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紫水晶と星の花  作者: 星見七つ
第二章

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前魔術師団長



「どの辺りだろう…?」


 現在、私は学院の教職員棟を彷徨っていた。

ここには貴族学院で教鞭を取る先生方の研究室や準備室が並んでいる。


 お名前をお借りしているのにお礼も言わぬまま…というのは気が引けたので、放課後の空いた時間を使いターラゼット前魔術師団長様にご挨拶をと思ったのだ。


 ユーリス先生を魔術師団長に推薦された方…。

ターラゼット先生の担当授業は2年生の選択授業がメインで1学年では週に1回の座学のみ。

あまり接点があるとは言えない。


 教卓の前に立つお姿を遠目に見た感じ、ひょろっとしていて神経質そうな印象の方だったけど…実際にお話ししてみないと分からないよね。


「あ、あった!」


 ある部屋の扉の横にターラゼットという文字を見つけ、控えめに扉を叩く。


「どうぞ。遠慮なく入ると良い」


 あれ…?こんなお声をされていただろうか?


「失礼いたします」


 不思議に思いつつも扉を開き、紙や書籍があちこちに積み重なり少々埃っぽい部屋に足を踏み入れる。


中にはひょろっとしたお父様と同世代くらいの眼鏡の男性。

そして、その横にはもう1人、こちらも細身で白髪の髭を生やした年配の男性が…


「学院長先生…?」


「よく来たのう、ヴィンデミア公爵令嬢」


 驚いて声を掛けると、学院長先生が鷹揚と出迎えてくださる。


「申し訳ありません。お話し中とは知らず…」


「気にするな。学院長が返事したんだ。君の要件も大体検討はついている」


 私が謝罪すると、ひょろりとした男性…ターラゼット先生が神経質そうな様子で投げやりに言った。


「はい。あの、お礼を申し上げたく思い、お伺いいたしました」


「君が気にする必要はないよ。元より俺はユーリス殿の頼みは断れん」


「それは…」


 ユーリス先生に厄介事を押し付けた罪悪感がおありという事だろうか。

それなら何故?という思いがつい頭を掠める。


「ユーリス殿が居なければ俺は今頃、胃に穴が開いてベッドの上だ」


 よれたローブの上からお腹を摩りつつそう言ったターラゼット先生は、よく見ると眼鏡の奥で死んだ魚のような目をされていた。


 ご、ご苦労をされたようで…。


「ユーリス殿の教え子である君なら、今後も俺の名前を好きに使ってもらってかまわん。まぁ常識の範囲内でお願いしたいがな」


 …大盤振る舞い過ぎませんか。


あと教壇に立たれていた時は気が付かなかったけど…ターラゼット先生、全体的に覇気が無さすぎて心配になる。


「ありがとうございます。私の用は以上ですのでこれで…」


「ヴィンデミア公爵令嬢」


 ターラゼット先生あまりお喋りが好きではなさそうだな。という気配を感じ取って早めに退散しようとするも、学院長先生に呼び止められてしまった。


「まちなされ。儂も其方に用事があっての」


「学院長先生がですか…?」


 学院長先生の御用って何だろう…。

呼び出されるような事をした覚えは無いと思うけれど。

不安でソワソワしてしまう。


「そうじゃ。呼ぶ手間が省けたわい。ターラゼット君、ちょいと儂の部屋まで飛ばしてくれんかの」


「人を程のいい乗り物みたいに使わないでいただけませんか…」


 軽く言う学院長先生に、ターラゼット先生が疲れの滲む声で返す。


「足腰の弱ってきた老人に対して冷たい男じゃのう」


「俺は全面的に弱ってますよ」


 それは確かに…。

正直、ターラゼット先生より学院長先生の方が余程元気そうである。


しかし、ターラゼット先生はそう言いながらも部屋にある椅子や書籍を片隅にどかし始める。


「君もその円の中に入ってくれ」


「あ、はい」


 そう言って横目で示された自分の足元を見ると、絨毯に円形の模様が描かれていることに気がつく。


 …これ魔法陣だ!


 ターラゼット先生は、私が魔法陣の内側に入った事を確認してからボソボソと何かを言い始める。

声が小さい上にとても早口なので、まるで聞き取れないけど…もしかして呪文の詠唱だろうか?


暫くターラゼット先生を眺めながらじっとしていると、ユーリス先生の転移魔法で移動する時と同じ急激な浮遊感が訪れる。


 やっぱり!


 気がつくと、私はターラゼット先生の研究室より幾分広くて子綺麗な部屋に立っていた。



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