宰相閣下
あれからユーリス先生の卒業論文を早々に読破し、少しづつだが色々と試してみている。
お昼休みは息抜きにユーリス先生の秘密の場所に行くことにしているので、移動中の馬車やユーリス先生とアシュレイ殿下がいらっしゃるまでの空き時間に魔法薬研究の考えやアイデアを纏める。
実際に作ったり試したりするのは帰宅後や休日といった具合だ。
あまり成果…という成果は出ていないけれど。
できれば卒業までに少しでも魔力回復効果のある魔法薬を作れるといいな。
生徒会の引き続きが無くなったことによって、放課後は研究に時間が割けるし余裕を持って王宮へ移動できるし悪いことばかりではない。
生徒会を干された時は落ち込んだけれど、最近はそう思うことができるようになっていた。
まぁ、ロジェット殿下との関係改善の仕方はまるで思いつかないのだけど…。
それは今に始まった事ではないか。
そんなわけで、今日も馬車に揺られつつノートを片手に昨日の実験結果を再確認して、次の実験の計画を立てながら王宮へ向かう。
暫くすると王宮へ到着したようで、馬車が緩やかに止まった。
停車した馬車の窓から人影が見える。
ん?あれってもしかして…。
そう思いながらも馬車から降りると、先程の人物がよりハッキリと判別できた。
ちょっと待って、いや…あの
な、何で…!??
その人物は何故か、近くに待機している馬車に目もくれず、スタスタと迷いなくこちらへ向かって直進してくる。
焦って周りを見回すも、その方が声をかけそうな目ぼしい人は居ない。
まさか…やっぱり、私?
「やあ、フィリリア嬢。息災かね」
目の前で立ち止まった男性を見て、頭を過ぎる言葉があった。
路地裏の怪しいお店で不穏なお薬売ってそう…!!
い、いや、服装は王宮に上がる高位貴族然とした子綺麗で品のある格好をしていらっしゃるのだけど。
なんて言うか…こう、雰囲気が!
「はい、あの、お初にお目にかかります、アクベンス宰相閣下」
白髪が混じり、元の色が分かりづらいが姿絵を思い出す限り、ニース様と同じミルクティーのような色味だったはず。
笑顔を称えたお顔は目が細く、何と言うかこう…
幼い頃読んだ絵本に出てくる悪い狐にとても似ている。
「ん?いや君が幼い頃に一度会っているんだが、まぁこんな小さな頃だったからね。流石に覚えてはおらんか」
「申し訳ありません…」
いつの話だろう。絵本の中ではないばずだ。
宰相閣下が指でこのくらいと示したサイズは、明らかに人のサイズ感でははく…全く参考にはならなかった。
「君には義息子が世話になっているようだから、一度挨拶をと思っていたんだけどなかなか機会が無くてねぇ。君の話はユーリスからよく聞いているよ。真面目でとても優秀だと」
「いえ…私がお世話になっている立場で」
何故だろう、笑顔が怖い…笑顔が怖いです。
お兄様が言っていた通り、全く感情が読み取れない。
…って、いやお兄様、宰相閣下とユーリス先生似ていますか!?
ユーリス先生と多少口調は似ている気はするものの、全くの別物だと思うのですが…!?
「謙遜する必要などないとも。今や、この国の命運は君の肩に掛かっているといっても良い!」
良くないです。言い過ぎです。過大評価です。
第一王子の婚約者として期待しているという意味なのだろうけれど、どう考えても誇張が過ぎる。
「あの子は我々と多少感覚がズレている所もあるが、頼りになる子だ。これからもよろしく頼むよ」
そう言った宰相閣下にぽんぽんと気安く肩を軽く叩かれる。
私が固まっている間に、そのまま待機していた馬車の方へ颯爽と歩いて行ってしまった。
な、何だったんだろう。
時間としてはものの数分だったけど、気力を根こそぎ持って行かれた気分だ。
私今、猛烈にユーリス先生の屈託のない笑顔に癒されたいです…。




