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Da sein―待ち人お嬢とやさぐれ貴族―  作者: 霜月美由梨
五章:廻り始める歯車
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五章:廻り始める歯車

「元俺の部下で、引き抜ける人間をここへ」

「えー、ここ対策本部ですかー?」

「じゃあ……」

「執務室に戻れば良いでしょう? あなたの所はずっと空いてますから」

 その言葉にシオンが心底驚いたと言いたげな顔をして目を見開いた。

「そりゃどうも。で、なんで?」

「あなたの執務室になにがあるかわからないからですよ。だって……」

「落とし穴掘ってあったからな。じゃあ、あれもそのまんまか」

「あれってなんですか?」

 首をかしげたフィルにシオンはしれっとして言い返す。

「床板裏にいっぱいの大人な本」

「……」

 周りの空気が外と同じように凍った。

 顔を引きつらせたフィルに、無表情になったテオがぼそりとつぶやいた。

「嘘付け。机の裏のスウェリア嬢の写真の癖に」

「え、それ」

「へえ、盗撮写真ですか?」

「バカ、んなわきゃねえだろ。ちげえよ。医務室につながってるはしごだ」

「そのまんまなんですか? ほんと、めーわくな」

「迷惑言うな。べつに良いだろ、あそこ使うの俺しかいないし。落ちるったってお前が診るんだからな?」

「それは自己責任です」

 きっぱりというフィルと、楽しげにしているシオンの姿に、テオはそっとため息をついてパンパンと手を叩いて立ち上がり、脇にかけてあったシャツをとって二人を見た。

「で? 先輩の執務室に行くんじゃないんですか?」

「あ、そうだな。俺が行って平気か?」

「いや、平気ではないでしょう。私が先触れに大佐の所に行きます。呼んだら……」

「んなことできるわけねえだろ。ロビーで待つ」

「へんなことしないように見張っててくださいね」

 容赦なく言う言葉に、テオがシャツに袖を通しながらしっかりとうなずき、シオンが苦々しい顔をしていた。

「では、行きますよ」

 ずれたメガネを中指で直して、いつもと変わらない穏やかなフィルの声に促されたテオとシオンが並んで扉をくぐる。

「先輩」

「ん?」

 着ている軍服の襟元を緩めながらシオンが顔を向けると、テオは一歩先に出てシオンに体の正面を向けて深々と腰を折った。

「すいませんでした」

 背中が見えるほど深く頭を下げるテオにシオンが深くため息をついた。

 フィルが見なかったふりをして先に玄関を出て扉を開ける。

「お前が無事ならそれで良い。あとでリノに礼を言っておくようにな」

 それだけ言ってシオンは笑ったその肩を軽く叩いた。

 まるで再会できるというようなその言葉にテオが唇をかみ締める。

「ほら、行きますよ」

 フィルのその声にうなずいてシオンはテオの横をすぎていく。

 テオがぐっとこぶしを握って目元を強くこすってからその背中に着いていく。

「今も昔も、大佐の執務室などは変わってません」

「変わっているところがあるとしたら?」

「グイードの執務室が、エリートクラスの階に移ったことですかね」

「ああ、魔の四階か」

「あなたに関したらね? でもいずれは入るんですよ?」

「やだね。入り口から近いほうが良い」

 ポケットに手を突っ込みながらシオンは子供のようにぷいっと顔を背けた。

 そんな彼に深くため息をついて肩をすくめた。

「それに、もしかしたらこのことがすんだら……ってこともありえるんですからね?」

「いや、それはないね」

 即答したシオンに、片眉を上げて応じたフィルは、説明してくれというようにテオを見るがテオも首をかしげている。

「なんでそこ、即答するんです?」

「ことがすんでも始末書を書かなければならないだろう?」

「やらかす前提でやるんですか?」

「じゃなきゃやってらんねーよ」

「一人で書いてくださいね?」

「え……」

 言葉を詰まらせたシオンにフィルは当たり前でしょうとつぶやいて、目の前に現れた防御を重視したいかつい門を見て目を細めた。

「フィル中佐、帰ったんじゃないんですか?」

 目を真ん丸くして、門の奥から顔をのぞかせた少年の手には膨大な量の書類。一度その書類を中に入ってロビーの机においてきて、少年がぱたぱたと走ってきた。

「あれ、お前……?」

 じと目を送ったサナンをきれいに無視してフィルがにこりと笑った。

「すこし入用で。なぜここにいるんですか?」

「中佐の代わりにキース大佐の所へ提出するところです。……後ろのかたがたは?」

「今にわかりますよ。大佐に馬鹿が帰還したと伝えてくれ。急ぎで」

「バカ……? あ、はい。了解です」

 士官学校を卒業したてだと思われる、首をかしげた少年は両手に書類を抱いて建物の中に駆け足で入っていった。

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