第25話 届かない代案
王城に、返書が届いたのは翌日の朝だった。
宰相府の執務室で、封を切った宰相は、文面を読み終えると静かに目を閉じた。
「……拒否、か」
短い一言。
だが、その重みは大きかった。
協力要請は、形式上は“任意”だった。
だが、これまでそれを断った者はいない。
ましてや――
王城の内情を、最もよく知る人物が。
*
「なぜだ」
第一王子エドワードは、書類を机に叩きつけた。
「条件は悪くない。
権限も、報酬も、以前より明確にしたはずだ」
宰相補佐が、慎重に答える。
「文面を見る限り、条件の問題ではありません」
「なら、何だと言う」
苛立ちが、隠しきれていない。
「……体制です」
沈黙。
「彼女は、
“戻れば解決する”ことを否定しています」
エドワードは、言葉を失う。
「解決、するだろう」
自分に言い聞かせるように。
「彼女なら、できる」
「それは、否定していません」
宰相補佐は、静かに続けた。
「ですが、
“なぜ崩れたのか”を直さない限り、
同じことが繰り返される、と」
その指摘は、正しかった。
だからこそ、
誰も反論できなかった。
*
一方、第二王子の館。
レティシアは、いつも通り執務室にいた。
特別な仕事は、ない。
断りの返書を出したあとも、
扱いは何一つ変わらなかった。
それが、少し不思議で。
「……何か、問題になっていませんか」
思わず、エマに尋ねる。
「今のところは」
エマは、淡々と答えた。
「ですが、
向こうが引き下がるとは思えません」
それも、事実だった。
*
午後、アレクシスが執務室を訪れる。
「圧力は来る」
前置きもなく、そう言った。
「遠回しに、
“国のため”を理由に」
レティシアは、静かに頷く。
「……それでも」
少し間を置いて。
「私は、戻りません」
声は、揺れていなかった。
アレクシスは、一瞬だけ彼女を見つめ、
それから言う。
「承知している」
短い言葉。
「君の判断だ。
私は、それを覆さない」
その一言で、
胸の奥にあった不安が、すっと引いた。
*
その夜。
王城では、代案がいくつも出された。
臨時委員会。
権限の分散。
外部顧問の招聘。
だが、どれも決定打に欠ける。
「……彼女がいれば」
誰かが、ついに口にした。
宰相は、厳しい視線を向ける。
「それは、代案ではない」
静かな叱責。
「我々が今考えるべきは、
“彼女がいない前提”での再構築だ」
その言葉に、
場の空気が、さらに重くなる。
*
一方で、館の夜は静かだった。
レティシアは、自室で窓を開け、
夜風に当たっていた。
王城からの声は、届かない。
いや――
届いても、ここでは届かない。
「……代わりは、ない」
自分に言い聞かせるように呟く。
それは、傲慢ではない。
事実を、事実として受け止めただけだ。
代案が届かない。
それは、
彼女が拒んだことの、
正しさを証明する材料でもあった。
そして同時に。
王城側が、
次に選ぶ手段が
“圧”であることも、
はっきりと示していた。
嵐の前の、静けさ。
だが、今回は違う。
彼女はもう、
一人で立つ必要がない。
嵐が来ても、
立つ場所は、
すでに選んでいた。
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