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四章:約束

「……ありがとう」

 包んだ手をすぐに離してテオはリノの頭を引き寄せた。

 ピクリとリノの体が強張るが素直にテオの胸に頭を預ける。小さなぬくもりが胸に寄り添う。

「悲しいんですね」

 優しいテオの言葉にリノはテオの胸に甘えながらこくんとうなずいた。

「あたし、妾腹の生まれなの」

「お嬢様?」

「だから、侍女が数人いただけで。……。だから、ヴェルフが私の執事になるって聞いた時、……うれしかった」

 リノの静かな告白にテオはただ黙ってリノの頭を抱えていた。

 リノにつかまれた手はそのままで、すがりつくように強められたちいさな握力を胸に感じていた。

「でも、そのヴェルフも……」

「……酷なところをお見せしましたね」

「ううん。……でも、結局私は踊らされるさだめなのかと思ったわ」

「そんなことありませんよ」

 とがめるようにきつくなったテオの声に頭を振って、リノは空いたもう片手でテオの服をつかんで額を強くその胸に押し付けた。

「だって、だって、迎えに来てくれるっていったサナンさまだって、結局今の今まで迎えに来てくれてないわ」

「お気を強くお持ちください。あの方は、あの人はもうすぐ戻ってきます」

 低い断定の言葉に首を振ってリノは口を開いた。

「……私の願いっていう幻想の中を一人だけ踊って、必ず来てくれるっていう甘い夢の中を歩いているだけじゃないかって、思うの」

「お嬢様」

 テオの声に、リノは顔を伏せた。

 悲しげなその声になにも言えなくなって、リノは黙ったままテオの胸にすがっていた。

 心細くなったのはきっと熱のせいだと言い訳をして、胸を刺す痛みを無視していた。

「……大丈夫ですよ。サナン様はいますから」

 諌めるような落ち着いた声にリノはなにも反応できずに目を閉じていた。

「形見に短剣なんて渡すような阿呆じゃないですから。あの人。それに、亡くなっていればあなたはヴィストラート家の長女として、養子として引き取られる手はずになっているはずです」

「え?」

「あなたと最後に会ったときにいってませんでしたか?」

「なんでそんなこと知ってるの?」

「聞きましたから」

 抱きしめていた手を離してテオが小さく笑う。

 リノも離れて恨めしそうにテオを見ていると、彼は空いた手でリノの額を指先で弾いた。

「いた」

「そんなこと、もう二度と言わないでくださいね。あの人、姿見せていない割にはあなたのこと気にかけてましたから」

「え?」

 目の前に立つテオを見上げると、テオはリノの頭に手をやりながら笑っていた。

「彼女を失った今、帰るべき所はあなたの隣なんですよ。そんな人に存在を疑われてそんなことを言われたら結構ショックですよ?」

 首をかしげたテオに、リノはその顔を見ながら目を伏せてこくんとうなずいた。

「そうね。……私にできるのは待つことね」

「そうです。……ま、あとオレにできるのは」

 いたずらっぽい笑みを浮かべてテオはふっとリノの頬にキスを落とした。

「サナンさまを早くあなたの所に訪ねさせるおまじないぐらいですかね?」

 状況を理解できていないリノを笑ったテオは、仕上げと言わんばかりにぽんぽんとリノの髪の毛を撫でて、外に出ていった。

「……え?」

 彼の背中が完全に消えてから、かさついた唇の感触と熱い吐息が頬をなめるように這っていたのを感じていた。

「……?」

 顔を真っ赤にさせて唇が触れたあたりを指先で触れてしばらく放心していた。

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