表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された悪役令嬢ですが、国が回らなくなったので第二王子に引き取られました  作者: 朝霧セシル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/41

第31話 静かに崩れる

 異変は、とても些細なものだった。


 朝、目を覚ましたときに、ほんの少し体が重い。

 それだけだ。


「……寝不足、かしら」


 そう思いながら身支度を整え、いつも通り執務室へ向かう。

 特別な予定はない。

 急ぎの案件もない。


 それなのに、歩くたびに、微妙な違和感があった。


 *


 午前中の確認作業は、問題なく終わった。


 ロイドが報告をまとめ、

 レティシアが目を通し、

 必要があれば一言添える。


 流れは、完璧だった。


「……以上です」


 ロイドが言う。


「はい」


 返事をしながら、

 ふと、視界が揺れた。


 一瞬。

 本当に一瞬だけ。


「……?」


 目を瞬いて、視線を机に戻す。

 問題ない。

 立ちくらみというほどでもない。


 ロイドは、気づいていない様子だった。


 ――大丈夫。


 そう、自分に言い聞かせる。


 *


 昼前。


 廊下を歩いていると、

 エマがこちらに気づいて足を止めた。


「レティシア様、少し顔色が――」


「大丈夫よ」


 即座に答えてしまう。


 いつもの癖だった。

 心配をかけるほどのことではない、と判断してしまう。


 エマは、じっとこちらを見たまま、

 それ以上は言わなかった。


 だが、視線が離れない。


 *


 昼食は、ほとんど手をつけられなかった。


 食欲がないわけではない。

 ただ、箸が進まない。


「……後で、でいいわ」


 そう言って下げてもらう。


 自分でも、不思議だった。

 無理をしている感覚は、ない。


 以前のように、

 限界を超えて働いているわけでもない。


 それでも、

 体が、少しずつ言うことを聞かなくなっている。


 *


 午後。


 執務室で一人、窓際に立っていたときだった。


 視界が、ぐらりと傾く。


「……っ」


 反射的に机に手をつく。

 心臓が、どくんと大きく鳴った。


 深呼吸をして、落ち着かせる。


「……少し、疲れているだけ」


 そう呟いた瞬間。


「――それは、違う」


 低い声が、背後から聞こえた。


 振り返ると、

 アレクシスが立っていた。


 いつ来たのか、分からない。


「殿下……?」


 彼の視線は、

 まっすぐにレティシアを捉えている。


「座れ」


 命令口調ではない。

 だが、逆らう余地もなかった。


 言われるまま椅子に腰を下ろすと、

 その瞬間、力が抜けるのを感じた。


 ――あ。


 自覚したときには、もう遅い。


「……すみません」


 思わず、そう言ってしまう。


「何がだ」


「少し、ぼんやりしていて……」


 アレクシスは、答えない。


 代わりに、

 彼女の額に、手を伸ばした。


「……熱がある」


「え?」


 驚いて否定しかける。


「そんな、大したことじゃ……」


「黙れ」


 短い一言。


 だが、声音は低く、

 怒気ではなく、はっきりとした判断だった。


「自覚がないのが、一番厄介だ」


 そう言って、エマを呼ぶ。


「今日は、もう休ませる」


「殿下、私は――」


「仕事の話は、終わりだ」


 即断だった。


「代わりはいる。

 今は、君が休むべきだ」


 その言葉に、

 胸の奥が、わずかにざわつく。


 以前なら、

 その一言を信じられなかった。


 だが、今は違う。


 アレクシスの判断は、

 “彼女を失わないため”のものだと、

 はっきり分かる。


「……承知しました」


 そう答えた瞬間。


 張り詰めていたものが、

 ふっと緩んだ。


 体が、正直に重さを主張し始める。


「……あ」


 視界が暗くなりかけたところで、

 肩を支えられた。


「無理をするな」


 すぐ近くで聞こえる声。


「倒れる前に、休め」


 それは叱責ではなく、

 静かな心配だった。


 レティシアは、

 その腕に支えられながら、

 初めて気づく。


 ――ああ。


 私は、

 崩れるまで耐えなくていいのだと。


 静かな異変は、

 溺愛という名の行動となって、

 確かに、ここから始まっていた。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