六章 みとめるおもい。
グイードよりは高い位置にある顔を見上げてエナは首を横に振った。
「いえ、そこを通りかかっただけです」
また投げ捨ててしまった本を片付けに戻るとサナンがついてきた。
「司書の……。いや、その紋はグイードの部下か」
肩章を見てだろうか。そういった彼はばつが悪そうな顔をして顔を背けた。
「どうしました?」
本を胸に抱いて首をかしげたエナにサナンは付き人、シルヴと顔を合わせて肩をすくめた。
「いや、あの……。ちょっと聞いてもいいかな?」
「なんでしょうか?」
「最近、あいつ、女連れてこなかったか?」
声を潜められて聞かれた言葉に、瞬時にリノの姿が浮かんだ。
「確かにいましたが、今日はいらっしゃいませんでしたよ。聞いたら家に帰したと」
「確認しろ」
「は」
サナンの声音が瞬時に変わって、シルヴが頭を下げて廊下の先へ消えていく。
その様子にエナは首をかしげたが、何事もなかったようにサナンは笑った。
「ああいや、そうでしたか。ありがとう」
「なにかを調べているのですか?」
「……そのなにかって、なんだと思う?」
表立っていえないことだなと判断したエナは、首を振って失礼しますと立ち去った。
「……」
不思議そうなサナンの視線が背中に突き刺さるが、エナは、書物庫へ帰っていった。
「帰ったの」
「ええ、中佐と一緒に。またいろいろやらかしていて、その始末で挨拶が遅れてすいません」
書物庫には不思議そうなしゃがれた女性の声。
そして続いて聞こえてきた穏やかな男の声に引かれて扉を開けると、黒髪の青年がこちらを見て頭を下げてきた。
「ああ、エナ。こちらに」
「はい」
書物庫の主、とも揶揄される年配の女性隊員、アーニャが優しく手招きする。
本を机においてアーニャの隣につくと青年が納得した色を見せた。
「ああ、オレの後任の子で?」
「ええ、そうよ。あのバカ坊やについていってしまったからねえ」
「バカ坊やって……。そりゃ、元はオレはあの人の執事であったわけで公爵からいわれなければここにいましたよ」
肩をすくめて言う彼に首をかしげたエナを見て、アーニャはテオに妖しく笑ってみせた。
「自己紹介は?」
制裁を加える合図だと軍学校にいたとある人物が言った笑みを浮かべたアーニャに、顔を引きつらせた彼は一礼をした。
「はじめまして、私はテオ。サナン中佐の補佐官をしています。あとは……、あなたがここに入る前にいて、あなたが入ると同時に休職したものです」
「あ、はじめまして。エナといいます」
そう言って頭を下げあった二人にアーニャは、早速ねといいながらテオの頭を叩いてずらりと並んだ書棚を指差した。
「さ、全部掃除なさい」
「え。なんで」
「蔵書の確認がてらよ。私とエナは奥の部屋で各佐官、将官に頼まれた本の振り分けと配達に行くからそれまでに終わらせなさい」
「無理です」
「やりなさい」
無理やり命令をしたアーニャは、エナを引き連れて奥の控え室に入っていってしまった。
「……。ま、望んだところだけどね」
そうつぶやいたテオはにやりと笑って叩きを手に、バンダナを頭に巻くと書棚の群れがたたずむ奥へ足取り軽く入っていった。
ほこりが揺蕩っている。
「……こっちから入ったあとはないな」
ぱたぱたとはたきで本の上に積もったほこりを落としていく。
テオがきいていた時とさほど変わっていない配置に目を細めながら、ふと、本がないことに気づいた。
「こことそこと……。あそこか。……まさかな」
一歩下がってその書棚を見てない本を確認して眉を寄せた。
「手を休ませてるんじゃない!」
奥の部屋から一喝。その声に変わらないなと感慨にふけりながらはたきで手早く本を叩いていく。




