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その4 小夜とツン似る?

「ツンさんと店長って、やっぱり似てますよね」


 始まりは、塔野の何気ないこんな一言だった。


「……あ?」


「ひっ」


 その言葉に対し、今までにないほど恐ろしい表情を見せたツン。それを見た塔野はビビりまくりである。


「え、あ、だってその、髪形も似てるし、目とかも」


「似てない……だろ?」


「あの、えっと」


「ツン、何塔野をいじめてんだ」


 そこに颯爽と現れたのは小夜。しかし救世主とは成り得なかったようで、塔野はさっきまで恐れていたツンの背後に瞬時に隠れてしまった。


「別にいじめてねぇよ。カス沢事件以来の暴言を吐かれたもんでちょっとイラついただけだ」


「カス沢……あぁ、あいつか。んで、オマエ何て言ったんだ?」


「いや、ツンさんと店長が似てるなぁって」


「……あ?」


「ひぃぃぃ!」


 恐怖再び。正直言って反応が一緒な時点でこの二人結構似ている。しかしもちろん塔野はそんなことは口にしない、というかできなかった。


「似てないだろ……全然似てないだろ」


「だ、だって髪形とか! 二人とも縛ってますし!」


 塔野の言う通り、長さに違いがあるものの、ツンも小夜も後ろで髪を縛っていた。しかしそれを言われた途端、二人同時にゴムを引きちぎった。


「えぇ!? ちぎった!」


 そして何故か『ツンと小夜はどれだけ似ていないか?』という題で議論が始まったのだ。営業時間中なのに。


「お前、ちぎってねぇよ。なんかゴミがついてたからだな」


「私は……なんだ、ゴミがついてたから」


「いや、ゴムですよ! っていうか二人とも同じ理由じゃないですか!」


「お前真似すんなよ」


「オマエこそ真似すんなよ」


「真似すんなって言う方が真似してんだよ」


「じゃあオマエが真似してるんだろ」


「小学生か!」


 至極もっともなツッコミである。

 しかしそれを聞いた途端、言い合いをしていた二人は同時に塔野の方を向いた。


「いや、それはお前だ」

「いや、それはオマエだ」


「ひどい! っていうか何ですか! 息ぴったりじゃないですか!」


 少し涙目な塔野が喚くと、二人はポリポリと頭をかく。


「だって俺小学生じゃないし。もう20だし」


「私18だし」


「いやそうじゃなく……若っ! え、店長18ですか!?」


「なんだ塔野……オマエにはどう見えてるんだ?」


 そう言う小夜の背後には『ゴゴゴゴ……』の文字が見え、何やら黒いオーラが渦巻いている。


「あ、いや、店長落ち着いているから大人びて見えると言うか」


「ふむ、つまりお前には小夜が二十代後半の行き遅れ女に見えていたと」


「ちょっとツンさん黙って!」


 塔野はツンを制すが、もちろん小夜にも聞こえていたわけで。見ると、小夜は小さく拳を握りしめ、わなわなと震えていた。


「…………」


「えーっと、店長?」


「……うっ」


 あれ? 泣いてる?

 塔野は異常を察し小夜の顔を覗き込むが、小夜は顔をそらした。


「あの、店長」


「…………」


「あのー……」


「…………」


 やってしまった。表情は全く見えないけれど、多分これは泣いている。

 塔野はかなり焦りながら全ての原因であるツンを見やると、隣にはいつの間にやらニコがいて二人で何やら話していた。

 何か嫌な予感がする。そう思った途端、ニコは塔野の方へ小走りで近づいてきた。


「ちょっと塔野くん、ダメでしょ」


「はい、すみません……。でも直接の原因作ったのはツンさんですし」


「違う違う。そうじゃなくてツンさんと店長が似てるなんて言っちゃダメでしょ」


「え、そこですか?」


「そうだよ。髪形も目も一緒なんて、描き分けられない漫画家じゃあるまいし」


「……何の話ですか?」


「そりゃね、カス沢先生の新作は確かにヒロインの外見がかなり前作のヒロインに似てるよ? でもね、やっぱりキャラが違うんだから」


「……店長」


 『カス沢って誰なんだ?』と心の中で呟きつつ、ニコの語りを華麗に無視して塔野は小夜の方を向いた。


「何て言うかその、すみません。っていうか僕はあんなこと思ってませんから! ツンさんが言っただけで」


「…………」


「それにホラ、髪を縛ってない店長、なんか可愛いですよ!」


「本当か?」


「え?」


 小夜が突然顔をあげて言うものだから塔野は思わず声が裏返ってしまった。


「本当に可愛いと思ってるのか? こんなに可愛いオマエが」


「え、あ、はい」


「そうか……よし」


 そう呟くと何もなかったように立ち去ろうとする小夜。塔野は思わずそれを引き留めた。


「ちょ、店長、泣いてなかったんですか?」


「はぁ? 私がいつ泣いてたんだ」


「でもツンさんにあんなこと言われて顔を隠したじゃないですか」


「いや、それはツンがやれって言ったんだ」


「え?」


 光の早さで塔野がツンの方を向くと、ツンは無表情でやる気なさげに手を振っていた。


「い、いつですか?」


「別にそんぐらい、目を見りゃ伝えられるだろ」


「すごっ! 無理ですよ普通は! ってかなんですか、なんでこんなことするんですか!」


「いや、お前が小夜のことが苦手だって言うからそれを治してやろうと思って」


「逆効果ですよ! 何なんですかもぉー! っていうか目で見て通じ合うとかもう双子レベルで似てるじゃないですか!」


「…………あぁ?」


「ひぃぃぃぃぃぃ!」


 そして、背の高い女性がより苦手になる塔野であった。

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