第14話 公開の場へ
王城の大広間は、久しぶりに人で満ちていた。
貴族、文官、騎士――
誰もが「理由」を知らされないまま、召集されている。
空気は、重く、静かだった。
レティシアは、その列の端に立っていた。
目立たない位置。
それが、彼女の定位置だった。
視線は集まるが、声はかからない。
同情と好奇が、交錯している。
――ここで、終わる。
不思議と、心は凪いでいた。
*
壇上に、第一王子エドワードが立つ。
「本日は、皆に報告がある」
その声は、はっきりと響いた。
「これまで私の婚約者であった
レティシア・フォン・アルヴァレスとの婚約を、
本日をもって正式に解消する」
ざわめきが、広間を走る。
想定内だ。
だが、その空気の中で、
レティシアは一歩も動かなかった。
「理由は――」
エドワードは、言葉を選ぶように一拍置く。
「彼女の在り方が、
次代の王妃としてふさわしくないと判断したためだ」
正義の宣告。
そう、自分では思っている。
リリアは、壇の脇で俯いている。
誰かが、視線をレティシアに向ける。
反論を、期待する目。
だが。
「……承知しました」
それだけだった。
静かな声。
しかし、広間の端まで届く。
エドワードは、わずかに眉をひそめた。
「異議は?」
「ありません」
きっぱりと。
「殿下のご判断に、従います」
それは、最後まで彼を否定しない言葉だった。
*
その瞬間。
広間の後方で、
別のざわめきが生まれた。
宰相が、一歩前に出たのだ。
「……一つ、確認させていただきたい」
その声に、全員の視線が集まる。
「レティシア嬢の職務についてです」
エドワードは、警戒するように答える。
「彼女は、正式な役職には就いていない」
「承知しています」
宰相は、頷いた。
「ですが――」
手にした書類を、掲げる。
「この三年、
地方魔法炉、物流、会計、騎士団配置、
それらの最終調整を行っていたのは、誰か」
広間が、静まり返る。
「我々は、つい最近まで、
その恩恵を受け続けていました」
ざわめきが、今度は別の色を帯びる。
エドワードは、即座に言い返した。
「属人的な体制は、健全ではない」
「その通りです」
宰相は、否定しなかった。
「だからこそ、
我々は“引き継ぎ”を受け取ったのです」
会場に、息を呑む音が走る。
「彼女は、去る前に、
全てをまとめていました」
宰相の視線が、
初めてレティシアに向けられる。
そこに、責める色はない。
ただ――敬意があった。
*
レティシアは、何も言わなかった。
これは、自分のための場ではない。
そう思っていた。
だが。
「……それでも」
宰相は、静かに続ける。
「彼女が去った後、
我々は、わずか数週間で混乱を生じさせた」
事実だった。
誰も、否定できない。
エドワードの顔色が、変わる。
「つまり」
宰相は、結論を口にした。
「彼女は“王妃にふさわしくない”のではない。
我々が、
彼女を正しく扱えなかったのです」
沈黙。
それは、断罪だった。
だが――
向けられている先は、レティシアではない。
*
広間の扉が、静かに開いた。
重い音。
そこに立っていたのは、第二王子アレクシスだった。
「話は、ここまででいい」
低い声が、空気を切る。
彼は、真っ直ぐに壇上を見据える。
「レティシア・フォン・アルヴァレス」
名を呼ばれ、
彼女は初めて、顔を上げた。
「君は、すでにこの場で裁かれる立場ではない」
一歩、前へ。
「彼女は、私が預かる」
その言葉が落ちた瞬間、
広間は完全に静まり返った。
それは――
逆転の、始まりの宣言だった。
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