第49話 社交界の逆転
王城の舞踏会は、久しぶりに華やかな夜だった。
春の始まりを祝う恒例の集まり。
だが今回は、それ以上の意味を持っている。
第二王子の婚約者が、正式に社交界へ姿を見せる。
その噂は、すでに広がっていた。
*
大広間に入った瞬間、視線が集まる。
レティシアは、静かに歩いた。
隣には、アレクシス。
堂々と腕を差し出し、彼女をエスコートしている。
ざわめきが広がる。
「……本当に、あのアルヴァレス嬢なのか」
「断罪されたはずでは」
「いや、今は第二王子殿下の――」
囁き声は、隠されているようで隠されていない。
だが。
レティシアは止まらない。
俯きもしない。
*
中央へ進むと、何人かの貴族が近づいてきた。
先に口を開いたのは年配の侯爵だった。
「お久しぶりですな、レティシア嬢」
「ご無沙汰しております」
落ち着いた挨拶。
「あなたが再び社交界に戻られたこと、喜ばしく思います」
それは、暗に過去を認める言葉でもある。
「ありがとうございます」
短く、しかしはっきりと。
そのやり取りを、周囲は見ている。
かつて断罪された女性が、
今は堂々と貴族の中央に立っている。
*
別の貴族夫人が、微笑みながら言った。
「噂は聞いておりますわ」
「噂、ですか」
「殿下の政策の多くに、あなたが関わっていると」
レティシアは、少しだけアレクシスを見た。
彼は肩をすくめる。
「事実だ」
隠さない。
その一言で、空気が変わった。
これは庇護ではない。
評価だ。
*
音楽が始まる。
最初の舞踏。
アレクシスが、静かに手を差し出した。
「踊れるか」
「もちろん」
微笑む。
二人は中央へ進む。
ダンスが始まると、視線はさらに集まった。
だが、今のレティシアには分かる。
この視線は、好奇心ではない。
敬意だ。
*
「緊張しているか」
アレクシスが小さく問う。
「少しだけ」
「そうは見えない」
「努力していますから」
少し笑う。
足取りは完璧だった。
かつて社交界で育った貴族令嬢。
この場は、本来彼女の世界なのだ。
*
ダンスが終わる頃には、空気は完全に変わっていた。
誰も“断罪された令嬢”とは呼ばない。
呼ぶのはただ一つ。
「殿下の婚約者」
そして。
未来の王妃。
*
舞踏会の終盤。
バルコニーで夜風に当たる。
アレクシスが隣に立つ。
「どうだった」
「思ったより、静かでした」
「反対が出ると思ったか」
「少し」
正直に言う。
彼は軽く息を吐いた。
「能力は、時間が証明する」
それが今、形になった。
レティシアは夜空を見上げる。
かつて、この場所は怖かった。
噂と視線と、評価の世界。
だが今は違う。
「……戻ってきたのですね」
「違う」
アレクシスが言う。
「君が、ここを変えた」
その言葉に、レティシアは静かに微笑んだ。
断罪された悪役令嬢。
その肩書きは、もうどこにもない。
あるのはただ一つ。
堂々と社交界の中心に立つ女性。
逆転は、今夜、完全な形で示された。
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