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第二話『ラララブレター』


 小中学生時代、九年間。クラスこそ全て同じのクラスになるような運命めいたミラクルはなかったが、それでも何度か同じクラスになるということで、席が近くになったというきっかけでそれなりの仲になったりして、一年中一緒に共に過ごしていた。などという青春友情漫画のようなことは決してないが、むしろ望んでないのはわかりきっている俺だが。それでも腐れ縁という言葉ほどしっくりくる言葉はないと断言できるのは、今現在中央榊高校という何のへんぴもない県立高校に必然なのか不必然なのかどうかは知る由もないが、同じ高校に入学しクラスさえも一緒になってしまったという偶然の始末であるからにだ。

まぁ、ここまでくれば運命などという非科学的な言葉を使っても良いんじゃないかと思ってしまったりするのは、全くもって俺の気の緩みから生じた、ただの油断である。

 誰がどうして、このような馬鹿丸出しで、腹を空かせた野犬のように女を追回し、最後にやはり痛い目をみるだろうとわかっているのに手をだすような、人間失格の言葉が似合うナンバーワンの男で運命などを感じないといけないんだ。それにだ、昔からほんのささいな事でケンカばかりして、それでいて両思いなのを隠しているような、普通の青年(俺のような)と美少女との定番のラブコメ的なやり取りが始まってもいいんじゃないのか?

「もうっ、今日も遅刻したの!?」「お前には関係ないだろ!」「関係ないって、酷いよ………」「ゴメン、実は俺っ本当はお前のことが」「わたしもあなたのことが」

 いや、すまない。今のは失言だった。

 まぁ、俺が何を言いたいかと言うと、俺の一応幼馴染という部類に悔しくも該当してしまう美少女ではなく、馬と鹿のような男のことなんだが。長く一緒にいたということもあったので、だいぶ知った気になっていた自分がとも愚かしい。そして、なんで最初にこの答えに辿りつかなかったのか自分が情けない。ついさきほど本当の「ヤツ」に気づいてしまったのだ。改めて実感したと言っても良いだろう。「松岡 圭吾」なる男は正真正銘の想像を遥かに超越した馬鹿だったことに。


 そろそろ先ほどの手紙の内容を知りたいところだと思うので発表していきたいとおもう。おっとやはり効果音は必要かな?松岡の言う、蒼井サクラからのラブレターは、六行の文で成り立ったものだった。ジャジャーン。




松岡 圭吾様へ


あなたを会いしてます


ほんとうにあいします


けっこんしましょう


放火後、屋上でまってます


蒼井サクラより




 なんだろう?この簡潔かつ衝撃的かつ誤字脱字な小学生並の文は。


「どうだっ?全くもってびっくりの内容だろぉ?まっさかなぁあの学年の、いや中高(中央榊高校の略)のマドンナが俺と結婚したいって言ってるんだから驚きものさぁっ!」


 俺はお前の馬鹿さに驚きを超えて哀れみという感情が心から溢れんばかりだ。どうみても男の殴り書きの字で、誤字脱字のパラダイスなこの手紙でそこまで信じれるお前に俺は拍手を送りたい。


「おっ、拍手なんてするなよ!照れるだろぉ」


 お前ほど、騙されやすい生物はこの世に存在しないんじゃないか?本当に顔を赤らめて嬉しそうな顔を見ると涙が出てきそうなもんだ。


「なぁ松岡、よく考えてみろ。全く一回も話したことないような憧れのマドンナが、いきなりどうして結婚してくださいなんて言うんだ?そんなの奇想天外なドタバタラブコメストーリーにさえ、そうそうないシチュエーションじゃないか」


 俺は、最後に哀れみという同情心からこいつをこっちの世界に引き戻そうと試みる


「いやぁ、やっぱり屋上には正装で向かったほうが良いのかなぁ!」


 が、無駄だったようだ。


 はぁー。みなさんお分かりの通り、さっきの手紙は「蒼井サクラ」からのラブレターなどではありえない。まぁ、さっきから黒板の端の方で俺たち二人をちらちら見てクスクスと笑ってる三人組のあいつらだろう。

