7. 制裁のカウントダウン
"あなたを追うためにすべてを捨てたの。"
信じがたいホーリーの話だった。とりあえず護身用のナイフはある。これで一度対決したことが…いやしたことないな。軽くいなされるだけだった。本気でどうしよう。さすがに手配書はないと思ったが、執念深さはあるからな。
そもそもパーティ失敗の原因はいまだからわかる。ボクがガッツとサイモンを引き入れたこと。サイモンはちょっと怪しかった。ガッツはバードの右腕の席を狙っていた。ボクが抜けたことはどうでもいいことだが、もしボクが抜けてパーティでなにか起きたとしたらあいつしかいない。
そもそもボクがしっかりしているべきだった。
それでも、ボクに復讐とか「あまりにも…」だ。でも、接近中なら仕方がない。
敵は二人。でもファーストがいたら一大事だ。戦力は2対1じゃない。ファーストは大型だから6対1、いや10対1になるかも。
こっちは護身用ナイフ1本、下に素材萩ナイフ2本しかない。あとは居候ドラゴン投入だが、家族を巻き込んで危険にさらすような話じゃない。
とうとうバードらしき仮面の男の目撃話を聞いた。特徴を聞いても思い浮かぶはバードだけ。場所はここから歩いて4日程の宿場町だ。ギルドに登録記録を発行してもらい、そので本格敵に聞き込みをしているのだ。ということはタイムリミットはあと4日。もうボクは重たくなってうごけない。一人では逃げられない。ここに来られたらに絶対にまずい!
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2日後
ボクは覚悟した。こうなったらもう覚悟するしかない。感動的な再会などないだろう。謝罪が受けいけられわけもない。
ボクは、仕方なく早めに店じまいし、この街の人でもあまり知られていない酒場「おでん屋」へ。木でできたわくと木の長椅子というこじんまりとした店だ。ほとんど外だから、この時期はちょっと肌寒い。
「あ、スノウさん。」
ビクッ ハッ
目の前にはやさしい顔をしたおっちゃん。
「どうしたんですかい。こんなところまで。」
「知っているんですか。」
「この町じゃあ、あんたは有名人で、ヒーローだ。」
「でも、ボクはおっちゃんを知りませんけど」
「まぁ、こんなスラムにくるもんじゃあ、ありませんで」
背中に先端のどかったようなものが当たった。
そうだよな。そういことになんだよ。
「よしな」
おっちゃんを見ると包丁をボクに…いや、包丁の向いているのはボクの後ろ?
「その人に手を付けてスリでもすりゃあ、不敬罪で一撃あの世だ。」
背中からとがったものがなくなった。
「すまねぇな。」
後ろを振り返ると、すごく冷たい、でも、さみしいそうな赤い毛の女の子が。よく見ると尾っぽ、この子は猫?
「フェルメールって一族さ。この町ではみんな居場所がなくて困ってる。」
「そう…なんですか」
「ああ、獣人族は居場所がない」
「…」
「救おうっていうのかい」
「…」
「やめとけ」
「…しかし」
「嬢ちゃん、突っ立ってないで、入りな」
そういってボクの隣に座ったのは、本当にかわいい女の子だった。
「にいちゃん…」
「よしなっていったよな」
女の子がビクッとなった。
「そうやって物乞いはすんな。」
よく見ると身なりも粗末だ。そうか、この子たちは。
「あんたみたいなやつを狙うのさ。」
「…そうか。」
まだボクが知らない世界があるんだ。ドラゴンたちとは楽園が築けてもなにも救えない。ホーリーのあの目はそういう絶望の目なんだ。
「孤児院も豊かにできても、解決できないんだ。」
「…いま、がんばっている勇者たちを悪くいう。見逃してくれるかい?」
「フッ…ボクがこんなところでつけ口でもすると?」
「…ちげえねぇや」
ボクは一気にグラスの酒を飲み干した。
「果たしてさ。魔王を倒して、よくなるんかな」
えっ。おっちゃんの声に驚く。返す言葉ない。ちょっと旅の最中に思った話。おっちゃんはずっと鍋を回している。ボクの答えを待っているのか。でも、隣の子。全然答えない。ずっと立っている。
「ねぇ、座ろう。」
少女は首を横に振った。
「いいから。ちょっとだけ。」
少女が深い溜息とともに座った。
「おっちゃん。このマジックリーフの枝を、ボクとこの子に。あと、ボクはもう一杯同じもの、この子にはこの鍋のお汁」
これは食べ方がちょっと難しい珍味だ。女の子も差し出された困っている。
