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婚約破棄された悪役令嬢ですが、国が回らなくなったので第二王子に引き取られました  作者: 桐谷ルナ


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第21話 崩れ始めた王城

 王城の会議室には、重たい沈黙が漂っていた。


 机の上に並べられた報告書は、どれも似たような内容を示している。

 魔法炉の出力不安定、物流の遅延、会計の再修正要請。


「……また、ですか」


 宰相補佐が、疲れを隠さずに呟いた。


「北部に続いて、今度は東部です。

 原因は複合的ですが、共通しているのは――」


 言葉が途切れる。


 誰もが、その続きを理解していた。


 全体を見て、先回りして調整する者がいない。

 それだけのことだ。


 *


 第一王子エドワードは、苛立ちを隠すことなく椅子に深く腰掛けていた。


「対応はしている。

 どれも致命的ではない」


 それは、自分に言い聞かせる言葉でもあった。


「ですが」


 宰相補佐は、慎重に続ける。


「“致命的でない問題”が、同時に起きすぎています。

 一つひとつは小さくとも――」


「分かっている!」


 エドワードは、机を叩いた。


「では、どうしろと言うんだ」


 沈黙。


 誰も、すぐには答えられなかった。


 その空白を埋めたのは、リリアだった。


「……私が、現地に行きます」


 控えめだが、はっきりとした声。


「直接話を聞いて、

 皆さんの不安を取り除ければ……」


 善意からの申し出だった。


 だが、宰相はわずかに眉を寄せる。


「現地は、感情だけで動いているわけではありません」


「でも、放っておくよりは……」


 エドワードは、頷いた。


「いいだろう。

 君に任せる」


 その決定が、

 状況をさらに悪化させるとは、

 この時はまだ、誰も気づいていなかった。


 *


 数日後。


 リリアの介入により、現地では一時的に混乱が収まったように見えた。

 だが、それは表面だけだった。


「……応急措置ばかりです」


 現場の文官が、低い声で言う。


「根本の調整が、されていません」


「でも、殿下は安心していました」


「殿下は、“回っている”と信じたいだけだ」


 その言葉が、現場の空気を冷やした。


 *


 王城に戻った報告は、曖昧なものだった。


「大きな混乱はありません」


「一部、改善が見られました」


 だが、数字は正直だ。


 会計表には、じわじわと歪みが溜まっている。


「……以前なら」


 年配の文官が、思わず口にした。


「この段階で、修正が入っていた」


 誰が、とは言わなかった。


 だが。


 沈黙が、その名を語っていた。


 *


 宰相は、夜遅くまで残された覚書を読み返していた。


 レティシアが残した、引き継ぎ資料。


「……ここまで、見えていたのか」


 今になって、理解する。


 彼女が“何もしなかった”から崩れたのではない。

 彼女が“いなくなった”から、崩れたのだ。


「……遅かった」


 その呟きは、誰にも届かない。


 *


 一方その頃。


 第二王子の館では、穏やかな夜が流れていた。


 レティシアは、机に向かいながらも、どこか落ち着いた表情をしている。


 王城の混乱を、彼女はまだ知らない。


 いや――。


 知ろうとしていなかった。


 ここでは、

 過去の責任を、背負わなくていい。


 その事実が、

 ようやく、彼女の中で

 “当たり前”になり始めていた。


 だが、王城の歯車は、

 確実に限界へと近づいている。


 再び、

 彼女の名を求める声が上がるのは、

 時間の問題だった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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