授業2日目
「本当に、申し訳ありませんでした!!」
色々な謝罪の言葉を考えていたのに、ユーリス先生を目の前にして口をついて出たのがこの極めてシンプルな謝罪である。
謝罪の言葉と合わせて深々と頭を下げ、怒られることを覚悟して両手でドレスをギュッと握った。
「気にしなくていいのに」
「き、気にします」
頭を下げているので表情は分からないけれど、怒っている気配は全く無い。
昨日と同じ朗らかな声が返ってくる。
でも、でもでも!私、せっかくの授業の時間を…自己嫌悪で段々と目頭が熱くなってくる。
「ほら、顔をあげて?うーん、このままじゃ授業が始められないな」
そう言われて跳ねるように頭を上げる。これ以上ご迷惑をおかけするわけには…!!
「よしよし」
すると目の前にはとても良い笑顔のユーリス先生が立っていた。
本当に陽だまりみたいな人だな。
そんなことを考えているうちに、先生はローブの内側に手をやり昨日も使っていた大きな布を取り出す。
…あれ?
昨日はどこから取り出したのかも分からなかったが、昨日も今日もそんなに大きな物が入っているような膨らみは無かったはずだ。
空間拡張魔法のかかったマジックバッグなんかは見たことがあるけれど…マジックバッグは空間拡張魔法を施す仕組み上、常にある程度の膨らみがある。
こんな風にヒラヒラのぺたんこにはならないはず。
気になって先生のローブをジッと見つめてしまう。
私の視線の先に気が付いたのか、先生がローブをぴらっと捲ってこちらに向けた。「見ても良いよ」ということだろう。
更に近付いてローブの裏面を観察する。
何も…無い…?
「魔法で出し入れしてるだけだよ。このローブにはタネも仕掛けも無い、ただの支給品のローブ。」
そう言いながらローブを弄ぶようにぴらぴらしている。
ローブにはタネも仕掛けも無い…?
「ローブに魔法をかけている訳ではないんですか?」
「そ。ただ、出し入れする感覚が分かりやすいからこうしているだけ」
そう言って捲っていたローブを元通りにして、再び手を入れる。そして…
「わ…?!」
バサバサバサ!
ローブから鳩が出てあっという間に飛び立っていった。
ええ…!?
「ふふ、びっくりした?」
先生は悪戯が成功したみたいに、楽しそうに笑っている。
や、やられた…!
ローブをめくって見せてくれたのは私を誘き寄せる罠だったなんて。
むぅ…。なんとなく悔しくてむくれてしまう。
こんな風に感情を表に出すなんて貴族令嬢としてはいけないことだと教えられてきたのに…。
先生がこんな調子だからか、昨日からユーリス先生の前では自由な自分でいることを許されるみたいな、そんな気持ちになる。
「すごく!すーっごく、びっくりしましたっ!!一体どこに繋がってるんですか?それ。」
「秘密」
そう言って、にこっとした口元に人差し指を立てる。
「えぇ。ちょっとズルいです」
一体どんな仕組みで何の魔法を使ったんだろう。
ユーリス先生みたいな優秀な魔法使いになればこういうことも可能なのだろうか。
私もいつかこんな風に、魔法で先生をびっくりさせることができるかな…そう考えるとすごくワクワクする。
「私も、できるようになりますか?」
「もちろん!その為には基礎をしっかりとマスターしないとね」
先に布の上に座った先生に、ぽんぽん。と軽く布を叩いて隣の場所へ促される。
よし、頑張ろう。
魔力を操る感覚を掴んで、早く魔法を使えるようになりたい。
今日は絶対、居眠りなんてしないんだから!
そう意気込んで、布の上にごろんと寝転がる。
昨日、先生が教えてくれたやり方を思いだして…
すー、はー
布越しに伝わる地面の冷たさが心地良い。
深呼吸して周りにある音や、感覚に意識を向ける。
近くの草の匂い。
風に靡いたドレスのはためく音。
遠くから虫が羽を擦り合わせる涼やかな音も聞こえる。
夕暮れ時に差し込む日の光が暖かくて…
…すゃ。




