2. さあ、はじめよう
「みんな、やっと見えてきたよ」
空間収納庫のモンスター宿舎に向かった声をかけた。なんとここまで「朝起きたらいなかった」いう事態はなく、誰一人して欠けることはなかった。
さあ、早速、家探しだ。
とにかく広い庭、粗末でもいいから屋根付きの大きめの小屋がほしい。あと近隣の迷惑にならないところ。
とはいえ、ここの貴族のコネは勇者のパーティにいたから使えるもので、今は使えないから不動産ギルドに行くしかない。安宿でもいいけど、しばらくはここにとどまるから、安い賃貸物件でもいい。
と、そのとき、モンスター、それもドラゴンの声が耳に入った。
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中をのぞくと、どうやらドラゴンの売買しているお店みたいだ。
でも、変だな。あのマスター風の男、どう見ても召喚士じゃないよな。それにドラゴンたちがなにか暗いような。
「おら、やくたたず。早くしろっ」
男がドラゴンをムチでぶっている。
そうか、わかったぞ。ここはドラゴンの奴隷ギルドだ。もちろん、違法ギルドだ。
召喚獣は本来であれば最後まで面倒をみるのが原則。だが、それをめんどくさがる冒険者は多いとは聞いていた。でも、当然、冒険が進むにつれてレア度の低い召喚獣は荷物になる。こういうのは召喚士が面倒を見ると思ったが、いないチームはどうしているんだろうと思っていた。
その答えがこれだ。処分費用を払ってこういうところに捨てていたんだ。
「ろくなもんじゃねえ」
そうつぶやいたとたん、突然空間収納庫の魔法陣が現れて、ドラゴンが現れた。ボクが一番最初に使役して家族にした長い付き合いのグルゥだ。
「そうだよ。許せないよ、あんなろくでなし」
グルゥがしゃべった。どういうこと?
「スノウ。この子たちを放っておけないんだろ。じゃあ、助けよう。スノウならやれるよ。」
「でも…みんなが」
そう言いかけてふと思った。みんなって誰だ。
「バードに迷惑がかかる?」いないじゃん。
「ザードがおこる?」いないじゃん。
「ホーリーに叱られる?」いないじゃん。
だれにも気遣いしなくていいじゃん。もう、止める人は誰もいない。自分も思うように生きればいいじゃん。
「うん。助けよう!」
勢いよくギルドの扉を開けた。
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「おやおや、これは。今日はその竜を処分ですか。」
男のひょうひょうとした態度に言い返した。
「そこの子たちを解放しろ!お前のやっていることは違法だ!」
「はてはて。冒険者の皆様はよくしてくれていますよ。よくぞまぁ、そんなことを」
「ボクだって冒険者だ。」
「ほう。」
ハッとした。ギルド証がない!そういえば、たしかバードに預けていた気が。
「どうしました。ギルド証がないと取り締まりはできないでしょ?」
「くぅ…」
するとグルゥが突然吠えた。
「みんな、スノウが殴り込みするってよ! あつまれ!」
突然魔法陣が出てきてみんなが出てきた。
「おやおや、穏やかではありませんね。お前たち、出てきなさい。」
男たちがぞろぞろ出てきた。ドラゴンもいる。
「ドラゴンは気絶させる程度に。その前に、この生意気なガキをつぶせ!」
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「うわぁぁぁ」「なんてやつだ」「正統派の召喚士じゃねぇか」
男たちはもちろんマスター風の男たちも慌てて外へ飛び出し、馬車に飛び乗り、一目散にどっかへ消えていった。あとから追っかけていた男たちは袋を持っていた。多分、金だろう。
改めてみんなにお礼をいう
「みんな、こんなボクに加勢してくれてありがとう。」
みんな飛び跳ねてこたえてくれている。
「みなさんも、ありがとうございます。」
あいつらの側とおもっていたドラゴンがいきなり寝返り、ボクの加勢についてくれた。さらに店の奥に閉じ込められた奴隷のドラゴンたちも一気に出てきて、すさまじい数の暴力になった。
「ありがとう、少年よ」
声がしたほうを見ると、ひときわ立派なドラゴンがいた。
「え、しゃべって…」
「召喚士であれば当然聞こえて当然だ。」
確かにドラゴンはヒトの言葉を理解すると聞いたが…、まさかここまでとは。
「ねっ、スノウ、これで信じてくれる?」
この声。天啓じゃなかったんだ。グルゥだったんだ。
「もう、やっとわかるようになるレベルに達したね。ほんと、あきれるよ。」
