惨劇の夜と力の暴走
side ディス
夜遅く、今は九時前後。再び魔法実習場に一人でやってきた俺。なぜ来たのかと言うと魔法の自主トレーニングをしにきたわけだ
せっかく強力な魔法を沢山取得した以上試して見たいという気持ちになってしまう。明日にはライブラが魔法を見てくれるようだが自主トレをしていても問題はないだろう
レイエルには一人での魔法練習は止められているがたぶん大丈夫だ、今までも魔法は使えてきた
「初級は昨日の時点で発動するのがわかっている、なら中級と上級を試すのが先だな」
{アースロイド!}
俺は地面に手を当て大地属性の魔法である『アースロイド』を発動する。この魔法は土で人形を作る魔法で動かすことも出来るが攻撃力も防御力も弱い戦闘に関しては不適合な魔法だが若干遊び心がある魔法だ。主に子供が遊びで使ったり、練習の的としても使われる
とりあえず魔法の練習の的とするために十体ほど土くれ人形を作り出す
「しかしどんな魔法があるのかがわからないな」
実は魔導書に記載されている魔法の効果は全て違う本に纏められている物を読むか、魔導書自体に触れて確認しないとわからないそうだ。
ライブラが言うには今は一部の例外を除き全ての魔法が別本に纏められて許可さえとれば誰でも閲覧可能になっているのだが……察しのとおり俺が契約した魔導書はまだ誰も契約したこのない未知なものなのでどんな魔法が入っているのかわからない。記録自体は俺の脳内に勝手に入っているのだが効果は不明である
そしてあの部屋にも入れなくなっていたし確認しようが無いのだ
つまり現在俺の得られる情報は魔法の名前と属性と分類だけである
この事を入浴後ライブラに相談したところ……
『自分で使って効果を試すしかないだろう、それしかないしな~』
とのことだ。実は他にも色々言われたが注意ばっかだから省略する。
とりあえずどんな魔法があるのかを確認しに来たわけだが……何分魔法の効果がわからないため見た目で判断するしかないのだ
「じゃあまずは簡単そうなものから使っていくか」
{エンヴィズロッド!}
水属性に分類されている中級魔法の一つ『エンヴィズロッド』を発動する。発音から選んでみた、名前が長いと強力そうな気がするんだが少し安易だったな
魔法発動後右腕には水色のアイギスと共に魔力で練られた細くて長く先端が尖った鞭が出現した
「鞭か、なんだか頼りない魔法だ」
鞭というと相手に絡みついたり足止め的な要素を持つ武器だ。それ以外にも拷問器具として用いられる事もあるほどダメージを与える印象があるが、鞭は使い方が非常に難しくなれるまで時間が掛かる武器だと俺は記憶している。
特にただ叩くだけでいいなら腕を振るうだけだが、相手に絡めたり、何かの攻撃を弾くなどの柔軟な動きをさせようとすると複雑且つ繊細な腕のスナップ運動を要求される側面があるので癖の強い魔法だ
しかし何事も試してみなければその力はわからない
「ふっ!」
土くれ人形が十体程並んでいるところに向かって腕を横一線に振るうと、魔力鞭は最初の一メートル程の長さから十メートルを軽く超えるほどに伸び、全ての土くれ人形の腹の部分辺りから横一文字に切断した
切断後魔力鞭はもとの一メートルサイズにまで戻っていく
「伸縮性・威力共に高い……どこまで伸びるのかは気になるが今は他の魔法を確認すべきか」
思ったよりも水の鞭はその力を発揮している。範囲攻撃としては有効そうだ
そして破壊された土くれ人形はまた元の形へと再生していく。アースロイドは魔力を供給しているかぎり無限に出てくる魔法なのこの場合は再生というか新しく作られているというべきだが
