第40話 提示された未来
正式な書状は、三日後に届いた。
隣国アルディナ王国・制度再編特別顧問任命案。
期間は二年。
往来形式。
報酬も権限も、破格。
それはもう、“可能性の打診”ではない。
未来の提示だった。
*
応接室で、カイルが淡々と説明する。
「あなたの現在の立場を尊重します」
穏やかな口調。
「第二王子殿下の補佐を続けながらでも構いません」
柔軟すぎる条件。
「ですが」
一拍。
「いずれは、あなた自身の名で立つべきです」
レティシアの指先が、わずかに震えた。
“誰かの補佐”ではなく。
“自分の名で”。
その響きは、強い。
*
打ち合わせが終わると、
ロイドが静かに言う。
「これは、断るのが難しいですね」
「……ええ」
合理的に考えれば、受けるべきだ。
彼女の能力は、間違いなく国を越える。
ここに留まることは、
ある意味で“縮小”とも言える。
*
夕刻。
執務室でアレクシスと向き合う。
書状は、机の上に置かれている。
「魅力的だな」
「はい」
「君にふさわしい」
否定しない。
誇らしげですらある。
それが、胸に刺さる。
「……殿下は」
レティシアは、まっすぐに問いかける。
「私がいなくなっても、困りませんか」
沈黙。
数秒。
「困る」
即答だった。
胸が、跳ねる。
だが。
「だが、それで引き止めることはしない」
続く言葉は、冷静だった。
「君の未来を、
私の都合で狭めたくない」
その理屈は、正しい。
正しすぎる。
*
レティシアは、書状を見つめる。
世界は広い。
彼女は、もっと高い場所に立てる。
それは事実だ。
だが。
「……私は」
喉が、わずかに詰まる。
「私の未来に、
殿下がいない形を、うまく描けません」
空気が止まった。
初めて、感情がはっきりと言葉になる。
アレクシスの目が、わずかに揺れる。
だが彼は、まだ手を伸ばさない。
「それは、依存ではないか」
あえて、そう問う。
逃げ道を与えるように。
レティシアは、首を振った。
「違います」
はっきりと。
「私は、守られているから残りたいのではない」
一歩、踏み出す。
「あなたの隣で、
共に考えたい」
静かな宣言だった。
*
だが、決断はまだ下されていない。
正式な回答は、明日。
レティシアは、部屋を後にする。
廊下の窓から見える夜空は、広い。
世界は、広がっている。
選択肢も、増えている。
それでも。
「……私は、どこに立ちたい?」
問いは、能力ではなく。
未来でもなく。
――誰の隣に立ちたいのか。
それを決める夜が、始まろうとしていた。
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