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紫水晶と星の花  作者: 星見七つ
第二章

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緊急会議①



 葡萄畑から帰ってきた私達は、お義姉様と一緒にお兄様にご報告に来た。


のだけど…執務室は重苦しい空気に満ちていた。


「父に確認を取る時間があれば良かったのだが」


「義父上はエーリク様に一任すると仰っていたのでは」


「そうだね…僕が決めるしかない。これは中止するしかないか…」


「そうですね、流石に魔物とあっては…応戦と避難誘導まで領の騎士や警備隊に対応できるかどうか」


 お兄様とお義姉様はお祭りを中止する方向に向いているらしい。


 まだお祭りに参加できていないのに…と言いたいところだけど、あの惨状を思い出すとお祭りの続行を主張する勇気は出てこない。


 お兄様とお義姉様のやり取りを沈痛の面持ちで眺めていると、私の隣にサッと黒い影が立つ。


「いや、予定通り開催しましょう」


 執務室に響いたのは重苦しい空気を吹き飛ばすような、ユーリス先生の良く通る声だった。


「な、危険過ぎます!まだ近くに他の魔物が潜んでいる可能性もあります」


 お兄様が椅子から立ち上がり、反論をする。


「先程、魔法で調べたところ領内に他の魔物の気配はありませんでした。それに、この地に魔物の発生しやすい条件は揃っていません」


「発生しやすい条件…?そんなもの聞いた事が、」


 困惑した様子のお兄様が疑問を口にする。


 私も聞いた事がないけど、この国で1番魔物を見てきているのは先生だし…


「瘴気は負の感情を媒介に、生物を支配し魔物に変化させます。大抵は恐怖や怒り、悲しみでしょうか。そういったものに動物や魔獣が晒されやすい場所が条件に該当します」


「恐怖や怒り…」


 お義姉様が先生が言ったことをポツリと復唱する。


 お義姉様がお育ちになったフェイリース領は我が国と隣国との間を隔てる山脈を背にしている。

もしかしたら、心当たりがあるのかもしれない。


「そうですね。やり方にもよりますので一概には言えませんが。食肉用の家畜を多く扱っている領や、狩を主な収入源としている地域、動物や魔獣を力で従わせるような場所。そういった所での発生が多い傾向にあります」


「それは!フェイリースで発生する可能性が高いと!そう、おっしゃっているも同じではありませんか…」


 やはり…。


 隣国との間にある山には野生動物や魔獣が多く生息しており、フェイリース領では狩猟が盛んだと習った。


 今まで凛とされていたお義姉様が不安げに瞳を揺らす。


「現状では、余程の事がない限り魔物への変化はありません。フェイリース辺境伯には「獣や魔獣をいたぶったり、執拗に追い回すことの無いよう領内に通達することをお勧めする」とお伝えください。大々的に公表すると国内に混乱をきたす可能性がありますので、ここでお話ししたことは一応ご内密にお願いします」


 全国民に公表すれば混乱した民が該当の領と争いになったり、領民が職業を放棄したりしかねない。

領地から領民が大量に逃げ出すことも考えられる。


そうなれば魔物が蔓延る前に経済が傾き、財政難で魔物を討伐することも、魔瘴石を浄化することも困難になる。


「わ、分かりました。伝えます」


「先日の対策会議で全領主に対して魔物への備えの徹底を通知すると共に、先程の話は該当の領の領主にのみ伝える方向で裁決されました。遅かれ早かれフェイリースのご領主殿には両方の通達が届くかと」


 な、なるほど。


先程から先生が機密事項っぽい話をガンガン話されるから大丈夫なのかな…?と思って聞いていたけど、既に決まっていることだったようだ。


「話を戻しますが…ヴィンデミア領は平地で葡萄畑が圧倒的に多く、森や山が少ない。恐らくですが、諦めの悪い狩人に追い回されて逃げて来た獣が変化したか、既に魔物化したものが他領から紛れ込んできた可能性が高いでしょう」


「は、はい」


「今後無いとは言えませんが、同じことが近日中に起こる可能性は極めて低い」


「なる、ほど」


 お兄様が完全に気圧されている…。


わ、分かりますお兄様。

私も魔物を屠った時の先生の表情が脳裏を掠めるせいか、先程から冷静に淡々とお話しされている先生が少し怖いです。


 ユーリス先生、会議中とかこんな感じなのかな…普段の朗らかな姿がとても恋しいです…。



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