幕間
とても気に食わないやつだと思った。
士官学校に入ったばかりの俺はきれいに整頓された教室で、あいつらを見て正直に思った。
そして今、俺はあいつらに意識を向ける。あいつらとは、一人は白銀の髪で瑠璃色の瞳を持った男と、黒髪で琥珀色の瞳を持った男のことだ。どちらかというと銀髪のやつのほうが嫌いだ。
そんな俺があいつらに興味を持ったことは、そいつらの能力の高さ故だった。俺は士官学校を主席で卒業することを求められている。俺の養父である、他でもないこの軍の総帥に。
そのためかクラスでも俺の存在は浮いていた。無論、養父のことは言ったことはないが。
対して、彼らも逆の意味で浮いていた。やつらはいつも抜け出して教官の大目玉を食らうことが多かった。大目玉を食らい、一日では終わらない課題を出され、難なく次の日に教官室に叩きつけたという素行の首席と三位だった。無論、根っからの優等生であった俺には考えられないことだった。
そんなある日、やつらは俺に声をかけてきた。やつらとつるむ第一声があれだったとは、所詮、そんなものかと今でも笑える。
「なあ、弁当くわねえ?」
授業中、銀髪のほうの男がペンを落としたついでにそんなことを言ってきたのだ。実際、バカはこの銀髪の男で、黒髪のほうはとばっちりを食らっているだけだった。
「バカ言うな。次の時間は」
「次の時間さぼんだよ。オレ、あの教官嫌いだし」
確か、次の時間というのは体術だった気がする。その体術教官は、のちに彼が病院送りにというよりムショ送りにした、軍内外から有名な問題教師で、その頃から何らかの苦手意識を持っていたということを俺は知っていた。
「そんなことしているから、目をつけられんだろう」
板書に目を通しさらさらと映しながら言うと男はうれしそうに俺の方向を見ていた。
「なんだよ?」
正直、うざったいから、ちらりと見るとうれしそうな顔のまま口を開いた。
「お前って、話せるんだな」
虚を突かれてペンを取り落としてしまった。それを床に刺さる直前にとり、何事もなかったようにつくろって銀髪の男の顔を見る。
「だってお前、話したことないだろ、この教室じゃ。へんなうわさ立ってるんだぜ? 五個上の先輩となんかあるんじゃないかって」
「ああ、ウィルツ先輩のこととか。俺の育ての親の部下だから、接点があっただけだ」
「だよな。なんか、お前ゲイ疑惑立ってたから心配でさ」
「冗談じゃない。気色悪い」
正直に言うと銀髪の男はさらにうれしそうな顔をしてうんうんとうなずいていた。
俺は、基礎戦術の教官に見つかりやしないかとひやひやしていた。だが、ふと自分の席が一番後ろの目のつけにくいところにあることに気づいて、ふっと気を抜いた。
「だよな、ゲイってありえないよな?」
「ああ。……それがどうしたんだよ、というか、前向け」
板書を映してまた銀髪の男を見る。と銀髪の男の後ろに座っていた黒髪の男が教科書で彼の頭を叩いた。
派手な音を立てて銀髪の男は机につのめり教官があきれて怒ったようにこちらに来た。
「またなんかやらかしたのかー? まったく、お前らは、せっかく講義に出てきたと思ったら問題行動しか引きおこさねえな」
「すいませんね。僕は、こいつが、グイード君にちょっかいをかけてたから、止めろと入れたんですよ」
そんな言葉に教官は銀髪の男を虫でも見るような眼差しで見てつばを吐きかけた。
「いい加減にしろ、このバカが」
銀髪の男はそんなことをされてもへらへらと笑っているだけだった。
ここで俺は、初めてこの男に能力以外で興味を持った。否、クラスの人物に興味を持ったのだ。
休み時間、教官に呼ばれしばかれた彼を捕まえてこのことについて聞いてみたのだ。
「なんであんな事されて、しまりのない表情できるんだ?」
それが、一番興味があった。間違いなく俺は殺していただろうし、そこまでいかなくとも、へらへらと笑っていられるやつの気が知れなかった。そうしたら、やつはなんともおかしい答えを返してきたのだ。
「とりあえず、上司だし。やる気になればあんなの、どうにもできるからさ」
どんな権力を持つのかは知らなかったが、俺は、軽く納得してしまった。そこで納得してしまったから、この後こいつらと生活を共にし先公に目をつけられ面倒な日々を送ることになったのだ。
だが、こいつらといられた日々は、とても充実していたように思えた。そして、もしあの時、あのことがなければ、俺もあいつも黒髪のバカも今でも一緒に笑い合えていたかもしれない。
そう、すべてはあの日から、はじまったのだ――――。




