第48話 第一王子の言葉
王城からの訪問は、予想より静かにやって来た。
門番からの報告を聞いたロイドが、一瞬だけ驚いた顔をする。
「……第一王子殿下、です」
部屋の空気がわずかに止まる。
レティシアは、ゆっくりと息を吸った。
「お通ししてください」
逃げる理由はない。
もう、あの日の自分ではないのだから。
*
応接室の扉が開く。
入ってきたのは、エドワードだった。
以前より、少しだけ疲れた表情。
だが、背筋はまっすぐ伸びている。
「久しいな」
「お久しぶりです」
形式的な挨拶。
だが、その空気には昔の緊張が残っていた。
*
しばらく、沈黙。
先に口を開いたのはエドワードだった。
「……婚約の件、聞いた」
「はい」
「おめでとう」
素直な言葉だった。
意外なほどに。
レティシアは小さく頭を下げる。
「ありがとうございます」
エドワードは、椅子の背にもたれた。
そして、静かに言う。
「私は、愚かだった」
率直な言葉。
飾りがない。
「君が何をしていたか、見ていなかった」
王城の仕事。
制度設計。
会議の裏の調整。
すべて。
「当たり前だと思っていた」
視線が落ちる。
「それが、どれほどのことか理解せずに」
レティシアは黙って聞いていた。
言い訳ではない。
後悔だ。
*
「君を失って、初めて分かった」
エドワードの声は低い。
「王城がどれだけ君に支えられていたか」
沈黙。
重い事実。
レティシアは、静かに言う。
「王城は、もう回っています」
「回っている」
苦笑。
「だが、効率は半分だ」
皮肉ではない。
本音だ。
「それでも」
顔を上げる。
「それでいいと思っている」
レティシアは少し驚く。
「君は、戻らない」
当然のように言う。
「ならば、我々が変わるしかない」
それが、彼の結論だった。
*
しばらくして、エドワードは立ち上がる。
「謝罪は、もう済んだ」
宰相が来たことは知っている。
「だから今日は」
一瞬、言葉を探す。
「……礼を言いに来た」
レティシアは目を瞬いた。
「礼?」
「王城を支えてくれたことに」
深く頭を下げる。
第一王子が。
かつて断罪した相手に。
その姿に、レティシアの胸が静かに揺れた。
*
「……顔を上げてください」
優しく言う。
「私は、自分の役割を果たしただけです」
エドワードは顔を上げる。
「それでも」
少し笑う。
「君は、王城にとって必要な人間だった」
一拍。
「そして今は」
視線が柔らかくなる。
「弟にとって、必要な人間なんだろう」
レティシアは、少しだけ照れた。
否定はしない。
*
帰り際。
エドワードは扉の前で振り返る。
「……幸せになれ」
短い言葉。
それは命令でも、皮肉でもない。
ただの願いだった。
「はい」
レティシアは静かに答える。
第一王子が去ったあと。
部屋の空気が、ゆっくりと軽くなる。
過去は終わった。
恨みも、誤解も。
すべて整理された。
レティシアは窓の外を見た。
これからは、未来の話だけでいい。
そう思えることが、
何よりの変化だった。
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