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その9 ニコは頑張る

「……こんにちわぁ」


 ある日曜日。ため息をつきながら喫茶店へと入ってきたのは黙っていれば美少女、ニコである。


「ん? ニコか。どうした? 今日はお前は休みのはずだが」


「あ、店長。いや、それがですね……」


 そう言ってニコは目をふせ、口をもごもごとして何かを言いたいけれど言いづらそうにしている。


「店長、どうしました? あ、ニコさん。お久しぶりです」


「と、塔野くん。久しぶり」


「ニコさん、何で最近来ないんですか? そういえば十日ぶりぐらいですよね」


「あ、えと、その、それは……」


 そう言ってニコは下を向き、口をもごもごさせたまま。どうしたんだろうと塔野は心配そうなかおをしているが、小夜はそうでもないようだ。


「オマエのことだからどうせアレだろ。アニメ見逃しただの限定版の何かを買い損ねただの」


「バイト……やめなくちゃいけないんです」


「えぇ!? 本当なんですかそれ!?」


 塔野がいつになく大声を張り上げニコに問うと、ニコは力なく一度だけ小さく頷いた。


「結婚……させられるみたい」


「け、結婚!?」


 『何かのアニメの話だろうか』と訝しげな表情をする塔野だったが、ニコの顔を見る限りでは本当の話らしく思われる。

 とりあえず事情を聞こうと口を開こうとした途端、先程まで沈黙を保っていた小夜が突然声を荒げた。


「バイトを……やめる……だと」


「……え? まだそこですか?」


「いや、オマエ……それはダメだろ。ダメだダメだ絶対ダメだ」


「……なんですか店長急に?」


「だってオマエ……オマエがやめるってのは閉店を意味するじゃないか」


「えぇ!? ニコさんそんなに重要!? 喫茶店の生命線ですか!?」


 と、塔野もツッコミを入れてみるが、反応はない。二人とも苦渋に満ちた表情をしていて、塔野はその今まで見たことのない顔に、ただ事ではない雰囲気を感じ取っていた。


「え、えと、あの、えと……」


 何か聞こうとするも、塔野はあわてふためいてしまって上手く言葉に出来ない。隣の小夜を見ると、小刻みに震えて顔を手で覆っていた。


「て、店長――」


 泣いてるんですか? と聞こうとした瞬間だった。


「可愛い……」


「へ?」


「慌てている塔野が可愛すぎてヤバい」


「何ですか急に!?」


「急にじゃない。5分ほど前から可愛すぎて上手く言葉が話せなかった」


「さっきまでやたらと途切れ途切れに話してたのはそのせいですか!?」


「当たり前だろう。他に何があるんだ」


 そう言ってキョトンとする小夜を見て、塔野は小さくため息をついた。


「もう……この喫茶店が潰れちゃうから店長が焦ってるんだと思ってましたよ」


 なんでニコさんの結婚云々と喫茶店が潰れるのが関係あるのはわからないけれど、と心のなかで付け足す。


「まぁそれはニコが辞めたら、の話だがな。そうでもない限り、潰れることはないぞ。なんと言ったってここにはツンがいるからな」


「なんでツンさんがいたら大丈夫なんですか? っていうかそれ以前に、前々から思ってたんですけど、この喫茶店、お客さんが1日に5人ぐらいしか来ないのにどうやって経営が成り立ってるんですか?」


「なんだ急に長文を話すな。必死に話すオマエの顔が可愛すぎて半分も聞いてなかったじゃないか」


「聞いてくださいよ!」


「いや、すまんすまん。だからアレだろ? ツンが1日5人しかいないのにどうして経営が成り立つのか、って話だろう?」


「どんなまとめ方!? 違います! だから」


「ちょっと待って下さい!」


 ニコの突然の叫びに、先程まで漫才のようなやり取りをしていた二人も思わず静まる。


「……すいません、大声出して。でも、今回は本当に大変なんです」


 その真剣な表情に、思わず塔野は喉をゴクリと鳴らしてから、静かに口を開いた。


「今回『は』ってどういうことなんですか?」


「……私は今までに3回、結婚させられそうになってる」


「えぇ!?」


「その度にツンくんや店長が助けてくれたんだよ」


「ど、どうやってですか?」


「1回目はツンくんが彼氏のフリをして。2回目は店長が彼氏のフリをして」


「……ん? なんか今おかしなことが聞こえた気がするんですが」


 店長が彼氏? あれ? 店長って性別なんだっけ?

 混乱する塔野を見てニコは楽しげに笑う。


「違うよ。私が同性愛に目覚めたって設定にしておいただけ」


「あぁ、なるほど。……いや、なんでそうなったんですか? もう1回ツンさんに頼めば良かったのに」


「いや、そのあとしばらくして別れたって言っちゃったんだよね。原因は主に夜の営みが」


「いいです。別にそこ言わなくていいです」


 塔野が冷たくあしらうと、ニコは不満そうに口を尖らせる。しかしそれもすぐにやめ、思い出したように『あっ』と呟き、話を再開した。


「それでね、今日は塔野くんに話があって来たの」


「……なんでしょうか」


 塔野はほとんど言われる内容がわかっていたが、一応聞き返しておく。


「あのね、私の見合い相手に会ってほしいの! 女装して!」


「………………え?」


 しかしそれは、塔野の予想を上回るものだった。

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