第47話 再会
王城の謝罪から数日後。
穏やかな午後、館の門番が控えめに報告に来た。
「……来訪者です」
ロイドが書状を受け取る。
一瞬だけ目を細めた。
「お通ししても?」
レティシアは頷く。
名前は、すでに分かっていた。
*
応接室。
扉が静かに開く。
入ってきたのは、一人の女性だった。
リリア・ヴァンデル。
以前より少しだけ落ち着いた雰囲気を纏っている。
「……お久しぶりです」
小さく頭を下げる。
かつて、王城で何度も顔を合わせていた相手。
だが。
あの日の断罪の場以来、初めてだった。
「お久しぶりです」
レティシアも、穏やかに答える。
緊張はない。
ただ、少しだけ時間が必要だった。
*
しばらく、沈黙が落ちる。
先に口を開いたのはリリアだった。
「謝りに来ました」
まっすぐな声。
「ずっと、来るべきだと思っていました」
彼女は、深く頭を下げた。
「私は、あの場で何も言えませんでした」
断罪の場。
彼女は沈黙していた。
それが、どれほどの重さを持つか。
「……怖かったんです」
小さく呟く。
「周りの空気も、
王子の言葉も」
顔を上げる。
「でも」
震える声。
「本当は、分かっていました」
レティシアがどれだけ働いていたか。
どれだけ支えていたか。
「私は、あなたになれませんでした」
それは嫉妬でも、敵意でもない。
ただの事実。
レティシアは、静かに聞いていた。
*
「……なろうとしていたんですね」
優しく言う。
リリアは、目を見開く。
「え?」
「王城は、そういう場所です」
微笑む。
「誰かの代わりを求められる」
レティシア自身もそうだった。
完璧な補佐。
理想の婚約者。
役割。
「でも」
首を横に振る。
「人は、代わりにはなれません」
リリアの目に涙が滲む。
「……ずっと、怖かったんです」
「何がですか?」
「あなたに会うことが」
正直な言葉だった。
恨まれていると思っていた。
当然だと。
*
レティシアは、静かに立ち上がる。
テーブルを回り、彼女の前へ。
「恨んでいません」
はっきりと言う。
「え……?」
「恨むほど、あなたは何もしていません」
リリアは、言葉を失う。
「沈黙は罪ではありません」
あの場は、誰にとっても残酷だった。
むしろ。
「あなたも、苦しかったでしょう」
リリアの涙がこぼれる。
止められない。
ずっと、胸の奥に溜めていたもの。
*
「……ありがとうございます」
何度も頭を下げる。
「あなたは、強い人です」
レティシアは首を振る。
「違います」
「え?」
「今は、隣に立つ人がいますから」
ほんの少し照れた笑顔。
その言葉だけで、リリアは理解する。
この人は、もう過去に縛られていない。
*
帰り際。
リリアは扉の前で振り返った。
「……あなたは」
少し笑う。
「王妃になりますね」
レティシアは、軽く肩をすくめる。
「まだ婚約者です」
「時間の問題です」
それは祝福だった。
敵ではない。
同じ時代を生きる、別の女性。
彼女が去った後。
応接室に静かな空気が残る。
レティシアは、ゆっくりと息を吐いた。
過去は、終わった。
今度こそ、本当に。
次は――未来の話だ。
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