第28話 代われなかった理由
王城では、臨時会議が三度目の延長に入っていた。
議題は変わらない。
魔法炉、物流、会計、騎士団補給――
どれも「致命的ではない」が、「放置できない」。
「……結論は?」
宰相の問いに、誰も即答できなかった。
正しさは、机の上に並んでいる。
だが、それらを一つに束ねる線が、どこにもない。
*
リリアは、会議室の端で黙って座っていた。
以前なら、
ここにいるだけで安心感を与えられた。
そう信じていた。
「……私が、まとめましょうか」
意を決して口を開く。
宰相は、静かに視線を向けた。
「できるかね」
責める声音ではない。
だが、期待とも違う。
「……やってみます」
資料を手に取り、説明を始める。
現地の声。
士気。
善意による即時対応。
どれも間違っていない。
だが――。
「その対応で、
三ヶ月後の歪みはどうなる?」
宰相の一言で、言葉が止まった。
「……それは」
「今、救うことと、
後で崩れないことは、違う」
沈黙が落ちる。
リリアは、唇を噛んだ。
分かっている。
自分には、
“後を見る視点”が足りない。
*
会議が終わった後。
廊下で、第一王子エドワードが立ち止まる。
「……代わりは、いると思っていた」
独り言のような呟き。
「有能な者は、他にもいる。
そう思っていた」
宰相は、静かに答える。
「有能な者は、確かに多い」
一拍。
「だが、
“全体を一人分として引き受けていた者”は、
彼女だけだった」
エドワードは、目を伏せる。
それは、
評価しなかった過去への、
遅すぎる理解だった。
*
一方、第二王子の館。
レティシアは、ロイドと並んで簡単な確認をしていた。
「王城、かなり苦しそうですね」
「ええ」
淡々と頷く。
「でも、
それは私が戻らないからではありません」
視線を落とさずに続ける。
「“私一人に依存していた構造”が、
壊れただけです」
ロイドは、静かに息を吐いた。
「……代われなかった理由が、
ようやく、向こうにも見え始めたわけですね」
「そうでしょうね」
どこか、遠い話のように。
*
その夜。
レティシアは、机に向かいながら、
ふと手を止めた。
「……代われなかった理由」
それは、才能でも、努力でもない。
誰にも見せず、
誰にも求めず、
黙って背負ってきたこと。
それを、
“当然”だと思っていたこと。
今になって、
ようやく理解する。
「……私は、戻らない」
それは、拒絶ではない。
過去に戻らず、
未来を選ぶという意思表示だった。
王城は、
ようやく気づき始めている。
だが、その理解は、
彼女を呼び戻す理由にはならない。
代われなかった理由は、
もう、
彼女自身が背負うものではないのだから。
物語は、
次の段階へ進む準備を、
静かに整えていた。
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