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紫水晶と星の花  作者: 星見七つ
第二章

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先生の論文



「ようこそ儂の研究室へ」


 一緒に移動してきた学院長先生が良い笑顔で迎えてくれる。


「君はユーリス殿の転移魔法を見慣れているだろうが、通常はこんなもんだ。魔法陣と詠唱を駆使して使用する。一度使うだけでも結構手間暇がかかるんだ」


「まぁ、あやつの魔法は別格じゃからのう」


 先程の位置取りそのままに立っていたターラゼット先生の説明に、学院長先生がコメントをする。


 そうなんだ…。


 ユーリス先生の転移魔法は「いくよー」ヒュン!って感じだから、思わず詠唱するターラゼット先生を凝視してしまっていた。


「ご説明いただき、ありがとうございます」


「いや、君には不要な知識だろう。ユーリス殿から良く学ぶといい」


「は、はい」


 転移魔法を扱える時点でターラゼット先生もかなりの実力者だと思うのだけど…。


「私には王立魔術師団の師団長も学院の教員も過ぎた話だ。貴族のボンボン共の相手はもう疲れた。できれば研究だけして家に引き篭もりたい…」


 そう言ってターラゼット先生は額に手を当て、学院長先生の部屋の片隅にあった椅子に崩れるように座る。


 私もターラゼット先生には休暇が必要に思います…。


 灰になりそうなターラゼット先生をよそに、学院長先生が明るい声を発する。


「さて、ヴィンデミア公爵令嬢よ」


「王立魔術師団、師団長ユーリス・アクベンスその卒業論文に興味はないかね?」


「え…」


 そう言えば、ユーリス先生は試験と論文(・・)で飛び級して卒業したと言っていた。


 先生が書いた論文、すごく気になる…!


「やつの研究を其方が引き継いでくれると言うのであれば、論文の複製を渡すこともできるんじゃが…」


そう言って、学院長先生はデスクの引き出しから取り出した紙をピラピラさせる。


「わ、私はまだ未熟です。ユーリス先生の研究を引き継げるような能力は…」


 ユーリス先生の論文を読みたい気持ちはあるものの、私が読んで理解できるものなのだろうか?

その上、その研究を引き継ぐなんて…そんな考えが先に立ち尻込みをしてしまう。


「そう謙遜するものではない。いち学生の論文じゃ、そう難しいものではないしの。じゃが、儂はこの論文を非常に評価しておる。まぁ貴族の研究としては些か珍しい論題ではあるがな」


「貴族としては珍しい…?」


 学院長先生はユーリス先生の論文を評価しているとおっしゃっているし、先生の生まれを問題視した発言とは考え難い。

純粋に、並の貴族では考えつかないアイデアってことかな…?


「魔力回復効果のある植物について効能を実証したものじゃ。今まで魔力回復効果があるとされるものは、噂や迷信の域を出んかった」


 魔力回復効果…。魔力を回復する術は今のところ自然回復のみとされている。

そして、それについての研究もまるで進んでいない。


「魔力量の多い貴族連中には無用の長物じゃ。魔法の学術研究として発表したところで評価は低いじゃろう」


 そう、魔力量の多い私達はそもそも自然回復以外の回復法が必要になるほど魔力を消費する事がない。

学院長先生のおっしゃる通り、貴族を中心とする魔法研究の世界において評価されるのは貴族にとって必要なものばかり。


「かと言って薬草をメインに扱う魔法薬師は庶民ばかり、彼らでは研究に回す魔力も資金も足りん」


「それは…そうでしょうね」


 魔法薬師は治癒魔法を使うには少ない魔力を、薬草の薬効で補い魔法薬で治癒をする。

魔法薬を作る際の魔力を節約する術は試しても、魔力を回復する為に魔力を使って研究をするというのはあまりにも非効率だ。


「しかしじゃ、これが魔法薬として実用化できれば急激な魔力消費による魔力欠乏の死者を減らせる可能性がある」


 魔力欠乏…。通常、魔力を消費すると眠くなり魔法を使う事が困難になる。その為、生命活動に必要な魔力まで使ってしまうことはまずない。


 だけど…庶民の間では魔道具への充填時や魔法陣発動直後に生命活動に必要な魔力まで吸収されてしまう事故が後を経たないという。

魔力を過度に消耗すると昏睡状態となり、最悪の場合目が覚めぬまま体が衰弱し死に至る。


殆どの貴族にとっては関係の無い話だが、魔力量の少ない者にとって日常生活のすぐ隣にある危険だと習った。


「じゃがのう…これに興味を持つ者が中々おらんのが現状じゃ。そこでユーリスの教え子である其方なら興味を持ってくれるのではと思うての」


 確かに、ユーリス先生が研究していたと言うだけで興味はある。


それに…先生は「もうちょっと学生で居たかった」と言っていた。どうせなら実際に活用できるところまで研究したかったと思っていたんじゃないかな。


「なに卒業までに結果を出せとは言わぬ。元よりこのまま捨て置かれる可能性が高い。儂らとしては少しでも進めてくれれば御の字じゃ」


「わ、私でお役に立てるのであれば」


 実際に使えるところまでいけるか分からないけど、それでも良いと言ってくださるなら。


「決まりじゃの」


「あやつのお気に入りの場所とやらも役に立つことじゃろう。頼んだぞ」


 そう言って学院長先生から手渡された紙束の一枚目には「星光の花が持つ魔力回復効果について」と記載されていた。



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