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婚約破棄された悪役令嬢ですが、国が回らなくなったので第二王子に引き取られました  作者: 桐谷ルナ


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22/24

第22話 何もしない日が増えていく

 その日、レティシアの執務机には、ほとんど書類がなかった。


 正確に言えば、

 「回ってこなかった」。


「……今日は、これだけです」


 エマが差し出したのは、確認用の簡単な報告書が一枚だけだった。


「以上?」


「はい」


 即答だった。


 レティシアは、思わず書類を見直す。

 抜けはない。

 見落としでもない。


 単純に――仕事が、少ない。


「……何か、滞っている案件は」


「今のところ、ありません」


 エマは淡々と答える。


「昨日の調整で、だいたい片付きましたので」


 それは、事実だった。


 仕事は回っている。

 自分が動かなくても。


 その状況に、胸の奥がざわつく。


 *


 午前中は、その一枚の書類を確認して終わった。

 修正は不要。

 意見も、特にない。


 レティシアは、ペンを置いたまま、しばらく机に座っていた。


「……何も、していない」


 口に出してみると、違和感が強くなる。


 王城にいた頃なら、

 この時間帯は、すでに三件は横断調整をしていた。


 誰にも頼まれていない仕事を、

 自分で見つけて、勝手に抱え込んで。


 それが「普通」だった。


 だが、今は違う。


 誰も、

 「ついでにこれも」と持ち込まない。

 「君ならできるだろう」と押し付けない。


 *


 昼前、ロイドが顔を出した。


「何か、手伝えることはありますか?」


 その問いかけに、レティシアは一瞬言葉に詰まる。


 逆だ。

 これまで、彼女がそう聞かれることはなかった。


「……今は、大丈夫そうです」


「そうですか」


 ロイドは、それ以上踏み込まなかった。


「では、午後は休んでください。

 今日は、特に急ぎの案件もありません」


「……休む?」


「ええ」


 あっさりと。


「効率が落ちる状態で仕事をされるより、

 何もしない方が合理的です」


 合理的。


 その言葉に、思わず苦笑が漏れそうになる。


 評価されない時間を過ごすことが、

 合理的だと言われる日が来るとは思わなかった。


 *


 午後。


 レティシアは、館の中庭に出ていた。


 特別な用事はない。

 ただ、時間があった。


 風に揺れる木々を眺めながら、

 自分が“何もしていない”ことを意識する。


「……私は」


 小さく、呟く。


「役に立っていなくても、

 ここにいていいのかしら」


 問いは、まだ答えを求めきれていない。


 だが、不思議と――

 追い出される不安は、なかった。


 *


 夕方。


 アレクシスが中庭を通りかかった。


「何か問題か」


 そう聞かれ、レティシアは首を振る。


「いいえ……ただ」


 一瞬、言葉を探す。


「今日は、何もしていません」


「そうか」


 彼は、それを問題とは受け取らなかった。


「必要な時に、動ける状態でいるのも仕事だ」


 当たり前のように言う。


「……評価は、下がりませんか」


 思わず、そんなことを聞いてしまった。


 アレクシスは、足を止める。


「なぜ下がる」


「……何も、していないから」


 少し、恥ずかしい問いだった。


 彼は、しばらく考えるように沈黙し、

 やがて言った。


「君の評価は、

 “今日何をしたか”では決まらない」


 それだけだった。


 多くを語らない言葉。

 だが、十分だった。


 *


 夜。


 自室に戻ったレティシアは、椅子に腰掛け、静かに息を吐いた。


 今日一日、

 大きな判断も、劇的な活躍もない。


 それでも――。


 ここにいていい、と言われた。


 何もしない日が、増えていく。

 それは、不安で、落ち着かない。


 けれど同時に。


「……少し、楽ね」


 小さく、そう呟いた。


 役に立たなければ価値がない、

 そんな前提が、

 ゆっくりと、音を立てずに

 崩れ始めていた。


 この違和感は、

 やがて、

 彼女自身の答えへと繋がっていく。


 その予感だけが、

 静かに、胸に残っていた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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