「…どういうこと」
「だってさ、スノウ、経験値を横取りされ続けているんだもん。そりゃあいつまでたっても聞こえないよ。ほんと、おひとよしだよ。」
えっ。じゃあ、召喚士は普通にモンスターの声が聞けたということか。
「そうとはかぎらんぞ。経験値だけではない。使役するドラゴンの量、質。それらも大きな要素だ。若者よ、苦労されたのだな。」
立派なドラゴンはそういうと、ボクに近づいて頭を下げた。
「私はグランツ。改めてありがとう。命を救ってくれたキミに最大の感謝と敬意と忠誠を」
その声と同時にすべてのドラゴンがボクに向かった頭を下げた。
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「騎士につかえていたんですね。」
「ああ。冒険者ギルドに所属するフリーの騎士でね。だが、マスターが死んでしまった」
「で、仲間たちはテキトーにここに持ってきたわけか。」
「仲間というほどのものではなかったから、そうだ。おかげでこの体たらくさ」
ほかのドラゴンにもいろいろと話を聞いていくと、なんと、冒険者の間ではいまや召喚獣をちゃんと扱っている人たちはおらず、召喚士ですら、いらなくなるとこういうところに持ってきてしまっているという。
「道具としてしか見ていない連中にはさぞ大きなお荷物に見えるんだろうな」
「そんな。」
「でも、ボクたちなんてまだまだましだよ。」
話に割り込むように隣りに来たのは少し若いドラゴン。ワイバーンかな。
「死んだらテキトーに焼かれて埋められてポイさ」
「ったく、ろくなもんじゃねえ」
おもわずいらっしてまっていたようだ。
「そ、そんな怖い顔をしないでよ」
「え、あ。」
思わず顔を叩いて正気に戻す。しかし、ろくなもんじゃない。
「よくあるのだ。本来は、たとえ死んでも、最後の最後まで。素材としてその魂を継承する。いままでの働きに感謝する。だが、いま、そんなことをする冒険者はもういない。死因には薬漬けということもあると聞いた。ろくなもんじゃないよ。」
ちょっとだけどファーストが心配になってきた。でも、バードがいるし何とかなるよね。おちつこうとしたのか、癖で知らずに魔タバコをくわえていた。
「けっこうな量を吸われているみたいだね。」
「あ、すんません。まぁ、もう癖みたいなもので。ちょっと外に」
席を立とうとするとグランツは首を横に降った。
「ここでいいよ。ここはその魔タバコと同じさ。一度吸ってしまうと、なしでは無理。こういった安いお金で処分してもらえるサービスは特にね。」
この一言を聞いたとき、ボクの脳にすさまじいひらめきが走っていた。
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翌日から、僕は計画を実行に移すことにした。
まず冒険者ギルドでバードのパーティを脱退したことを申告、ソロに戻した。そして、ギルド証の再発行とは別で「ドラゴン買取専門ギルド」の冒険者カードも申請。副ギルド長が出てくる事態になったが、身寄りのないドラゴンたちの養老院を作ると言ったら副ギルド長はすんなりと許可してくれた。
次にギルドハウスの掃除。かなり劣悪な環境だったので、できる限り掃除をして環境を整えた。こんな環境であいつらが住んでいたとは思えないので、ここは本当に押し込める用のものだったんだろう。使える魔法は全部使って宿舎をきれいにして過ごしやすい場所を作った。でも全然スペースが足りない。だからここは浴槽にして、小部屋の壁をぶち抜いて大きなスペースにした。裏庭も草は多かったけど、問題なし。ここをみんなの運動スペースにした。
ボクの身辺整理とみんなの家が出来たら次はお金。これは大量に必要だ。だからお金を生み出すルートは2本だてにする。
ルート1、ドラゴンの冒険者業。
つまりみんなに冒険者として働いてもらう。だけど、不得意なことはかわいそうだから当てられない。ボクが冒険者ギルドから多種多彩な依頼を引き受け、得意なことを見つけ、チームを作っていく。採集チーム、運搬チーム、お手伝いチーム…。基本的にはボクが同伴しないといけないから大変だけど、チームや編成を変えながらたくさん依頼をこなして体制をつくる。ちなみに副ギルド長には養老院のみんなの健康作りと言っておいた。まぁ、依頼内容はそれくらいの軽いものだし、怪しまれることはなかった。
ルート2、解体屋。ドラゴンのみんなが作ったお金はあくまでも将来たくさんのドラゴンを買い取るために使いたい。だから、基本はボクが稼ぐ。ボクにできることで得意なこと。それは素材価格をすべて記憶していることだった。でもただの「解体屋」をやる気はない。
