事項だ」
その言葉に眉を寄せたガーネットに、サナンはひょいと肩をすくめて机に向かった。
「公安部も王城の秘密の道を押さえているだろう?」
「ああ、そういうことですか」
うなずいて苦い顔をしたガーネットを見て、サナンは理解が早くて助かるよとだけ言って調書の最後の欄に署名を入れようと、羽ペンを持って、そして思い直したようにそれをおいた。
「俺の名前で発動させる」
「いや、キース大佐の」
「俺も大佐だよ」
笑ったサナンを見たガーネットは、いつの間にか机の上に置かれている紅玉の銀の羽飾りに目を見開いた。
「あなた」
「正式な儀は終えていないがキース大佐と入れ替わりになる」
そう言ってサナンは胸ポケットから一本の万年筆を取り出してキャップをとった。
「それは……?」
それは貴族の次男坊が持つものにふさわしい、黒檀のペン軸の万年筆だった。
だが、そこに金でなにかを彫られていることに気づいたガーネットが首をかしげた。
金で彫られているのはラテン語だ。そして、そこに刻まれている文字の意味は――。
「ああ、これはキース大佐が俺たちの卒業祝いにくれたもんだよ。願わくばこの調書が先生の理想へと近づく一歩になるように、ね」
不思議そうなガーネットをサナンは誤解したようだった。
サナンは使い慣れた様子でさらさらと自分の名前を書いて机に広げた。
キラリときらめくその文字列のまぶしさに目を細めながらガーネットはサナンの顔を見た。
「先生の理想?」
「ああ。たたき上げの軍人らしからぬ、とても平和でちいさな夢だよ」
笑うサナンをガーネットはいぶかしげに眉を寄せた。
そんな視線を受け止め、サナンはうつむき加減に笑うと、ぱんと手を叩いた。
「お呼びでしょうか」
部屋の中に一人の衛兵が入ってくる。
「シルヴに伝達を願え。日暮れに一度集まるように全員に」
「了解しました」
うなずいて衛兵が出ていく。ガーネットはそれを見てサナンを探るように見る。
「なにをなさるんです?」
「明日の段取りを話そうと思ってな」
「もう決めて?」
「ああ。この三日を費やして考えた結果だ。抜かりはない」
そう言ってサナンが唇をかみ締めた。
無意識にだろうか、右手は銃に伸びてその柄を撫でている。
「では、わたしはこれにて」
「ああ。セシアさんは翌朝に返すから、その旨を老公によろしく頼めるか」
「わかりました。では」
「ああ、ありがとうな」
ガーネットは一度頭を下げてそして、軍部を出て行った。
「さあ。最後の仕事だな」
サナンは胸ポケットからタバコを取り出して火をつけ、そして窓際に向かうと目を細めた。
窓の外、軍部の敷地の外には、おそらく公安部のものが待機している。
ガーネットの報告を聞くのだろう。
そのために教えた情報がある。
「キースはどうなるかという論が交わされるんだろうな」
ガーネットが落ち合い、そして王城に帰っていく様を見ながらサナンはタバコをくわえてそっと吐き出した。