まさに的にするならこれほど最適な魔法は無い、なにせ死なないし数も沢山でてくるのだから
「次は……これは使う前に人形の数を増やさないと」
右腕の魔力鞭を消して、土くれ人形の数を3倍の30体ほどに増やす。
「やりすぎたか……これじゃあ全方向に撃つには空に飛ぶしかなくなった」
次に使う魔法のために増やしたのだが数が多すぎて実習場のリング内には俺の前後左右全てにいる事になり一方向では対処しきれなくなってしまった
仕方なく俺は地面を蹴って3メートル程飛び上がりリング状にいる土くれ人形たちに右腕を向ける
(発動失敗させないように魔力を多めに入れて……)
{サウザンド・エナジーレイ!}
そうこれは一度だけ見た事のある魔法。契約時の戦いであの白髪男が使っていた強力な魔法の一つ
発動後、魔力が右腕周囲に満ち溢れてきた。そして満ち溢れる魔力は腕だけではなく俺の周囲一帯の空間に無数の光の弾を出現させる
「いけっ!」
俺の合図と共に周囲に出現していた光の弾から人の頭ぐらいの大きさの光線が放たれ、リング上にいる土くれ人形達に分散しながら向かっていき、光線は土くれ人形を大体数発以上貫き、人形どころかリング全体を目が眩むほどの強力な閃光で包み込んだ
(予想を遥かにこる威力……これで中級か。先が恐ろしいな)
同じ中級のエンヴィズロッドとは派手さのせいか威力が段違いのようにも見える。だがエンヴィズロッドも使い方次第ではこれと同じぐらいの力はあるのかもしれないが今の俺にその力を発揮できる力は無い
それにこの魔法は中級でも改良を加えられた物であり、中級の中でも上の部類に入る魔法のはずだから、実質的には弱い上級魔法並はあるのだろう。消費魔力も高いからな
ただこの魔法は調整しないと全てを破壊しつくす魔法のようだ
現に今リング上は煙で見えないが土くれ人形は跡形もなく木っ端微塵になっているのは一目瞭然だと言えるほどの破壊力があった。一発一発の制御が可能になるのはいったいいつになるのやら
軽く三桁の数はあったからな
「……上級魔法は上に向けたほうがいいか。解除」
魔法の発動を終えて地面に落ちた俺はしみじみと思う。さっきの魔法で土くれ人形は跡形もなく粉砕しているのだ、しかしリングの石は多少焼け焦げているだけでまるで破壊されていなかった
いったいなんの材料で出来ているのか気になるが、恐らく魔力を通しにくいものなのだろう
アースロイドも魔力の供給を止めて完全に発動を終える
「上なら問題ないと思うが不安は残るな」
この実習場の天井部分はこの国を覆う結界『シュピーゲル』よりは効果が低いが同質の結界が張られている。魔法の影響を外に出さないためにだ。話ではかなりの強度のはずだから上級魔法でも問題はない……はずだがあまり自信はない
「出力を下げて……」
上空に向けて両腕を上げ、結界を破らないように威力を下げるために俺に出来る精一杯に魔力を抑える調節を施していく
しかしこの時点で俺は気づくべきだった……自らの非力さと過信に
{オウギュルスト・レイジングバースト!}
両腕にあったアイギスが赤色に変わり俺の周りに均等に六つの円形のリングが円周上に出現し、円の中心に圧縮された魔力が収束していく
これも契約時に使われた魔法。俺が知る限りで最強の威力を持つ魔法だ
(成功した……なっ!)
「くっぁ!」
成功したと気を緩めた一瞬の隙だった
円の中心に圧縮された魔力が収束し不気味な鼓動をしていく度に魔力を供給している俺の両腕から膨大な量の魔力が際限なく抜けていく感覚が俺を襲う
(魔力の放出が止まらないっ!)