「こうやってさ、真ん中から割いてさ。」
少女も力づくでさく。手には傷とにじんだ血
「力任せに、引っ張る。」
「ふんっ」
こうやってバードともよく食べた。枝がさけるとふんわりとした果実のようなものが出てくる。少女の目が輝いてガブッとそれにかみついたか、苦いっという顔をする。
「ハハッ。ほら。こうやって少しずつちぎる。」
少女はだましたなという目をしたものの真似して少しずつ果実の実の糸を取り出す。何度見何度もその実をさく。細くなるまで。そして、ボクのまねをして、その糸状のものを食べた。
「…おいしい。」
「そうだろッ」
「にいちゃん、魔術師なのか」
「ハハッどうかな」
「そんな白いローブ来ているやつ、魔導士以外にいねぇだろ」
力なく笑うしかない
「なぁ、魔法、おしてくれよ。オレ、ここから飛び出したいんだ。」
「あいにく、教えるようなことはできなくてさ。そんな資格もないさ。」
「じゃあ、伯爵様なんだろ。学校、行かせてくれよ。」
「……。」
「にぃちゃん。行かせようとしているんじゃないよな。」
「……。この子を行かせば、いけない子はどうする」
「わかってるじゃねぇか。」
そうなんだ。ドラゴンをどんなに買いあさっても、全部が救われない。
にしてもかわいいな、この子の耳。
「魔王を倒してハッピーエンドなんていうげと、ほんとかねぇ。だってオレたちはこうして暮らしている。この子たちの生活が変わるわけでもなく、あんたがいうとおり、このろくでもない世界がずっと繰り返される。」
「…。」
「でもさ、にぃちゃん。やめるなよ。スノウ伯爵特別位」
「!!!」
「にいちゃん。権力はどうして与えられる。それはあんたにしか救えないからだ。
権力というのは本来はそういう人たちが、社会のルールをへし曲げるためにある。
独りよがりでいばっているやつらにはわかんねぇ、発想だ。」
よし、決めた。バードに襲われることを怯えて待つしょうもない毎日より、一番楽しかったった思える、そんな日にしよう。
「おれからも頼みがある。」
「おっちゃん。いや、やめましょうか。ニコラ4世伯爵!」
「覚えておられましたか。」
「やめましょう。貴族クラスの権力者どうしの会話じゃないです。」
「ハハハッ。まいったな。」
コツッとテーブルに頼んでいない丸い茶色の物体。女の子がすぐに手を出してしまった。
「お、おいしい。」
なにが言いたいんだ。この人は
「あんちゃん。あんたはさ。その大根にしみ込んだもの、そのものだ」
「フンッ。出汁の残りかす…」
「ちがう。こいつらを輝かせるためにある大事な大事なもんだ。」
ニコラ氏はそういうと鍋の中を指さした。
「あんたは消えようとしているんだろ。バードやザードを恐れて。」
「知っているんですか」
「あなたが私に紹介してくれたじゃないですか。」
「そうでしたか?」
「絶対にあり得ません。させません。そんなことされたら、私は商売上がったりです。
むしろあなたを恨みますよ。」
「…お気持ちはありがたい」
ゴトッ。見たことない顔のニコラ氏が立っていた。
「スノウ伯爵特別位。あなたはあなたの扱い方を間違えている。
あなたは自分の価値を自分の基準で低く見過ぎだ!いまの自分の立場は立場不相応
不相応の価値を持てば排除されるとお思いだ。}
「あいかわらず、怖い人ですね。」
「ちがいます。あなたが不相応だからこそ、それを捻じ曲げる力が与えられる。
あなたのしたいことを実現するために、それを応援するために。」
「…」
ほんとにすごい。バードと行って、勇者のなにかを説かれたことを思い出した。
「それが独りよがりな、自分一人で得られたものならどうぞご自由に。
でも、それがみんなが与えてくれたものなら、その恩義、尽くすべきでは!」
席を立って少し多めに料金を払った。
「もし、あなたがそうしなければならなくなった。たとえ、それがあなた一人が悩み追い込まれた結果だとしても、もしそういう結果になったら、私はこの世界がどうなろうと、あなたの仇を打ちます。」
笑うしかなかった。この人はあの時から変わらない。
「バードにそんなこと言いましたね。勇者をやめるならやめていい。でも、その時は」
「ええっ。そうしなくなった世の中を滅ぼしても、仇を打ちます」
「その"仇"ががボクだったら」
「あなたがそれをしたなら、それをさせた世界をつぶして、あなたの仇をとります」
この人は ほんと かなわないな。
「ごちそうさん」




