第46話 王城からの訪問
第二王子の館に、王城の紋章を掲げた馬車が現れたのは、穏やかな午後だった。
知らせを受けたロイドは、ほんのわずかに眉を上げる。
「宰相閣下、ですか」
予想はしていた。
ただ、思っていたより早い。
レティシアは、書類から視線を上げた。
「……いよいよ、ですね」
逃げる理由はない。
もう、過去から目を逸らす必要もないのだから。
*
応接室。
宰相は、静かに一礼した。
年齢を重ねた落ち着いた佇まい。
だが、その表情には、わずかな緊張が混じっている。
「第二王子殿下」
「宰相」
アレクシスは短く応じる。
形式的な挨拶が終わると、宰相はレティシアへ視線を向けた。
「レティシア・フォン・アルヴァレス嬢」
「はい」
呼ばれた名前に、昔の重さはもうない。
ただ、自分の名として受け止められる。
宰相は、数秒沈黙した。
そして。
「まず」
深く頭を下げた。
室内の空気が、わずかに揺れる。
「王城を代表して、謝罪します」
静かな声だった。
「我々は、あなたを正しく評価できなかった」
誰も、言葉を挟まない。
「断罪の場において、
あなたの功績も、あなたの人格も、
十分に検証されることはありませんでした」
その一言一言は、重い。
「結果として、
あなたに不当な立場を背負わせた」
もう一度、頭が下がる。
レティシアは、静かにそれを見つめていた。
怒りはない。
恨みもない。
ただ、長い時間をかけて、ようやく辿り着いた一言だと理解している。
*
「……顔を上げてください」
レティシアは、穏やかに言った。
宰相が顔を上げる。
「過去のことです」
その言葉に、宰相の目がわずかに揺れた。
「もちろん、忘れることはできません」
正直に言う。
「でも」
視線を、まっすぐ向ける。
「今の私は、あの頃の私ではありません」
隣に立つアレクシスを、ちらりと見る。
「そして、あの出来事があったからこそ、
私は今ここにいます」
宰相は、ゆっくり頷いた。
「……殿下は、良い方を選ばれました」
その言葉に、アレクシスがわずかに眉を動かす。
「選んだのは、彼女だ」
短く言う。
レティシアは、少しだけ笑った。
*
「もう一つ」
宰相が続ける。
「王城として、
あなたの名誉を正式に回復させる予定です」
断罪記録の訂正。
功績の再評価。
公的な発表。
「時間はかかりますが、
必ず行います」
レティシアは、ゆっくり頷いた。
「ありがとうございます」
それだけで十分だった。
ざまぁではない。
復讐でもない。
ただ、ようやく歴史が修正される。
それでいい。
*
宰相が去った後。
応接室に静けさが戻る。
「……終わりましたね」
レティシアが小さく言う。
アレクシスは、ゆっくりと息を吐いた。
「一つは、な」
まだ物語は続く。
だが。
かつて断罪された悪役令嬢は、
もう、過去に縛られていない。
その事実だけで、
胸の奥が、驚くほど軽かった。
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