円の中心に圧縮されていく魔力の固まりは徐々にその大きさを増していき、最初はビー玉ぐらいのものが十秒経たないうちに既にバスケットボールサイズまで膨らんで、今も驚異的な速度で大きくなっていく。
魔法によって発生した魔力の塊に圧縮しきれなかった余分な魔力が全ての円形のリング周辺に稲妻のように不規則な魔力の流れが発生し始めた。魔力の流れは放電するように周囲に飛散し、魔法によって傷のつきにくい実習場の地面すらも落雷のように破壊している
この魔力の放出現象は最初に想定していた魔力量をはるかに超える量の魔力が俺の体から抜け圧縮されていく為の、副産物的なものだとは思うが威力は馬鹿に出来ないほど高くリングだけではなく天井の結界にも衝突し結界を攻撃する
「力が……抜ける!」
更に魔法は完全に俺の制御下を離れ暴走状態へとなっていた。そして暴走した魔法は一度に膨大な量の魔力を俺の体から吸収し肥大化を急速に加速させていく。吸収する増加量も徐々に増えていくばかりだ
膨大な魔力が吸収されている影響か俺の体に急激な疲労感と脱力感が同時に襲い、俺の体力と意識を蝕んでいった
「くっぁぁ!!」
体力・意識共に限界がきはじめたとき、俺は力を振り絞って一気に魔力を注ぎ込み強制的に魔法を発動させた
暴走状態で圧縮されていた魔力の固まりは契約時に見た大きさの十倍以上かつ強力な炎熱線となり、天を目指して発射される。
期待していた結界は俺をあざ笑うかのように天井部分の結界を紙を破るかの如く、一瞬で破壊しそのまま天空へと突き抜けていく
「突き抜けた!?まずい、このままだと……っ!」
このまま炎熱線が突き進んでいけば上空空高くにある超高範囲円周反射結界『シュピーゲル』に直撃する。このままの威力で直撃すれば今の魔法だと破壊してしまう恐れがあった。
そして最悪な事に俺の悪い予感は当たり、直撃した炎熱線は轟音と強力な閃光共に結界を徐々に徐々にと破壊していくのが確認できた
「止まれ……止まれぇ!」
そんな俺の願いを込めた言葉も虚しく、完全に暴走状態となった魔法は貪欲に膨大な魔力を俺の両腕から吸収し続け魔力を貪っていく。さらには一気に吸われていく魔力量は増していき、急激な魔力消費のせいか俺の足は力を失い地面に膝をついてしまった
巨大な上に威力も高い魔法の圧力に耐え切れていないということもあるのは間違いない
「はぁ、はぁ、もう駄目……か……」
最初こそ耐え切れていたシュピーゲルだが、魔法の直撃に耐え切れず結界全体にその形を変えて結界全体に亀裂が生じていた。しかし暴走する魔法に対して俺の意識は覚束なくなっていて何も出来ないでいた。それどころか脱力感と疲労感により俺の意識は気絶しそうになっていく
そして諦めかけた瞬間に俺の腕に誰かが握る感触を感じた
{ミステイク・ルーン!!}
「……ぁ?」
魔力消費による影響で意識が完全に落ちかけた時、俺を握る誰かの腕から流れる気持ちの悪い魔力共に急激な魔力消費による圧迫感に俺は解放される。
魔力の放出が止まり炎熱線も消滅を始めていく。朧げな意識の中で俺が見たときには既に半分ほど消えて、結界を破るギリギリのところて完全に消滅したのが見えた
「はぁ、はぁ……ライブラ?」
「あ、危なかった……」
俺の腕を握り気持ちの悪い魔力を流し魔法を止めたのは額に大粒の汗をかき、いつもにこやかな顔を必死な形相に変えて現れたライブラだった。たぶんあれだけ大きく強大な魔法だから慌てて駆けつけたと言う感じなのだろう
とにかく助かったとホッと安心した瞬間……
「……くっこの馬鹿野郎っ!」
「っ!」
こっちを本気で怒った顔で見たライブラは間髪いれずに思いっきり俺の頬を強めに叩いた。静寂になっていた実習場内には頬を叩いた音が響き渡る
「ら、ライブラ……?」
「自分の持っている力も知らない内にお前何やってんだ!!」
「何って練習を……」
「そんなことする前にもっと他に考えることがあるだろ!」
「それは……」
確かに危険性を考慮するべきだったかもしれない……だけど俺は
「力を使う前に自分の力を自覚しろ、それが出来なければ魔法使いなんて辞めちまえ!!」
「……わ……ぐっがぁ!?」
謝ろうとした時強い吐き気を感じた次の主観には夥しいほどの大量の血を嘔吐してしまう。それと同時に全身の至る所が裂けて血が勢いよく噴出し、リングを血で染めていく。そして文字通り全身がバラバラになっていくのを感じた
「おいっ!?くそ、やっぱりこれか!」
「ゲホッ……あぁぁ!」
両腕はそれぞれ手首が千切れ、指はただの肉塊のように原形も保たないほどぐちゃぐちゃになり肩からは骨が付きでて完全に千切れた。髪は徐々に抜けていき眼・鼻・口・耳からは尋常じゃないほどの血が流れ落ち、心臓ははちきれないほどに鼓動を上げ、その結果胸にも亀裂と共に大量の血と臓器が勢いよく突き出て露出していく
もう痛みすら俺に感じることは出来なかった
「ぁ……」
足の力も完全に失い俺は自分の血と肉の中に沈み込み、意識も完全に消えていった