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婚約破棄された悪役令嬢ですが、国が回らなくなったので第二王子に引き取られました  作者: 桐谷ルナ


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19/22

第19話 比べられている自覚がない

 その日の午前中、執務室には珍しく緊張感が漂っていた。


「……この案件、少し厄介ですね」


 ロイドが、書類をめくりながらそう呟く。


 隣国との魔力融通協定。

 表面上は穏便だが、内部の数値は複雑に絡み合っている。


「一部の供給路が、来年から使えなくなる可能性があります」


「ですが、それを前提にすると、今期の安定性が……」


 ロイドの指が止まる。


「両立しません」


 はっきりとした結論だった。


 アレクシスは、黙ったままレティシアを見る。


「君は、どう思う」


 問われて、レティシアは書類に視線を落とした。


 数分、沈黙が続く。

 誰も急かさない。


「……供給路を守るのではなく、

 需要の波を削るべきだと思います」


 静かな声だった。


「需要を?」


「はい。

 融通量そのものを調整するのではなく、

 “使われ方”を変えるんです」


 レティシアは、いくつかの数値を書き出す。


「この期間、実際の消費は、

 慣習的な配分で膨らんでいます。

 必須ではありません」


 ロイドが、思わず身を乗り出した。


「……それは」


「一時的に不便になりますが、

 供給路が一つ消えても、全体は持ちます」


 説明は、簡潔だった。


 ロイドは、黙って計算を始める。

 紙に走るペンの音が、やけに大きく聞こえた。


 数分後。


「……合っています」


 小さく、だがはっきりと言った。


「この視点は、なかった」


 レティシアは、少しだけ首を傾げる。


「そうでしょうか」


 特別なことを言ったつもりはない。

 ただ、いつも通りに考えただけだ。


 ロイドは、彼女を見た。


 驚きでも、悔しさでもない。

 純粋な理解の目。


「正直に言います」


 少し、間を置いて。


「俺は、君と同じ位置で考えているつもりでした」


 レティシアは、何も言わない。


「ですが、違った」


 自嘲するように、ロイドは息を吐いた。


「俺は、“今”しか見ていなかった。

 君は、三年先を見ている」


 アレクシスが、静かに言った。


「役割が違うだけだ」


 ロイドは、すぐに頷く。


「ええ。

 ですが、それを認めないと、

 正しい判断はできません」


 そして、レティシアに向き直る。


「助けてほしい」


 対等な立場での、依頼だった。


 レティシアは、少し戸惑ったように瞬きをする。


「……はい」


 それだけ答えた。


 *


 午後。


 修正案は、すぐにまとまった。


 ロイドが骨組みを作り、

 レティシアが流れを整え、

 アレクシスが最終確認をする。


 仕事は、驚くほど早く進んだ。


「……これなら、問題ありません」


 ロイドが言う。


「ありがとうございます」


 レティシアは、自然にそう返していた。


 ロイドは、一瞬だけ目を丸くした。


「……君は」


 言いかけて、やめる。


「いや。

 こちらこそ、ありがとう」


 その言葉には、余計な感情がなかった。


 *


 夕方。


 レティシアは、一人で廊下を歩いていた。


 先ほどの会話が、頭から離れない。


「……比べていた、わけじゃないのに」


 自分が、誰かと競っている自覚はない。

 上に立ちたいとも、評価されたいとも思っていない。


 それでも。


 同じ場所で、

 同じ資料を見て、

 同じ結論に辿り着けない人がいる。


 その事実が、

 静かに、重く、胸に残る。


「……私」


 歩みを止める。


「……代われない、のかしら」


 その問いは、

 誇りでも、傲慢でもない。


 ただ、

 これまで自分を縛っていた

 「代わりはいくらでもいる」という前提が、

 揺らぎ始めている証だった。


 その背後で。


「そう簡単に、代われる仕事ではないな」


 いつの間にか、アレクシスが立っていた。


「殿下……」


「だが」


 一拍置いて。


「だからといって、

 君が一人で背負う必要もない」


 それは、突き放す言葉ではない。

 縛る言葉でもない。


 ただの、事実だった。


 レティシアは、静かに頷いた。


 比べられている自覚は、まだ薄い。


 だが確実に。


 彼女はもう、

 “誰でもいい歯車”ではない場所に

 立ち始めていた。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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