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6. 大悪人スノウ


冒険者ギルドにいくと衝撃的な状態になっていた。たくさんの冒険者がロビーにいて、受付まで道ができている。道の先にはギルド長、副ギルド長、受付嬢がいる。

「ドラゴン買取専門ギルドのスノウ。前へ」

下っ端の受付嬢の声がした。


受付の前に椅子がある。これは重大案件があったときにおこる儀式だ。

「本依頼に関する釈明を求める。」

ギルド長の声が響く。見せられたものはボクに対する捕獲依頼。依頼者は勇者。依頼書のには勇者バードの紋章印があった。下には人相手配書。

これは勇者による特別依頼書だ。勇者が逃した悪人を見つけるために発行が許されている。つまりボクは勇者バードに逃走中の悪人認定されたのだ。

バードがそんなひとだったとは。

この勇者の特別依頼書は、勇者がいうことが100%正しいという前提で無条件受諾される。結果たとえ間違っていたとしても必ず捕まる。

「勇者のパーティーの名を使い、私欲肥した、事実だな」

がくっと背もたれにもたれた。全員の冷たい目がボクを見ている。ボクは勇者のパーティーにいたどころか、勇者のパーティーを追い出されてここにいるというのに。

「…あほくさ。ろくでもない世の中だ。」

自然に口から出た。もう抵抗するのも失せた。もうなんもかんも絶望してきた。こんな腐ったこの世の中にも。素直に手を上にあげてバンザイをする。

「事実と認めるな。」

ギルド職員が腕を縄で縛った。終わりだ。反論しても無理。勇者のパーティーで何人もの役人や貴族をこれでさばいてきたが、ボクがこうなるとはね。バードたちから見れば「いい気味、ざまぁ」という訳か。このあとは無条件で処刑だ。

「なにか言い残すことはあるか。」

「一言だけ発言させてください。」

「認めよう」

ボクはそっとホーリーをみた。今のボクの味方はホーリーしかいない。いや、いままでの行いを考えば味方になってくれないな。でも、ホーリーは聖職者だ。雑に扱わないだろう。

「ホーリー様。こんなわたくしめに最後の神々の祝福をいただけませんか。」

「わかりました。では、神々へ最後の感謝を」

「こんなろくでもない、美しい世界が永久に続くことを願います。」

ドガッ

ホーリーが思いっきりグーでボクの顔面を殴った。そして、特別依頼書をとり、その場で力任せにビリビリに破り去った。

「私はホーリー。スノウの親友として、本件は事実無根だと主張します。」

副ギルド長の口元がニヤッとした。そして高々と宣言した。

「神官ホーリーの意見に賛同するものは同じように手元の手配書を破り捨てよ」

するとすさまじい音が響き渡った。その場にいたすべての冒険者が手配書を破って空高く投げ捨てた。

「え、どういうこと…」

ボクが驚いていると、ホーリーが胸倉をつかんで怒った。

「ダメっていっただろうが!」

ホーリーがガンガンボクの胸をたたく。当然周囲から冷やかしが入る。

「熱いねぇ!」

「すげぇ。神官に手を出していたんだ」

なんか勘違いされている気がする。副ギルド長がゴホンッと咳払いをした。

「ちょっと二人ともいいかな。」

ホーリーが気が付いてすぐに離れると、ギルド長が宣言した。

「我々はこの特別依頼書の内容は虚偽と判断し、本部の決定を断固拒絶する!」

冒険者たちが声をあげた。

「何が勇者だ!」「でたらめいうんじゃねぇ!」「おう、ろくでもねぇやつだ」

なんか周囲が変に盛り上がっているぞ。

「スノウをまもるぞ!」「スノウは俺たちのヒーローだ!」

よく見たら、あの若い冒険者もいて同じように怒ってくれている。


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ギルドマスターの部屋に通された。目の前においしそうなお菓子と紅茶が用意された。ソファでは副ギルド長が紅茶に口をつけてくつろいでいる。

「というわけでおつかれさん。」

「心臓に悪いです。」

というや否やお盆でチョップされた。いつもの受付嬢だ。

「ボクなんてとおもったでしょ。許さないよ、ネガティブ」

「すみません。」

「またいった!」

また食らった。

「まぁ、許してやれ。さすがに"勇者の特別依頼書"が出たらチェックメイトだからな。」

再び勇者の特別依頼書が出てきた。

「二人とも。これは、勇者バードの字か?」

「違いますね。バードはこんな字じゃないです。」

「これは、おそらくリッジです。」

「リッジだって!」

ホーリーが眼鏡をかけた。これは確か教会の人が事務仕事をするときにかける眼鏡だ。

「これでバードの筆跡か鑑定できます。違いますね。合致しません。本人である確率は0%。完全にニセモノです。いっぽう、リッジの場合、80%です。」

どういうことだ。バードとリッジがそれほど親密とは思えない。

「どういうことか説明できるか。推測でもいい。」

「バードが、殺された?」

「違う。」

すぐさまホーリーが否定した。

「バードはね。あなたがいなくなってから鬱になっちゃったの。だから死んだみたいだった。でも、バードは死んでない。あなたを追うためにすべてを捨てたの。あのパーティーはバードがまとめてたんじゃない。あなただったのよ、スノウ!」

