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Da sein―待ち人お嬢とやさぐれ貴族―  作者: 霜月美由梨
六章 みとめるおもい。
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六章 みとめるおもい。

「サナン?」

「……いいや、ありがとう」

 そう言ってシオンは手を振り払って立ち上がると、なにかを思いついたように机の前に立った。

「どうしました?」

 不思議そうなフィルを黙殺してシオンが机の引き出しを開けて、二つのケースを取り出す。

「……それは」

 フィルが歩み寄ってみると、それは大まかな階級を表す銀細工の羽飾りだった。

 根元に埋め込まれる宝石によって階級がかわる。

「青、あなたのと、紅は……」

「シオンのと大佐のだ」

 そうシオンが言うとフィルは目を瞠った。

「じゃあ、あなたのは?」

「こっち」

 違う引き出しを開けて箱を取り出して開いたそこには、宝石が粉々に砕けた羽飾りがあった。

「シオンのぱくっておいてよかったよ」

「ぱくるって……。なんでこんなに?」

「地面に叩きつけた」

「どうして?」

「むしゃくしゃしてやった」

 と、よく聞く非行の理由にフィルは深くため息をついて額を押さえた。

 シオンがそれを見てにやりと笑う。

「どうするんです? それ。ていうか、なんで大佐のが……?」

「それこそが俺がこの時期に呼ばれた理由なんだ」

「え?」

 シオンの細く形の良い指が迷いなく紅い玉がついた羽飾りに伸びる。

 ランプの光が闇に慣れた目には痛い。だが、すぐに慣れるだろう。

「もう大佐は長くないといっていた」

「長くないって、どういう……」

「そういう意味だ。このヤマが終わったら俺はあそこに行かねばならん」

 優しげにそれを撫でる指先が羽の輪郭をたどる。

 フィルはうつむいて語るシオンを見つめていた。

「じゃあ、大佐は」

「俺のこの仕事を見届けて退職なさると。……入れ替わりに俺の階級が上がる」

「……本来であれば、あのときに上がるはずだった?」

「ああ。だから、すんなりと事務が通ったそうだ」

 そう言って青い玉がついた羽飾りを手にとって、シオンは小さく笑ったようだった。

「俺は、もう二人の意志をこの背に背負っているんだ」

 羽飾りを握り締めながらシオンが言う。フィルが姿勢を正してシオンをまっすぐと見る。

「サナン?」

「…………絶対に負けられない。負けてはならない」

 まるで自分を鼓舞するようにつむがれる言葉をフィルは黙って聞いていた。

「緊張しているんですか?」

「……さあな? ただ……」

 一度フィルを見てから、また握ったこぶしに目を戻したシオンが静かに口を開く。

「ただ、重いと思ってな」

 苦笑気味に笑ってシオンは、一度それをおいて、壊れた羽飾りが入っている箱の底をあけて、肩章と金色のピンバッチを取り出す。

「つけるんですか?」

「……一応な。こんなに持ってたっけ、俺」

 勲章を受けた数を表すピンバッチは箱の中ごろごろと転がっていた。

 その中身を眺めたフィルがメガネのブリッジに指をやる。

「ひい、ふう、みい……。八つですね」

「これ全部つけんのかよ」

「まだ奇数じゃないだけましじゃないですか」

 そう言ってフィルは一つピンバッチをとってシオンの左胸につけはじめた。

「すまんな」

「こういうのはそろってないと気になるでしょう」

 四つずつ直線上に並べ、裏のピンを刺しおえたフィルが一歩下がって感慨深げにシオンを見上げる。

「なんだ?」

「……いいや、お帰りなさい」

 そう言ってやわらかく笑ったフィルに、不意を突かれた形になったシオンは小さく息を呑んだ。

 そして、その言葉をかみ締めるようにうつむいてふっと笑った。

「………………。ああ、ただいま」

 間をおいて、もう一度顔を上げた時には、不敵な、フィルたちが知るシオンの、サナンの姿がそこにあった。

「それでこそあなたです」

「ああ。そうだな」

 ぱんと自分の両頬を叩いて、にやりと笑ったサナンは左胸にあるバッチに手をやって、首をかしげてフィルに目配せをする。

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