第52話 悪役令嬢は幸せになる
数年後。
王城の大広間は、静かな緊張に包まれていた。
玉座の前に並ぶ貴族たち。
高い天井に響く楽団の低い旋律。
今日は、即位式の日だった。
アレクシス・ヴァンデル――第二王子だった男が、
新たな王として即位する。
そして。
その隣に立つのは、一人の女性。
レティシア・フォン・アルヴァレス。
かつて断罪された、悪役令嬢。
*
儀式は、厳かに進んだ。
王冠が掲げられる。
宰相が宣言する。
「ここに、新たなる王の誕生を告げる」
大広間に声が響く。
「アレクシス・ヴァンデル陛下」
貴族たちが一斉に跪く。
だが、その視線はもう一人へも向けられていた。
王の隣に立つ女性へ。
「そして――」
宰相の声が続く。
「王妃、レティシア・ヴァンデル」
レティシアは、ゆっくりと前に出た。
かつて、この城で断罪された場所。
同じ王城。
同じ大広間。
だが、今は違う。
誰も彼女を疑わない。
誰も彼女を追い詰めない。
*
式が終わり、夜。
王城のバルコニーから街の灯りが見える。
祝賀の明かりが、遠くまで続いていた。
「疲れたか」
アレクシスが隣に立つ。
「少しだけ」
レティシアは笑う。
「でも」
夜空を見上げる。
「悪くありません」
静かな風が吹く。
王城は、もう怖い場所ではない。
ただの場所だ。
「……信じられません」
ぽつりと呟く。
「何がだ」
「私が、ここにいること」
アレクシスは小さく息を吐く。
「当然だ」
その言い方に、レティシアは笑った。
「ずっと、そう言いますね」
「事実だからな」
彼は肩をすくめる。
「君は、最初からここに立てる人間だった」
ただ、それを誰も見ていなかっただけ。
*
レティシアは、彼を見上げる。
「……陛下」
「今はやめろ」
即答。
「二人きりの時くらい」
少し苦笑する。
「いつも通りでいい」
レティシアは少し考えてから頷いた。
「では」
微笑む。
「アレクシス」
彼は満足そうに息を吐いた。
そして、自然に彼女の肩を抱く。
王としてではなく。
一人の男として。
*
城の下では、人々の声が響いている。
新しい王。
新しい王妃。
その噂は、すでに街中に広がっていた。
そして、よく語られる話がある。
――あの王は、王妃に弱い。
政策の議論でも。
会議でも。
最後は王妃の言葉を聞く。
だが、それは弱さではない。
王妃が正しいからだ。
そう皆が知っている。
*
レティシアは、静かに笑った。
かつて断罪された悪役令嬢。
その肩書きは、もうどこにもない。
あるのはただ一つ。
王の隣に立つ女性。
そして。
一人の男に、溺愛される妻。
夜風が優しく吹き抜ける。
レティシアは、彼の肩に軽く寄り添った。
ここが、彼女の選んだ場所。
悪役令嬢は、幸せになる。
それが、この物語の結末だった。
ここまで読んでくださった皆さま、本当にありがとうございました。
本作は、「断罪された悪役令嬢が、誰かに救われるだけではなく、
自分の意思で未来を選び直す物語」を書きたいと思い、始めた作品です。
最初は、断罪される悪役令嬢から始まりました。
誤解され、評価されず、役割だけを背負わされていたレティシアが、
少しずつ「守られること」を受け入れ、
そして最後には「隣に立つこと」を自分で選ぶ。
この変化を書くことが、この物語の一番のテーマでした。
アレクシスもまた、
最初はただ庇護する存在でしたが、
途中からは「対等に選び合う関係」へと変わっていきました。
溺愛という言葉はよく使われますが、
この物語では
・守る
・尊重する
・自由を奪わない
という形の溺愛を書いてみたいと思いました。
その結果、
少し静かな恋愛になったかもしれません。
それでも最後まで読んでくださった方がいることを、
とても嬉しく思います。
また、途中でコメントやブックマーク、評価をくださった方々にも心から感謝しています。
皆さまの反応が、この物語を最後まで書き切る大きな力になりました。
もしこの物語を気に入っていただけたなら、
また別の作品でもお会いできれば嬉しいです。
改めて、最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。




