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その1 ここがいわゆる

「喫茶いわゆる、喫茶いわゆる、喫茶……あ、ここ……か? ……喫茶いわゆる……花屋店?」


 ある日の午前十時過ぎ、ある商店街の一角。奇妙な店名の店の前で少年は立ち尽くしていた。


「喫茶いわゆる花屋店って……いったい喫茶かいわゆるか花屋店かどれなんだ!?」


「その3択はおかしいだろ」


「ひゃあ!」


 突然店内から出てきた人影に典型的な驚き方で驚く少年。出てきたのは黒髪で長身な女性である。


「……なんだオマエ、ちっこいな」


「何ですと!? ち、違いますよ。あなたが大きいんですよ! 黒髪で長身な女性って紹介されたし!」


「……それは言っちゃいかんのじゃないか?」


 何故か一人でパニックに陥る少年に、女性は構わず近づき、少年の真っ黒でストレートな髪を掴んだ。


「ちょ、ちょ、な、何ですか!?」


「オマエ……か、可愛いな」


「へ?」


「ちょっと家に持ってかえっていいか?」


「いやダメでしょう!」


 女性はものすごく不服そうに頬を膨らませるが、諦めている様子はまったくない。その右手を少年の頭髪から一向に離そうとしないのだから。


「えっ、ちょっと、ここは『いやダメでしょう!』ってツッコミをいれて諦めるって流れなんじゃないんですか?」


「そんなことは知らん。私のものは私のもの、オマエのものは私のものだから、オマエの体も人権も私のものだ」


「どこのガキ大将!? ってかなんで初対面で人権まで奪われなくちゃならないんですか!?」


「違う。奪うんじゃない。オマエが献上するんだ」


「殿!?」


 そんな理不尽な契約が今まさに結ばれようとしている時、またしても店内から人が出てきた。今度も長身は長身だが、茶髪の男性である。


「オイ、何やってんだ」


「おお、ツン。実はな、オマエに養子の話が」


「断る」


「じゃあペット」


「いやだ」


「じゃあ旦那……いやむしろ嫁だな」


「それは法的に無理だ」


 女性の連続ボケに対し冷静沈着に対応するツンと呼ばれた男性。それを常識人と判断したらしい少年は、いつのまにやらツンの後ろに隠れていた。


「すまんな。コイツ、バカだから」


「バカとはなんだオイ」


「はい、大丈夫です! それよりツンさん、僕の話を聞いていただきたいんですけど」


「話? いいけど、ツンって呼ぶのは」


「そいつの本名ツンだから」


「へぇ、変わってますね。名字は何ですか?」


「ツンだよ」


「名字も!?」


「んなわけねぇだろ」


 ツンが冷静なツッコミをするもスルーされ、何故か話はあらぬ方向に。


「っていうかツンには名字も名前もないよ。商品名ツン、原材料名ツンでツン以上でもツン以下でもないツンなんだよ」


「えぇ!? 以上とか以下ってその数を含む言葉なのに以上でも以下でもないってことは……ツンさんいない!? ツンさんいるのにいない!? 怖い!」


「……怖いのはお前の発想力だろう」


 ちょっと、いやかなり呆れた風なツンだったが、道を外れる前の話を思い出して少年に尋ねた。


「そういえばさっき、俺に聞いてほしいことがあるって」


「あ、そうでした! えっとですね、聞きたい話ってのは……えー……なんだっけ?」


「オイ」


「て、てへっ」


「持って帰るぞオラァ!」


 少年の仕草を見て、女性は少年に今にも飛びかからんばかりに言う。


「す、すいません!」


 ある意味最強の脅し文句である。


「えと、ちょっと忘れちゃったんで、また思い出したら来ますね」


「ん、おお」


「それじゃまた。さよならー」


「今度はツンの養子になる準備もしてこいよー」


「そんな準備ねぇよ」


「いや、養子縁組書類とか」


「本格的過ぎるだろ」


 嵐が過ぎ去った後のように静まった商店街。その一角の喫茶店のような花屋のような曖昧な店の中で書類を見ながらツンが女性に言った。


「なぁ、そういや今日高校生がバイトの面接に来るって電話が来てたんだけど、もしかしてさっきのアレか?」


「……いや、それはないだろ。身長からしてアレは良くて中一だろう」


「だよな。まさかな」


「うん。まさかそんなはずない」


 そのまさかでした。



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