五章:廻り始める歯車
王城の地下一階。
「サナン中佐」
「おうおう、久しぶりだな。ここであってるか?」
「なにがです?」
外套を着てテオを連れたシオンは、王城の地下一階に居を構えるとある国務機関へ顔を出そうとしていた。
「公安部」
「……っ。その手荷物と言いなんの用です?」
声色を変えた案内の王城の者にシオンが笑った。
「掃除機を借りに」
ひょうひょうとそう言って、部屋の扉をノックして一歩入った。
「ここがどこか、知っているかな?」
部屋はろうそくが一本灯されているだけで暗い。
だが、人が何十人も部屋にいてだれもがシオンを見ていた。
「ええ。知っています。自己紹介が遅れすいません。国軍の中佐、のものです」
「国軍が何用だ?」
冷ややかな声にシオンが口の端を吊り上げて周りを見て目を細めた。
「何用って一つしかないでしょう? 公安部に折り入ってお願いしたいことがありまして、お伺いしました」
「裏があると思わざるをえないな」
「じゃあなんで俺は、こんなに身分のわかりやすい格好をしているのです?」
そう言ってテオにうなずきかけて、テオの手持ちにあるランプに火をつけてシオンを照らした。
「……、あなた様は」
「名乗るのが遅れて申し訳ございません、長老。サナンです」
もう一歩中に入って部屋に入ったテオが扉を閉めてランプを持ったまま部屋の中ほどに進む。
「驚いたな。お前がなぜここに来る?」
部屋の奥でイスに座りシオンをまっすぐと見つめる老人、大叔父にシオンは笑ってみせる。
「スウェリア嬢がさらわれたということは耳に入っていますよね?」
「下界のことはお前らが……」
イスに座ったまま眉を寄せ、わずらわしそうに顔を背けた彼にシオンが手荷物を差した。
「それに、あの汚職まみれの総帥が絡んでいるとしたら? 俺たちはしょっぴく材料の準備できています」
「それがどうした? そなたの利権のみでは動かんぞ」
頑なな老人に苦笑をしてみせたシオンは遠巻きに見つめている公安部の面々の顔を見回した。
「俺の利権なんてどうでもいい。スウェリア嬢を助け出さなければ、人質にされて貴族の権力のバランスが取れなくなりますよ? 軍国に傾き、やがて、国が破れるでしょう。そんなことがあってもよろしいのですか?」
一歩踏み出してシオンが手荷物と呼ばれた手提げの袋から紙を引っ張り出して、老人の目の前に置いた。
「俺の部下が危ない目に遭いながら盗ってきた証拠です。どうです?」
「……」
老人がゆっくりと目を通す。
周りの目が老人に向き、そしてシオンに向く。
そこにあるのは確かな敵意と疑い。
「確かにこれはクロだ。お前の見立ては?」
「俺の見立てとすれば、連中はこの爆発事件の犯人をサナンに仕立て上げて始末したところでリノを奪い取る。町ひとつ壊滅させる爆薬を爆発させるには今の雷管の技術じゃ少しムリがある。だから、銃かなにかで火を与える必要がある。風上にあるシオンの家で遠距離の狙撃をしたと考えて良いでしょう。そしてそれが出来る腕を持つ人物はというと……」
「そうではない。人についてだ」
ひらひらと目の前に差し出された紙を示して老人がシオンを見上げる。




