三章:決別の言葉
「で? 変装ったってどこいくんすか?」
「いや、どうせ外に出る機会があるし、それにこのまま王都に行くにせよ時間稼ぎをするにせよ服はこまめに替えてかく乱しなければ捕まります」
服を壁にかけてそういったテオはため息混じりに目を伏せた。
「金がなくなった……」
「オレもない」
「……」
しらっとした雰囲気でシルヴが言うのを聞いて、テオが恨めしそうにシルヴを見た。
「銀行でだしゃいいっすよ? 中佐名義だったら一杯あるんじゃないっすか?」
「足跡残せばお金と一緒にいっぱい追っ手がかかるんですよ」
どうしようと財布を取り出したテオの手には確かに銀色と銅色しか見えなかった。
「……出ていく時にオレが中佐に変装して出す、か」
「テオ」
そんな話をしている時シオンが壁に手をつきながら地下から上がってきた。
「あれ? 寝てたんじゃ」
「盛りなれた薬を飲まされても効果がないのはわかっているだろう。あれはオレには思うとおりに使えなくなっているぞ、シル」
「うっ……。へい。あとで強いの用意します」
うなったシルヴに、シオンはふっと小さくあきれたように笑って用意された服に着替えはじめた。
「どこに?」
「武器商。銃弾が切れそうだ」
「ああ、じゃあ、オレも……」
「お前は?」
「刃こぼれしちゃったんで。あと、お嬢様の護身具を」
「え?」
「ほら、腹を決めたら人にナイフを向けられるほどの肝を持っていらっしゃるのでね。いざって言うときつかえんじゃ……」
「それは、笑って言うことじゃないぞ」
リノがばつが悪そうにそっぽを向いて、シオンが的確に突っ込む。
テオが言っているのはリノがシオンに、胸に隠していたナイフを向けて刺そうとした時ことだろう。
「ありゃ、まだ笑い話にゃ早すぎたんですね」
本気で気にしないで言ったのだろう。
申し訳なさそうにリノを見て肩をすくめた。
「ま、そういうことで。オレたちになにがあるかわからないんでね?」
「……そのとおりだな。それは連れていくのか?」
「人を見て決める人じゃないですか」
その言葉に不服そうに息を漏らしてそっぽを向いて、扉を出た。
どうやら勝手にしろという意思表示らしい。
「ちょっと待ってくださいね」
テオがバンダナを解いて手櫛で髪を整え、きっちりとのりの利いたコートに身を包んで靴を履き替えた。
「さあ、行きましょうか。お嬢様」
バンダナをポケットにしまって優雅に一礼したテオは、良家の執事そのものだった。
品のよさそうな若い面立ちと、すきのない物腰。
微笑みをたたえるそのやわらかい表情と、洗練されたその動作の一つ一つ。
貴族同士で理想とされる執事の姿そのものだ。
「え?」
「ほらね?」
そんなテオを見て言葉をなくすリノにシルヴが得意げに言って笑う。
そしてシオンがかぶり忘れた帽子を手にして扉を開けてシオンに渡した。
「帽子、用意していたのか?」
「ええ。目立ちますから」
「……拭かなきゃならないじゃないか」
そう言ってシルヴに濡れタオルを用意させると、シオンはそれで頭をガシガシと拭きはじめた。
「え?」
濡れタオルをたたみ、こちらを見たシオンの髪は、銀糸のようにきれいな色をしていた。
「あんなにきれいな銀髪はまれですからね。帽子が汚れるからこういう時はちゃんと戻すんです」
黒ずんだタオルをゴミ箱にぶち込んだシオンを指してテオが解説を加える。
シオンはそんな二人の会話を聞いていないようで、すっと帽子をかぶると深めにかぶり目を細めた。
「見えますか?」
「ああ。問題ない」
「じゃ、行きましょう」
「……シル。ごたごたがあればこっちには戻らない」
「わかりました」
うなずいたシルヴに片手を上げて応じたシオンは、裏通りから表通りの人並みに身を躍らせた。