ふつうは「解体屋」は解体作業を代行するものが多く、冒険者自身が自分でやれば入るはずの儲けから手数料を引いて本来よりも低い価格で買い取るか、もしくは処分費用を要求して素材して冒険者に渡すというものが多い。
だからボクは逆をいく。
そもそも彼らの執着はモンスターの死骸からとれる素材で高い利益をあげることだけ。つまり、あっちに利益になる状態にすればもうそれ以上は執着しない。これは、ボクがファーストの失敗で学んだことだった。あいつらはファーストを引き渡したらあとは興味なかったからね。だから、それを逆手に利用する。
冒険者には死骸を査定するときに、取れる素材を一覧で渡す。了承が出たら、その素材が一番きれいな状態の買取金額を示す。あとは、残った死骸から素材を剥ぎ取り、さらに加工する。実は召喚士には浄化という魔法があり、素材をさらにクリーンな状態にできる。あとはこれをギルドに取引明細と一緒に渡せば金になる。
2週間後。ボクの計画通りことが進み出した。
ドラゴンの冒険者業はびっくりするほどみんなが協力してくれたおかげで大盛況。とんでもない量にちょっと副長に怪しまれたけど、なんとか乗り切って常連ともいえる依頼元を得ることができた。中には面白がってボク指定で依頼してくれる人も増えた。
解体屋も大好評。何もしなくても、しっかり処理した分のお金がもらえると便利なサービスとして浸透しだした。ちょっと量が多くて大変だけど、魔法である程度処理は簡略化できる。
うまくいっている。
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さらに2週間後。
毎日朝早くから夜遅くまで頑張っていたら、魔力が枯渇することが増えてきた。恐ろしいことに魔力が切れると体力が削られる。だからどんどん体調が悪化し始めてきた。
正直、甘えられることも一苦労。がんがん魔力が吸われていく。ファーストがいたときも大変だったが、いまは頭数が多いので、がっつりではなくがつんともっていかれる。ファーストのときのそれ以上で比にならない。さすがにきついので、朝昼晩の3チームに分かれてもらって随時短い睡眠をとらせてもらったが、全然回復しない。でも、みんなをがっかりさせたくない。もったいないとは思いつつ、ポーションを買ってがぶ飲み。もともと一時しのぎの薬を常用するのだから、副作用が半端ない。
でも、めげていられないぞ!
ふと運搬クエストの付き添いでいった先でホーリーにであったことを思い出した。
「あまり、無理をしないでください。」
相変わらず嫌味なことをいっていた。本心ではバカにしているな。だって、ボクを追放しきに、こう言い放ったから。
-「あなたはこのパーティーにいるべきではありません、すぐさま出ていきなさい!」
ボクは決して忘れることはない。もっとも、バードのパーティを抜けて教会に戻り、のうのうと近所の孤児院の院長をやっていたのは驚いたけどね。まあ、もういいんだ、いまはホーリーは仕事の依頼主で、ボクは仕事をする側だ。こっちは仕事さえもらえればそれでいい。本格的な復讐には定期的にお金が供給元がないといけないからね。ありがたく利用させてもらうよ、ろくでなし。
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3日後。
朝起きると頭が割れるように痛い。床の上で寝ていたらしい。魔タバコを吸えば少しはと思い、懐に手をやると、ない。周囲を見ると、大量の魔タバコとポーションの瓶がころがっている。
「くそ…」
回復をしようとしたものの、何ともならず、少し寝ようとして本格的に寝てしまったわけだ。寝る前に相当な量のポーションとタバコを消費したらしい。なんという浪費。なんとしてもこの分だけでも取り返さないと。
地下の作業場にいこうと立ち上がろうとするが、体に力が入らない。次第に視界がかすんできた。
「や、やばい…」
そのまま、倒れてしまった。動けない。まずい。朝のチームのお楽しみタイムがもうすぐくる。そのためには少しでも作業をして、血を洗い流して、相手しないといけない。なのに。やることたくさんなのにひとつもも前に進まない。
無理やり体を起こし立ち上がろうとすると、嘔吐してしまった。
もうだめだ。やっぱり無謀な夢だったんだ。なにか言おうにも声にならない。そのまま視界が真っ黒になって倒れてしまった。
ったくろくなもんじゃない