 俺の視線に気づいたらしくよそよそしく世間話をし始めだす。同じクラスなんだろうが40~50人近くいるクラス編成のせいか、全くもって記憶の片鱗にさえいないような目立たない、そう、俺に近いキャラだな。うん。

 あと、この誤字脱字が明らかにわざとらしくしている所を見ると、ほんのちょっとしたお遊び程度に松岡をからかうものだったのだろう。すぐに、しょうもない悪戯だとばれるようにわざとしたんだろう。だが、松岡の馬鹿レベルはすでに向こう側へと突破しているため、「気づかない」というイレギュラーが発生してしまったわけだな。

 あの、三人組も面白半分、後半分ありえないだろっ!?という気持ちでいっぱいだろう。俺もそれに同感だ。


「なぁ、松岡。これはたぶん悪戯な手紙だと思うんだが」


 心の優しい俺は最後の最後にもう一度助け舟を出してやった。これでも九年間つきあってきた大切なともだ


「ん?あー、あれだな!一種のひがみってやつかな?修平クンよ。まぁ、あきらめたまえ!彼女は俺の彼女なんだからさぁっ!」


 ち、って言うのは前言撤回。軽く痛い目を見た方がこいつのためであり、俺のためでもあるだろうことを確証した。


「あぁ、早く放課後にならないかな」


 救いようがない馬鹿がそういい終えたと同時に教室に入ってきたどうみても三十代後半にしか見えない二十代後半の担任の斉藤。よほど暑いのか、あるいは一階にある職員室から全速力で走ってきたせいなのか、それともメタボリックシンドローム代表者とも言わんばかりの腹のせいなのか、額から地面へと汗がキラキラと滴り落ちていた。


「はぁはぁ、すまんっ!遅くなった。それじゃホームルーム始めるぞ」


 すげえ汗、と小さくつぶやき松岡はスキップしながら自分の席に戻っていった。ほどなくして、汗まみれ担任、斉藤(またの名をメタボリック先生)のいつも通りのちょっとした小話が始まり、それが終わってからの出席確認になる。今日は実家で飼っている猫のちょっとした話しだったらしい。らしい、というのはほとんどそんな小話など聞いていなかったからである。前回は実家で飼っているインコ、前々回はカメとまぁ、くだらない話だ。それを何故、毎日のように話すのかはある意味この学校に纏わる七不思議のひとつに数えてもなんら支障はきたさないだろう。

 それにしてもこの季節の風はなんでこんなにも心地良いものなんだろうか。これで睡眠という行動に入るなというのは拷問に近いものがある。まぁ、そんな小さな欲望に負けていられるほど俺の頭脳は良く出来ていない。なんの将来のためではないが一応、大学には行きたいと思ってるので人並み程度に今日も頑張るのさ。特に行きたい大学がないので、そこらへんにある2流大学が俺にお似合いだろう。ふわっと涼しげな風がカーテンをふわりと揺らしていく。


 あぁ、今日も平和だ。そう、平和で良いんだ。面倒ごとなんてもんは面倒なだけ、俺にはこの上がり下がりもない平凡世界があっているんだろう。そんなことを考えつつなんとなく外に顔を向けてみると、すずめ達が空中で旋回したりで楽しそうにじゃれあっている。それか追われてる方が浮気でもして、追いかけまわしている夫婦喧嘩の真っ最中なのか。こういう何でもない事を考えてしまうくらいつまらない平凡な毎日で満足している自分がここにいた。


 うん、確かに満足していたはずなんだ。これ以上何かを望んだり、ハプニングが起きてほしいなんて毛頭望んだりしてはいない俺が、あんな目に合うとは思わなかったんだ。今回の嫌な胸騒ぎは、やはり度を超えていた。

 悲劇にもこの時、朝、登校している時の嫌な胸騒ぎのことは松岡のラブレターの話でどこかに行ってしまっていたらしい、全く忘れていた俺は三時限目までいつも通りに順当にこなしていった。帰るべきだったんだ、無断早退でも構わない、一日くらいどうってことないだろう。あるいはもし、この時に胸騒ぎの事を忘れていなければ。もし、この時に奇跡的にちょうどよく38度5分という早退理由規定値に体温が上昇していれば。未来は変わっていたんだ。確実に良い方向にだ。


 だが、もう遅い。あんな場面に出くわしてしまったのだからな。




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