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Da sein―待ち人お嬢とやさぐれ貴族―  作者: 霜月美由梨
六章 みとめるおもい。
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六章 みとめるおもい。

 眉を寄せながらリノは聞き間違いだったのだろうかと思い、汚いベッドに目を細めた。

 そんなリノを見てか、ふっと陰のある笑みを浮かべて肩をすくめたグイードは、ランプを壁にかけてほこりだらけのベッドに、手際よくシーツをかけていく。

「……ここは俺たちが学生生活を過ごしていた場所でした」

 きれいなシーツに包まれたベッドを軽く叩いてグイードがリノを振り返る。

「学生生活?」

「ええ。ここを見つけた俺やフィル、そしてサナンは学生時代の大半をここで過ごしていました」

「大半? ああ、サボってたのね」

「……シオンもたまに来てたんですよ?」

「シオン、って、あの……?」

「ええ。サナンの彼女ですよ。……聞いてませんか?」

 不思議そうな顔をしたグイードにリノは自分が忘れているだけかもしれないと、思いなおして首を振った。

「忘れてた。かもしれない」

「……まあ、話していないのは、あれですね。彼女のことを恋人というよりはパートナーとしてみていた、プラトニックな関係だったからかもしれません」

「へえ。パートナー?」

「ええ。上司と部下の関係より親密で、男女の関係よりは親密じゃない。……本当に相棒という感じでしたね。サナンの不足な部分を彼女が補い、彼女ができない仕事をサナンが補う……」

「サナンさまの不足部分?」

 聞いた話では不足もなにもすべてにおいて完璧な仕事をしていたのだろうと聞いた話から判断していたが、そうでもないらしい。

 リノは首をかしげるとグイードは目を見開いて戸惑った顔をした。

「聞かれていないのですか?」

「なにを?」

 心底意外そうなその言葉にリノはまっすぐとグイードを見つめた。

 グイードは言いにくそうに眉を寄せてのどの奥でうなった。

「…………。俺の口から話して良いものか。あいつ、片耳が不自由なんですよ」

「………………え?」

 その告白に間を置いて聞き返したリノにグイードはため息混じりに部屋を歩いて、天井を確認すると壁を蹴り上げた。

 がらがらと音を立てながら入ってきた穴が閉じられていく。

「右耳が聞こえないといっていましたね。俺が見たところ皮しかないようでしたよ」

「え、ちょ、どういうことよ。片耳が不自由なんて」

「……片耳をふさいででも生活はできるでしょう? あれはそういう生活をしているだけです」

「……?」

「気づかないのは当たり前。あいつは隠そうとしていて、真実バレたことはないといっていました。観察力や洞察力を鍛えられている軍人ですら気づけないことです。あなたが気づけるはずない」

 きっぱりと言われてリノは開いた口が閉じられなかった。

 グイードはふっとため息をついてすぐにでも壊れそうな机に寄りかかると腕を組んでリノを見た。

「わかるんじゃないですか? あいつ、貴女と歩く時自分の左側に置こうとしませんでしたか?」

 その問いに即座に浮かぶ彼の言葉。


 確か、右手をとって歩こうとした時の言葉だった。

『そっちにいられたら右手が使えなくなるだろ、こっちきな』

『左手でも守れるでしょう?』

『そんな器用じゃないよ。ほら』

 そういって後ろ手で右手にあったリノの手を左手に絡ませて、引き寄せたサナンは穏やかに笑っていた。


「嘘……」

「本当です。これについてはあいつ自身あまり触れられたくない内容らしいですから。きっかけがなければあいつはいいだしませんよ。……今度あったときに右耳めがけて平手でもやってください。そしたらいいだしますよ」

 確信犯でそんなことはやることではないだろうに、と思いながらリノは顔を引きつらせていた。

「話がそれましたね。……そう言うところを彼女は補う、要は本当の右腕として彼を守っていました」

 グイードの言葉を聞きながら腹のそこが締め付けられるような切なさを感じていた。

 そして、一つの疑問があった。

「なぜ、彼女がそれを知ったのか、ですか?」

 リノの心を読んだかの言葉に顔を跳ね上げると、グイードはさびしそうな顔をして笑った。

「ただの事故です。といわざるをえない事故が起きたんですよ。内容が内容だから、俺らとシオンとキース大佐しか知らないことです」

「事故?」

「ただのじゃれあいが高じてシオンの平手が無防備な右耳、右側頭部に入って、体勢を崩したサナンが机の角にこめかみをぶつけて二、三日寝込んだんです」

「寝込んだって」

「そのまま死んでたかもしれませんね。当たり所が悪ければ。で、起きたサナンに事情聴取した大佐とそれを聞いていた俺たちが、耳のことを聞かされたんです」

 肩をすくめて言うグイードには在りし日を想う表情があった。

「そんなところですよ。……とにかく。ここには俺たちの学生時代の思い出が詰まっているんです」

 そう中途半端に締めくくられた言葉に首をかしげながら、リノは、また、ものを持ってくるといって階段を上がっていくグイードの背中を見た。

「……」

 なぜだろうか。その背中がすこしだけ小さく見えた――――。

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