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紫水晶と星の花  作者: 星見七つ
第二章

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68/74

事件です



 的にさえ当たれば使用する魔法は何でもいいとのことなので、比較的扱い慣れている風の魔力を操作し手元に集める。


手をダーツを投げるように構えて、狙いを定め…


 えい!


 訓練着のローブがはためき、トスッという音と共に数メートル先にある的の中心に穴が空く。


「まぁ!すごいですわフィリリア様!」


「しっかり真ん中ですね!」


 周りに居たご令嬢達が口々に褒めてくださるので笑顔で返していると、少し離れた所から歓声が沸くのが聞こえる。


そちらに目を向けると、ロジェット殿下が巨大な火球を放ったところだった。


 大人2人分もありそうな巨大な火球が的を薙ぎ倒す。

的に当たり、消えるかと思いきや…勢いを無くさぬまま直進していく。


 …え


 そのまま直進すれば、他クラスの実習をしている隣の演習場へ突っ込んでしまう。

感嘆の声を上げていたクラスメイト達も流石にざわつき始めた。


 見れば、火球を放ったロジェット殿下は授業の担当教師となにやら言い合いをしている。


 もしかして…消せないの?


 隣の演習場にはかなり距離があるし、間には魔道具で展開されている障壁もある。


 そこで止まってくれるはず…!


 そう思い、誰も彼もが固唾を飲んで見守っている。


「きゃー!」


 うそ…。


 殿下の火球が軽々と魔道具の障壁を破った。

それにより、迫り来る巨大な火球に気付いた隣の演習場が混乱に呑まれる。


大半の生徒が逃げていくのが遠目に見えるものの、動かない生徒がちらほら居ることに気がつく。


 もしかして、恐怖で動けないのでは…!?


 先程近くで見た時、渦巻く火の塊はかなりの圧を感じた。

それが向かって来ているとなれば、腰が抜けてしまう者が出るのは仕方がない。


 でも、このままじゃ…


 火球が立ちすくんだり座り込んだりしている生徒たちにどんどん近づいていく。

ロジェット殿下の魔力では教師陣も対応できるか分からない。


 わ、私が、私がやらなきゃ!


 気持ちが焦っているからか、時間の経過がゆっくりになったように感じる。


 大丈夫。私が失敗した時、ユーリス先生が私の魔法を消してくれたみたいに。

先生は緊急の場合、魔法で火を消すには水より空気を操る方が良いって言っていた。


 やるのよ、フィリリア。


 バッと両手を大きく開き、火球を包み込むようにイメージする。


集中して…周囲の魔力を感じて、魔法はイメージ!


 炎を、真空に!!


 火球が消えるよう念じながら、両の手を祈るようにギュッと握り合わせる。


 どうか…!!


「き、消えた!」

「消えたぞ!助かった!!」


 その瞬間、恐怖や焦りで騒ついていた周囲が、安堵や歓喜の声に包まれる。


 よ、よかったー!


 きつく握っていた両の手を離し、ホッと息を吐く。


 目の前の火球は一瞬で縮むように消え去り、後には演習場の芝生が焼けこげた直線を残すばかりだ。


 動けなくなっていた生徒達が、クラスメイトの手を借りて移動していく。

火球がかなり近くまで迫っていたし、恐らく念のため医務室へ向かうことになるだろう。


 隣の演習場を眺めていると、周囲の生徒達がザワザワと先程の事について述べ合いながら校舎の中へと戻って行く。

どうやら、こちらのクラスも実習を中断するようだ。


 安全対策の障壁が破られているし、両クラスの担当教師が続行は不可能と判断したのだろう。


「フィリリア様、ご助力いただき感謝いたします」


 私も移動を…そう思った時だった。

私達のクラスの実習担当教師がサッと近づいて来られて、私に向かって深々と頭を下げる。


「えっ、あ、はい。勝手に申し訳ありません」


「いえ。ロジェット殿下は…その、消せないようでしたし、私では手に負えませんでしたので」


 あぁ…あの時言い争っていらっしゃったのはやっぱりそれだったんだ。


 ロジェット殿下は王族歴代最高の魔力量。

と言うことは国内でも単純に魔力量ではロジェット殿下を超える人間は居ないということになる。

貴族学院の教員はもちろん全て貴族だが、熟練の教師陣と言えどもロジェット殿下の魔法を抑えられる人員は限られるだろう。


 王宮での教育に魔法の授業が組み込まれているのは、こうならない為なんだけどな…。


「お、お気になさらず」


「不甲斐ない話で申し訳ありませんが、今後ともどうかご助力いただけますと大変助かります」


 そう言って、再度深々と頭を下げる姿にはどことなく疲労の色が見える。

学院長先生への報告とか演習場の整備とかこの後の後始末、山積みなんだろうな…。


「フィリリア様、私達も教室へ戻りましょう」


 演習の担当教員が足早に演習場に残っている生徒達の元へと去って行くのを見送っていると、同じクラスに在籍する取り巻きのご令嬢達に声をかけられる。


「そうね、戻りましょう」


 そう言って彼女達と校舎へ向かっていると、すぐ横を地響きでも響かせるつもりなのか…?という様子のロジェット殿下が早足で通り過ぎる。


と同時に、思いっきり睨まれた。


 あぁ…これ、私が消したの絶対バレてるやつだ。



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