第44話 公にするということ
選択は終わった。
だが、物語はそこで止まらない。
レティシアが隣国の招聘を断ったという事実は、
水面下で静かに広がっていった。
隣国の特別顧問を辞退。
理由は公表されていない。
だが、貴族社会に沈黙はない。
――第二王子の元を離れなかった。
その一点だけで、十分だった。
*
宰相府から、公式な打診が届く。
「……予想より早いですね」
ロイドが書簡を差し出す。
内容は簡潔だった。
第二王子殿下とレティシアの関係性について、
今後の公的整理を検討したい――と。
言葉を選んでいるが、意味は明白だ。
「婚約の話ですね」
エマが静かに言う。
レティシアは、息をゆっくり吐いた。
ここまで来ると、逃げ道はない。
いや――。
もう、逃げる気はない。
*
アレクシスの執務室。
書簡は机の上に広げられている。
「どうする」
彼は、問いかける。
決定ではなく、確認。
レティシアは、視線を逸らさない。
「……私は」
鼓動が、少しだけ速い。
「逃げません」
一歩、近づく。
「隣に立つと決めました」
それは、私的な選択だった。
だが、今問われているのは、公的な立場だ。
「殿下が望まれるなら」
彼の目が、わずかに細くなる。
「望む」
迷いなく。
「だが、条件がある」
「条件?」
「対等であること」
低く、はっきりと。
「守るだけの関係にはしない」
それは、彼なりの覚悟だった。
溺愛はある。
だが、庇護だけでは終わらせない。
並ぶのだ。
同じ視線で。
レティシアは、微笑んだ。
「それなら」
胸を張る。
「私は、負けません」
*
数日後。
第二王子殿下、婚約内定。
正式発表前の、半公式な通達が回る。
館の空気が、少し変わる。
使用人たちの態度は変わらない。
だが、視線の中に確信がある。
“当然の帰結”。
王城からも、異議は出ない。
第一王子は、すでに別の縁談を進めている。
リリアは、別の道を歩み始めた。
ざまぁは起こらない。
静かに、逆転は完成している。
*
夜。
中庭で並んで立つ。
以前と同じ場所。
だが、距離はもう曖昧ではない。
「怖くはないか」
アレクシスが問う。
「少しだけ」
正直に答える。
「でも」
彼を見る。
「怖いのは、立場ではありません」
「何だ」
「隣に立てなくなること」
それが本音だった。
彼は、静かに息を吐く。
「立てなくするつもりはない」
一歩、距離が縮まる。
今度は、迷いがない。
そっと、彼の手が彼女の手を包む。
強くはない。
だが、離さない意思がある。
「今度は、公だ」
低く、穏やかに。
「私の婚約者として」
その言葉が、夜空に溶ける。
レティシアは、ゆっくり頷いた。
「はい」
役割ではない。
補佐でもない。
婚約者。
対等な立場。
断罪された悪役令嬢は、
今や正式に選ばれる側となった。
逆転は、甘くない。
だが、確実だ。
物語は、最終局面へと静かに歩みを進める。
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