「おまえもだろ」

副ギルド長がいったちいさな一言でホーリーが黙りこくった。

「巣だな。スノウ、おまえはみんなの心のよりどころになっているんだよ。」

「信じられない。ボクひとりいなくなっただけですよ。」

「その瞬間、おまえを"巣"として心のよりどころにしていた連中が行き場を失ったんだ。」

「え。でも、バードを中心に回っていましたよ。ボクなわけがありません。」

「それはホーリー本人に聞いてやれ。」

ホーリーの顔が真っ赤になっている。

「だって。スノウ、いないと、ダメだもん」

副ギルド長が呆れた顔でいった。

「お前も気づけよなぁ…」

するとギルド長が応接セットにやってきた。

「キミはいろんな人を引き寄せる力があるんだよ。驚いたよ。ウチの冒険者たちはもうすでに、キミの虜になっている。だからみんなスノウが取りそうな依頼は積極的に避けている。」

「じゃあ、昨晩の事件は」

「いまうちでは指導員付きのパーティーで依頼を受けることを必須にしている。」

「ソロの冒険者はどうしたんですか。」

「ソロの冒険者には若手の育成をする先生をお願いしている。」

受付嬢を見ると嬉しそうに笑っている。そうか。受付嬢のアイディアか。

「気に入ればその若手とパーティを組んでもよしとしている。だから、今の若手は依頼は先生同伴で全員クラスC以上から受けることになる。」

副ギルド長がつづけた。

「実はよ。クラスD、Eの依頼の判定って難しいんだよ。」

「採取とかですよ」

「それがさ。生息地に強いモンスターがいることも多いんだよ。うっかり入って死ぬ若手も多かったのさ。それがスノウたちがクラスD、Eの依頼を受けてくれるようになって失敗率がヘリ、若手が勝手に依頼を受けられなくなったことから死亡数が減った。感謝しているよ。」

「まぁ。ウチのドラゴンたちは人間に比べれば強いですかね。ベテランもいますし」

「昨晩の事件はさ。先生が用事でいなかったことをいいことに若手が勝手に依頼をみて、受託せずにモンスターの素材をとってきてお金を稼ごうとしたのさ。オレたちに怒られて、さらに帰ってきた先生に発覚して大目玉をくった。スノウが気にすることはないよ。」

「そういえば彼はスノウのところに持ち込んだのかとすごい怒っていたな。」

「いまは、パーティーの指導係が、スノウみたいに、学校の先生が教材を買いに来た目で依頼をみてますものね」

ということは、今の若手は指導員の先生がいて、その先生が手とり足取り付きっ切りで教えてくれて、彼らが気に入ればずっといっしょに指導もしてくれる。なんと心強い。パーティー内のいざこざも仲介してくれそうだ。ということは…

「いまの若手のランクってどこから始まるんですか」

受付嬢が笑って答えた。

「ランクFでスタート。でも始まってすぐにランクDまで駆け上がります」

うわぁ、スピード出世、うらやましい。

「ボクいまだにCどまりだよ。しかもバードたちやホーリーに助けられてCだからね。」

「そんな顔しないでください。スノウだっていまやAランク冒険者じゃないですか。」

「…ほぁ?」

受付嬢が仰々しくカードケースを持ってきて、ボクの前に差し出した。ピカピカ金色に輝くAランク冒険者カードが2枚だ。ひとつはボク、ひとつはボクのギルドに。

「おめでとう。受け取ってもらえるね。」

ギルド長にいわれてしまってはもう受け取るしかない。

「あー、やっと渡せた。強情なんだからもう」

副ギルド長はやっと荷が下りたという顔していた。


カードケースをよく見るとギッシリと名前が書かれている。

「あ、それ推薦者です。」

「うそ…」

ちなみにランクアップには2つの方法がある。一つは実力で、自分より上のランクの冒険者に勝利すること。もうひとつは少なくとも同一ランク以上の冒険者から推薦と嘆願がよせられること。ちなみに推薦者によるランクアップした場合はプラスというランクになり、他の冒険者から信頼されている証として少し高めに評価される。だからボクのランクはA+、ちなみにボクのギルドのランクもA+ランク。

「これで貴族と同等の力を得ましたね。プラスは信頼されている証です。」

「信じられないよ。」

ちなみにこのクラスだと伯爵クラス、民衆に慕われる領主と同等の扱いになる。


ギルドを出る時もいろいろな冒険者から声をかけられた

「いつもありがとな」「助かっているぜ」

ボクの返し方はいつもいっしょだ。

「今後もどうぞ御贔屓に」

でも今日は違った。

「絶対守ってやるから安心しろよ」

笑って返しておいた

「頼りにしてます。」

下のランクに守ってもらっているAランクって何。


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ギルドを出ると、ホーリーはうれしそうだった。

「それにしても、やっともらってくれましたね。」

やっとボクはわかった。やられた。これはボクとギルドをランクアップを認めさせれるための茶番でもあった。

「もしかして、知っていた?」

「はい。だって本当のこと言ったらいやだってごねるでしょ。」

「いってよ。」

「みんなで困っていたんですよ。どうやってランクアップさせようかと。そしたらどんどん実績を積んでAランクになっちゃった。だから強硬手段に出ることにしました。」


そこへ一羽の鳩が飛んできた。美しい色の鳩だ。

「大聖堂からですね。なんでしょう?」

「えっ。」

「大丈夫です。スノウさんに関するものだったら、私が腕力でねじ伏せます」

ホーリーが鳩から手紙を外してゆっくりと開く。とたな、手が震えてだした。

「どうしたの?」

ホーリーの表情が凍っている。それくらいとてつもないことが起きた。

「バードの…バードの、勇者の紋章が消滅しました。」

「…ほぁ?」

どうなっているんだ、今日は。どうなるんだ、勇者バードのパーティは


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