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四章:約束

 そして、夜になった。

 それでもシオンは帰ってきた気配を見せずに誰もいない部屋は重たい静寂をまとっている。

 さすがにおなかが減ってリノがベッドから出ると、サイドテーブルに置き手紙がおいてあった。

『帰り遅くなる。先に食べていろ。テオに粥を』

 急いで書いたらしいその手紙にリノは眉を寄せて軽くうなった。

 一度帰ってきてまた出ていったということだろうか。

 テオと話したあと、放心していたリノは我を取り戻し、ベッドルームを抜けて水を飲みに行ったが、その時はだれもいなかった。

 その後、部屋に戻り今まで眠っていたが気配も感じさせずに部屋に入るとはいかがなものか。

 帰ってきたら文句を言ってやろうと部屋を出るとちょうどシオンも帰ってきたようで、燭台を片手にトップハットを脱いでいた。

「今起きたのか」

「寝てる間に部屋に入るのは」

「わかっている。急ぎの用があった。すまない」

 素直なその言葉に目を瞬かせて言葉を失ったリノは、手紙をテープルの上に投げてイスに座った。

「飯、食うか?」

「当たり前よ!」

 その威勢の良い声にシオンは、あきれたように苦笑して燭台をテーブルの上において部屋の外に出ていってしまった。

「あ……」

 一人残されたリノは暗い部屋を照らし出す三本のろうそくを見、そしてシオンが消えた扉を見て顔を伏せた。

 ゆらゆらと、ろうそくが揺れると影も揺らめく。

 開けっ放しのカーテンの陰影も、古びた家具の姿さえも揺らめいているように感じられた。

「……リノ?」

 低い呼び声にハッと顔を上げるとシオンが両手に皿を持ち、客室世話係の男性に残りの皿を持たせてやってきた。

「ここでよろしいですか?」

「ああ。給仕を頼めるか?」

 もちろんチップは弾むと言いたげなそのシオンの顔にしっかりとうなずいた世話係の男性はリノの分の食事の給仕をはじめた。

「彼と一緒に食べるわ」

「左様にございますか」

 手を動かしはじめた男にそういうと、リノは皿を持ってテオが眠っていると思われるベッドルームの中に入っていったシオンを待った。

「……待っていたのか?」

 意外そうなシオンの声。

 リノはろくに顔を合わせられずにそっぽを向いていた。

 シオンがそんなリノを見てあきれたのかため息をついて、自分も席について男に給仕をはじめさせた。

「……ここのシェフはなかなか良い腕だ」

「いえ、そんなことはありません。お客様に最高のおもてなしを考えただけです」

 もったいぶった男がシオンのグラスにワインを注ぐ。

 ろうそくの不安定な明かりにも鮮やかな紅色。その色をみてシオンの目が満足気に細まる。

「そうか。……今度利用する機会があるならば、ここを利用しようか」

 手馴れた手つきで食事をとっていくシオンにぜひともとにこやかに返す男。

 リノは、そんな二人の会話を聞きながら手は進んでいなかった。

「食欲がないのか?」

 ワインを口に運びながらシオンがリノに話しかけるがリノはなにも返さずに、スプーンでポタージュを口に運ぶ。

「おい」

「べつに、そんなんじゃないわ」

 白パンに手を伸ばしてちぎって口に放り込む。

 シオンがなにかを言いたげに口を開いたが、言うのをやめてもう一度ワインを飲む。

「彼女のために、ホットワインを頼めるか?」

「ただいま手配します」

「いらない」

「いらない、じゃない。飲め」

 シオンが紙になにかを書いて男に渡してから準備に行かせる。ぱたんと扉が閉まる音を聞いてから、シオンがリノに向き直って口を開いた。

「サナンが気になるか?」

 二人きりになったダイニング。

 ろうそくだけが二人を照らす。

「……うん」

 ぴたりと手を止めたリノにシオンはため息混じりに、そうか、とつぶやいて立ち上がると燭台を手に部屋のろうそくをつけてまわった。

 一気に暖かな色に明るくなる部屋にシオンは満足気に見回して、テーブルに燭台を戻して空になったグラスに自分でワインを注いだ。

「なんと言ったらお前は信じてくれるんだかな」

 その言葉にリノはなにも言わずにスプーンを持った手を見つめた。

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