六章 みとめるおもい。
閉じ込められていたリノが移動のため、二日ぶりに外を歩いていた。
深夜らしく、寒くないようにとかけられたブランケットが暗闇に包まれて見えなかった。
ブランケットを羽織っていても寒いことはグイードには内緒だ。
「どこに行くの?」
ちいさな声に、先を行くグイードが首だけで振り返り、リノの隣に歩幅を合わせて耳元でささやいた。
彼の手にあるランプがまぶしくて目を細める。
「軍のとある隠し部屋です。そろそろわたしの周りも騒がしくなるので」
「とある?」
「ええ、本当は将官クラスしか知らない、いわゆる機密って奴ですけどね」
そういいながらランプを置くと積み上げられた石壁の足元を蹴り、手馴れた様子で順番に壁を押していく。
「からくりになっていてね。ここを解くのに、オレとサナンとフィルの頭で一ヶ月かかりました」
がたんと大きな物音と共にほこりがすこしだけ舞った。
と、ランプを置いていた床のすぐ隣にぽっかりと穴が開いた。
「え?」
「ここなら見つかりませんからね。さ、どうぞ」
ひんやりと冷たい手がリノの手をとって、中へ導く。
ランプの明かりがあるがそこなしの闇をたたえた穴へ入るには足がすくむ。
「……。ランプを持っていてくれますね」
そう言ってグイードはランプをリノに持たせると背中を、リノに向けしゃがみこんだ。
「さ、どうぞ」
えと首をかしげると、階段が急だからとグイードは言った。
それに甘えてその背中に乗ると、ふわりと男性用の香水の匂いが香った。
「あ」
「嫌いですか? 香水は」
立ち上がってランプの明かりを頼りに、底なしの闇へ足を踏み入れたグイードが問う。
「いや、……懐かしい匂いだと思って」
「そうですね、そういえば、サナンも同じものを使っていた時期もあったな」
そういいながら、まるで昼間のようにつかつかと階段を下りていくグイードに、リノは思わず肩にしがみついていた。
「どうしました?」
豪胆なのか、ただ慣れているだけなのか。
そう問うグイードの声は平静だ。
「いや、なんでもないわよ」
つんと返すとグイードは小さく笑ったようだった。
自分の恐怖を見抜かれていると感じたリノはそっぽを向いた。
「……サナンが入れ込むのもわかりますね。貴女に」
しみじみと言われた言葉にリノは眉を寄せた。
「どういうことよ」
「……強がりですね。貴女は」
笑みを含んだ声で言われた言葉にあっけにとられていると、かあと頬が熱くなった。
「な、強がってないわ」
「……はいはい」
やわらかいグイードの声に、いらいらしてその頭をぽかりと叩いた。
「叩かないでくださいよ」
「あんたはこれで十分よ」
闇がだんだん広がっていき、暖かい空気が頬を撫ぜた。
「さ、着きましたよ」
リノを降ろしてランプを受け取ると、持ってきたらしいろうそくに火を灯して、どこかの燭台に突き刺した。
「それと、あと……」
暖炉を探し出してランプの火種を投げ込むと、ぼんと大きな音を立てて火がついた。
「すこし臭いですけど我慢してくださいね」
その言葉を無視して、リノは降ろしてもらった場所に立ち尽くして、グイードを見つめていた。
「どうしました?」
火をつけて振り返ったグイードにリノは唇を真一文字に引き結んで見上げた。
「いつまでこうしていなければならないの?」
まっすぐな問いかけにグイードはリノを見つめ返して、耐え切れなくなったように目をそらした。
「そうですね。四日後には出ています」
「四日後?」
「ええ。四日後までに決着がつきます。あなたの問題も、……俺とサナンのことも」
搾り出すように出された声で言われた言葉に、リノは首をかしげた。
「ということです。しばしの辛抱を」
そういったグイードの声はいつもと変わらなかった。




