三章:決別の言葉
「錬金術の延長っすよ?」
首をかしげながら地下から上がってきたシルヴは、上機嫌に笑いながら席について自分の分に口をつけた。
「先輩は不機嫌か」
「あれ? わかったっすか?」
「しばらくは行かないほうが良いか」
「寝てますよ?」
「え?」
「ちょっとあの皿一服持ってあって……」
食べながらしれっと言われた言葉にリノとシルヴが同時にスプーンを取り落とした。
その様子にわざとらしく肩をすくめてシルヴは顔をやわらかくほどけさせた。
「ああ、大丈夫ですよ? ……あの人、頑固だから薬飲みたがらないし、そのためのパン粥だったりすんですけど」
「……子供に薬を飲ませる親か」
突っ込んだテオの言葉に、シルヴはそんなもんですかねえと頬を掻きながらうなずいた。
「で? 先輩になに飲ませたんです?」
「解熱剤と、鎮痛剤と、栄養剤とえーと……。必要だと思ったもの全部ぶち込んだんで」
「味は?」
「崩れてないと思うっすよ? まあ、形が残っちゃったりしたんで薬膳だってごまかしましたんっすがね」
「食ったあとにばれたと」
「はい」
しっかりとうなずいて、いたずらが成功した子供のように笑い出したシルヴにテオは深くため息をついて片手で顔を覆った。
「まあ、こうなることも半ば予想はできてたんであとはダメ押しの睡眠薬でバタンキューさせたんすよ」
そこまでくると用意周到どころではない。
計画的な犯行としか言いようがない彼の盛り方に、突っ込むこともできずに二人はスプーンを手にとることも忘れてあきれ果てていた。
「まあ、あの人も食べるもの食べないで、本当にやばくなったら食べる人ですからねえ」
「旅に出てから余計に拍車かかったんじゃないっすか?」
そんなシルヴの言葉に、テオはため息混じりにうなずいて苦笑交じりに肩をすくめた。
「まあね。不眠は本当に、あの出来事が原因だし、結果的には有益なのか」
「ええ。そんな不利益になるような盛り方はしないっすよ。どうせ忙しいんだから、睡眠薬の量だって二時間ぐらいできってあるっすよ?」
「鎮痛剤はながめ?」
「ええ。あの人いろいろ動かすから傷の治りがおそいっすけど、そんなの気にしないで動くでしょ? だったら気にならないようにしてやるんすよ。まあ、切れたときの痛みははんぱじゃないっすけど」
にやっと笑ったシルヴにテオはため息をついて肩をすくめ、取り落としたスプーンを取り上げてパン粥に口をつけた。
「あなたを味方に引き入れておいてよかったですよ」
「オレもそう思いますよ。あの人の部下になってよかった」
「そう言ってくれるのであれば、あの人も喜びますよ」
そう言って微笑みあう二人に、話しについていけていないリノが首をかしげる。
その様子を見てテオは深く笑って空いた片手でリノの頭を撫でた。
「昔は、この人、敵のスパイだったんですよ?」
「え?」
目をむいたリノに軽くウィンクしてみせるシルヴ。
今ではそんな様子はない、むしろ、シオンの身を案じる一部下だが、昔はそうでもなかったらしい。
シオンとシルヴの口調は古くからの知り合いのようでそんな過去があるとは思いもしなかったのだ。




